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第5部
第88話
しおりを挟む丸太小屋の隠し扉(正しくは納戸)で弓矢を見つけた亮介とキールは、ソファ(ハイロの寝床)にすわっているミュオンへ声をかけた。
「ミュオンさん、見て、見て。弓矢が置いてあったよ」
『狩猟用みたいですね。微かですが、血のにおいがしてきます……』
「えっ、これって新品じゃないの?」
弓矢をテーブルのうえに手放した亮介は、胸のまえでパッと両手をひらいた。使用済みとは思わず、にわかに動揺した。ピョンッと、ソファ(ミュオンのとなり)へ飛び乗ったキールは、ほんの少し顔をしかめた。
「けっ、前の住人は、こいつで小動物を狩ってたのか」
『……前の住人』
キールのことばに、こんどはミュオンが顔をしかめた。
(ミュオンさんは、何番目の水の精霊なんだろう……。ずっと前に、同じ名前の精霊がいて、人間の男性と結ばれて、子どもまで生んでいる。それから、精霊は何度も分化して、どれくらい経ったのかな……)
森の記憶を垣間見た亮介は、遠い昔から存在している水の精霊とミュオンが、同一個体だと認識していた。ただし、似ている部分は容姿だけにつき、目の前のミュオンは新しい形態素で、過去の記憶は取り除かれている。だが、亮介とハイロは、ミュオンの生様が幻劇のごとく脳裏に焼きついていた。
(なんか、見ちゃいけないものを見てしまった気分だし……、いきなり本人に切り出しても、びっくりする内容だよね……)
なにより、今のミュオンはハイロとの関係が複雑すぎて、過去について考える余裕などない。亮介的には、半獣属であろうと精霊であろうと、人型時のふたりはお似合いだと思った。
(ミュオンさんはきれいだし、ハイロさんはかっこいいし、ふたりのあいだに子どもができたら、どっちに似ても、きっと最高だろうなぁ)
もし女の子が産まれたら、かわいい妹のように思えてしまう亮介は、顔の筋肉が、ふにゃっとゆるんだ。男の子が誕生したとしても、自分のほうが兄という立場に変わりはない。丸太小屋に集った者たちは、みんな家族である。少なくとも、亮介はそう思った。
(ふしぎだな。僕はもう、ずっとこの森にいたみたい……)
異世界に、8歳児となって飛ばされた現象に意味があるとすれば、やはり、亮介とこの森には、切っても切れない縁があるはずだ。ミュオンの件も含め、すべて他人事として傍観するわけにはいかない。亮介には、誰よりも重要な使命があるのだ。
★つづく
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