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第298話〈意志を継ぐもの〉
しおりを挟む「どうだった?」
「はい。シグルト様のおかげで、自信はあります。」
「おぉー、すげぇな。って、なんで第4王子のおかげなンだ?」
「シグルト様が要点を教えてくださったので、勉強がはかどりました。」
「……へぇ、そうだったのか。」
「せっかくのご指導を裏切れませんから、何度も復習をしたのです。そうしたら、よく勉強したところばかり出題されていて、持ち時間が余ってしまいました。」
「そりゃ、すごいな。」
文官試験の翌日、恭介は執務室で作業をしながらユスラとの会話が盛り上がる。出来が良かったというユスラに対し、恭介は結果発表まで気が気ではない。伝票に目をとおしていると、ユスラが「そういえば」と、話を続けた。
「なんでも午前の会場に、黒髪の受験者がいらっしゃったとか。」
「うん? そうなのか?」
(それって、オレのことか……!?)
「ぼくは午後の部で受験したのですが、書類審査を待つあいだ、そんな流言を耳にしたのです。……キョースケさん以外にも、黒い髪の方がコスモポリテスにいるなんて、知りませんでした。」
恭介は「ふ、ふうん?」と、ギクシャクしながら反応を返す。第6王子に内緒で挑戦したものの、事前に計画を打ち明けていれば、ユスラのように勉強が有利に運んだ可能性は高い。ただでさえ、一発合格しなければ次回は2年後になってしまう。その時、恭介は30歳である。
(……試験会場にいた連中も、若いヤツばっかだったし、おじさんがポツンといたら目立つよな……。たぶん……)
自身が思うより恭介の容姿は若く見えたが、体力や気力の衰えは本人のみぞ知る不調である。
(あんなに勉強したのは、何年ぶりだろうな……。これで落第なんてオチは避けたいぞ! いやいや、満点はあり得なくても、ぜったい合格してるはずだ!!)
断言はできずとも、自信がないわけではない恭介は、キリッと、ユスラを見据えた。
「わっ!?」と、ユスラが驚く。しまったと思った恭介は、すぐさま「悪い」といって苦笑いした。伝票を手にしたユスラの頬が、カァッと赤くなる。
「キ、キョースケさんって、実はすごくかっこいいですよね。」
「うん? なんだよ、いきなり。」
「だ、だって、まっすぐ見つめられると、ぼくの心臓はドキドキします。ですから、同性から見ても、素敵な男の人です。」
「謙遜せずに、サンキューって云うところかな。ははっ。ユスラくんこそ、第4王子と、現状維持ってことはないンだろ?」
「え!? な、なんの話ですか?」
「おいおい、そこは大事だろう。文官になれば、シグルトはキミを側近に置く口実ができるんだぜ。情人としてじゃなく、堂々と室に連れ込むことができるんだ。必然的に距離感が近くなるだろ。……相手が共寝を要求してきたら、キミは拒むのか?」
「……そ、それは、……ですが、シグルト様には正妻がいらっしゃいますし……、ぼくなんかがお相手しなくても、他に見つけていただければと……、」
「本気で云ってる?」
真顔で指摘されたユスラは、複雑な感情を隠しきれず、サァッと青ざめた。恭介は同じ情人として、ユスラの気持ちを確認せずにはいられなかった。
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