異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬

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幕開け

第12話

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「ハイロさんって実は、きぐるみだったりして……」

 起き抜けに亮介が発した科白せりふに、枕もとで丸くなっていたキールが、「ブハッ」と吹いた。

「きぐるみって、あれだろ。なかに人間ひとが入って動くやつ」 

「そう。よく知ってるね」

 キールは物知りで、会話がスムーズに進行する。

「にしても、なんでいきなり、ハイロのダンナが人間だと思ったんだ? 大熊の生まれはこの森だし、半獣属でまちがいないぞ」

「……そっか。やっぱり、みんなのほうが現実なんだ」
 
 亮介が「ふわぁ」と欠伸あくびをもらすと、キールは「寝ボケてるのか?」と呆れ、会話を終了した。

 
 昨晩、おかしな夢を見た亮介は、高校生活に未練があるのかもしれない。

(……僕も、鳥みたいに空を飛べたらいいなって、ときどき思ったりするけれど、半獣属のみんなも、人間にあこがれたりするのかなぁ?)

 ニッシュの掛け布団をたたみ、ベッドからおりた亮介は、編みカゴの学ランへ目をめた。夢だとわかっていても、弁当の件は気になった。

(食べずに捨てただなんて、つくったひとが知ったら傷つくよね……。僕は、なんてひどいことを……)

 おいしく食べてこそ、料理をした甲斐かいがある。みんなに止められたが、せめてひと口でも食べておけばよかったと後悔した亮介は、しばらくぼんやりした。それから、近くにミュオンとキールがいないすきに着がえをすませた。


(パンツがほしい……)

 
 股のあいだがスースーする亮介は、貴重なニッシュの樹皮を伝統下着ふんどしとして使うべきか、真剣に悩んだ。ふと、となりの部屋から甘いにおいがしてくる。

「キール、なにしてるの?」

 テーブルに大きな葉っぱをひろげ、いくつかの果物を木の棒でつぶして混ぜるキールは、「おいらの特製だ。こうすると、うまくなるンだぜ」という。しかし、赤いものがぐちゃぐちゃしているだけで、とてもおいしそうには見えない。

(スムージーっぽいけど、色がイマイチで、食欲わかないなぁ……)

 構造物による移動制限を受けないミュオンは、音もなく、スゥッと壁をとおりぬけてきた。庭先で日光浴をしていたようだ。キールが混ぜるどろどろの赤い液体を見るなり、顔をしかめた。

『……今から朝ご飯ですか?』

「うん。おはよう、ミュオンさん」

『おはようございます』

 食事をとる必要のないミュオンさえ、キールの鼻歌にため息を吐く。亮介が苦笑すると、キールは「見てろよ」といって、ガラス瓶のコルク栓を抜いた。

「これを使うぜ!」

 赤く液状化した果物に、ドロッとしたはちみつを加えると、果汁の色素が変化した。赤から淡い水色になり、部分的にピンクやムラサキにもなる。カラフルなゼリーのような見た目に、亮介は「わっ、きれい」と、思わず声がでた。

(理科の実験みたいだ!)

「よし、完成。いい感じにできたぜ」

 コップに半分わけてもらった亮介は、早速「いただきます」といって、ひと口飲む。冷えていれば、さらにおいしく感じるミックスジュースだが、それぞれの風味がさわやかで、はちみつ効果でラズベリーの酸味がまろやかになっている。

 亮介はゴクゴクと一気に飲み、「おかわり!」と、勢いで言いそうになった。かぎりある食糧を、ほしいままに消費するわけにはいかない。


「あっ、もうじきハイロさんがくる時間だ」

 
 ガラス窓をすり抜けて差しこむ朝陽は、まぶしくて、あたたかい。亮介は庭にでて、ハイロの到着を待った。

 いつもそばにいるミュオンやキールと異なり、ハイロの私生活は謎に包まれている。丸太小屋の持ち主(以前の住人)や、ハイロ自身の日常ついて、亮介は質問したいことがたくさんあった。


★つづく
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