異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒

文字の大きさ
87 / 171
第5部

第87話

しおりを挟む

※キツネとクマのお話です


 ミュオンに逃走された大熊クマは、次なる機会を慎重にうかがっていた。無計画に丸太小屋を襲撃しても、意味がない。ハイロへの一方的な嫌悪感が今にも爆発しそうなクマは、おもむろに樹木を叩きつけ、爪痕を残した。

「兄者……」

 いきり立つクマを、心配そうに見つめるキツネは、ふと、足をとめた。赤いヘビイチゴが、ポトリと落ちている。バラ科の植物で、茎は地面をはうように長く伸びる。蛇がでそうな草地にえているため、ヘビイチゴという名前がつけられていた。見た目は小さな赤い果実だが、実際、蛇はイチゴを食べることはない。似たような品種で、ヤブヘビイチゴ(藪蛇苺)という植物も存在する。花も葉も、ヘビイチゴそっくりだが、後者はキジムシロ属の多年草である。

 キツネはヘビイチゴを手に取ると、毒性はないため、ぱくりと食べた。見た目の鮮やかさとは裏腹に、ボソボソとした食感で青臭い味である。キツネは迷信を気にして辺りを見まわすが、先をゆく大熊は、なんの迷いもなく川の上流を目ざした。


「兄者、浄化をするんで?」

 
 亮介たちが禊をした付近までたどり着いた大熊は、バシャバシャと水のなかにはいった。獣族けもの特有のにおいを消すため、大熊は頭から水に浸かり、念入りにからだを洗っている。ぼんやり見ていたキツネも、あとから自己浄化に参加した。本日は晴天につき、濡れたからだはすぐに乾いた。


「はあ~、ふつうに気持ちいいっスね。さっぱりしやした」


 水気みずけのある体毛をペロペロと舐めていうキツネは、さきほどから無口な大熊がなにを考えているのかわからず、眉をひそめた。同族嫌悪にはじまり、精霊の捕食を意気込むクマの表情は、いつも険しい。せめて、もっと楽しいことに気をとられていたほうが、クマにとって健康的な日常が送れるはずなのに、なぜか自ら難題ばかり抱えこんでいるように思えた。


「……生涯、ずっと笑って過ごせたら、どんなにいいかねぇ」


 キツネは、ボソッとつぶやいた。弱肉強食の自然界を生きる野生動物類に含まれる半獣属だが、第三の知性を手に入れたことで、言語活動が可能となり、対峙した相手と問答し、新たな道を創造できるようになった。思考の停止は、すなわち、誤解や衝突の原因となるが、頭のなかで考えていることを言語化するのは、意外とむずかしい。

 キツネの懸念が伝わったのか、クマは小さくため息を吐いた。


★つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...