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第5部
第87話
しおりを挟む※キツネとクマのお話です
ミュオンに逃走された大熊は、次なる機会を慎重にうかがっていた。無計画に丸太小屋を襲撃しても、意味がない。ハイロへの一方的な嫌悪感が今にも爆発しそうなクマは、おもむろに樹木を叩きつけ、爪痕を残した。
「兄者……」
いきり立つクマを、心配そうに見つめるキツネは、ふと、足をとめた。赤いヘビイチゴが、ポトリと落ちている。バラ科の植物で、茎は地面をはうように長く伸びる。蛇がでそうな草地に生えているため、ヘビイチゴという名前がつけられていた。見た目は小さな赤い果実だが、実際、蛇はイチゴを食べることはない。似たような品種で、ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)という植物も存在する。花も葉も、ヘビイチゴそっくりだが、後者はキジムシロ属の多年草である。
キツネはヘビイチゴを手に取ると、毒性はないため、ぱくりと食べた。見た目の鮮やかさとは裏腹に、ボソボソとした食感で青臭い味である。キツネは迷信を気にして辺りを見まわすが、先をゆく大熊は、なんの迷いもなく川の上流を目ざした。
「兄者、浄化をするんで?」
亮介たちが禊をした付近までたどり着いた大熊は、バシャバシャと水のなかにはいった。獣族特有のにおいを消すため、大熊は頭から水に浸かり、念入りにからだを洗っている。ぼんやり見ていたキツネも、あとから自己浄化に参加した。本日は晴天につき、濡れたからだはすぐに乾いた。
「はあ~、ふつうに気持ちいいっスね。さっぱりしやした」
水気のある体毛をペロペロと舐めていうキツネは、さきほどから無口な大熊がなにを考えているのかわからず、眉をひそめた。同族嫌悪にはじまり、精霊の捕食を意気込むクマの表情は、いつも険しい。せめて、もっと楽しいことに気をとられていたほうが、クマにとって健康的な日常が送れるはずなのに、なぜか自ら難題ばかり抱えこんでいるように思えた。
「……生涯、ずっと笑って過ごせたら、どんなにいいかねぇ」
キツネは、ボソッとつぶやいた。弱肉強食の自然界を生きる野生動物類に含まれる半獣属だが、第三の知性を手に入れたことで、言語活動が可能となり、対峙した相手と問答し、新たな道を創造できるようになった。思考の停止は、すなわち、誤解や衝突の原因となるが、頭のなかで考えていることを言語化するのは、意外とむずかしい。
キツネの懸念が伝わったのか、クマは小さくため息を吐いた。
★つづく
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