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幕開け
第11話
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※挿話です
斗馬亮介が通う私立高校は、右を見ても少年、左を見ても男子、教員も男性ばかりだった。女子生徒はひとりもいない。つまり、男子校である。
短髪でツンツン頭のハイロは、やや筋肉質な体格をした番長ふぜいで、生徒会長のミュオンは、シュッとした細身の美形で、いかにも利発そうな顔をしたイタズラ大将っぽいキールの3人は、それぞれ手足の長さに合う学ランを着こなしていた。
「やい、リョースケ。早くしないと焼きそばパンが売り切れるぞ!」
(いいね、焼きそば。異世界でも、つくりたいな。……ソースや麺がないか。野菜なら、苗とか種さえあれば育てられるけど、収穫するまで時間がかかるよね……)
「これ、キール、リョウスケくんはコロッケサンド派ですよ」
と、銀色の長髪を揺らしながら首をふるミュオン。
(コロッケかぁ。パン粉や油がないから、さすがにそれは無理かな。じゃがいもは、探せばあったりして……)
「おい、おまえら。購買部へ行くなら、ついでにコーヒー牛乳を1本たのむ」
と、ハイロ番長が銭を投げてよこす。
空中でパシッと受けとったのは、「おうよ!」と答えるキールだ。
(パンには牛乳が合うよね。僕はフルーツ牛乳のほうが好きだなぁ……)
なぜか人型の姿(それも同じ高校の先輩と後輩という設定)で会話する半獣と精霊と亮介の関係は、友だち同士である。
(年齢とか、好きな食べものとかちがっても、いっしょに楽しく過ごせる仲間がいるのって、すごくしあわせなことだよね……)
「やいやい、リョースケ。なに、ボサッとしてるのさ。おまえも来いよ。コロッケサンドは人気商品だから、早くしないと無くなるぞ」
キールは、教室のドアを開けながら言った。先に廊下へでたミュオンが、「リョウスケくんには、お弁当がありますよ」といって指をさす。
(あれ、ホントだ。いつの間に……)
亮介は、楕円形のお弁当箱を手にもっていた。自分で料理した覚えはないため、誰がつくったのか不明である。そもそも、これは夢である。ミュオンもハイロもキールも、人間ではない。
(……これって、どっちが夢?)
8歳児になった亮介の世話をやく半獣と精霊が夢を見ているのか、または、高校生の亮介が異世界という非現実的な空間を想像しているのか、妙な感覚に陥った。
「リョースケ?」と、キール。
「リョウスケくん」と、ミュオン。
「どうした」と、ハイロの低い声。
(な、なにこれ、急に頭がクラクラしてきた……)
激しいめまいに襲われた亮介は、3人が差しのべた手を取ろうとして、弁当箱を床へ落としてしまった。ガチャンッ。
(ブロッコリー、タコさんのウインナー、玉子焼き……)
ゴロゴロと中身が転がり、足もとに飛び散った白米は、桜の花びらのように見えた。
(どうしよう……、僕のお弁当……。せっかく、誰かがつくってくれたのに……)
亮介は床に膝をつき、ふるえる指でつぶれたトマトを拾うと、それを口へ運ぼうとした。
「よせ」と、ハイロに制される。
「で、でも、まだ、食べれるよ……。もったいない……」
「気持ちはわかるけどさ、みんなが土足で歩きまわる床のうえだぜ」
キールのことばに、ミュオンがうなずく。
「衛生的に、よろしくはありませんね。そのお弁当は、あきらめてください。代わりに、わたしが、コロッケサンドとフルーツ牛乳を買ってきましょう」
「……あ、ありがとう」
ミュオンとキールが購買部へ向かうと、亮介はハイロとふたりで床を片付けた。
「残念だったな」
静かに、そうつぶやくハイロは、気落ちする亮介をなぐさめたつもりだが、弁当を用意した人物をあわれむ感情も含まれていた。
★つづく
斗馬亮介が通う私立高校は、右を見ても少年、左を見ても男子、教員も男性ばかりだった。女子生徒はひとりもいない。つまり、男子校である。
短髪でツンツン頭のハイロは、やや筋肉質な体格をした番長ふぜいで、生徒会長のミュオンは、シュッとした細身の美形で、いかにも利発そうな顔をしたイタズラ大将っぽいキールの3人は、それぞれ手足の長さに合う学ランを着こなしていた。
「やい、リョースケ。早くしないと焼きそばパンが売り切れるぞ!」
(いいね、焼きそば。異世界でも、つくりたいな。……ソースや麺がないか。野菜なら、苗とか種さえあれば育てられるけど、収穫するまで時間がかかるよね……)
「これ、キール、リョウスケくんはコロッケサンド派ですよ」
と、銀色の長髪を揺らしながら首をふるミュオン。
(コロッケかぁ。パン粉や油がないから、さすがにそれは無理かな。じゃがいもは、探せばあったりして……)
「おい、おまえら。購買部へ行くなら、ついでにコーヒー牛乳を1本たのむ」
と、ハイロ番長が銭を投げてよこす。
空中でパシッと受けとったのは、「おうよ!」と答えるキールだ。
(パンには牛乳が合うよね。僕はフルーツ牛乳のほうが好きだなぁ……)
なぜか人型の姿(それも同じ高校の先輩と後輩という設定)で会話する半獣と精霊と亮介の関係は、友だち同士である。
(年齢とか、好きな食べものとかちがっても、いっしょに楽しく過ごせる仲間がいるのって、すごくしあわせなことだよね……)
「やいやい、リョースケ。なに、ボサッとしてるのさ。おまえも来いよ。コロッケサンドは人気商品だから、早くしないと無くなるぞ」
キールは、教室のドアを開けながら言った。先に廊下へでたミュオンが、「リョウスケくんには、お弁当がありますよ」といって指をさす。
(あれ、ホントだ。いつの間に……)
亮介は、楕円形のお弁当箱を手にもっていた。自分で料理した覚えはないため、誰がつくったのか不明である。そもそも、これは夢である。ミュオンもハイロもキールも、人間ではない。
(……これって、どっちが夢?)
8歳児になった亮介の世話をやく半獣と精霊が夢を見ているのか、または、高校生の亮介が異世界という非現実的な空間を想像しているのか、妙な感覚に陥った。
「リョースケ?」と、キール。
「リョウスケくん」と、ミュオン。
「どうした」と、ハイロの低い声。
(な、なにこれ、急に頭がクラクラしてきた……)
激しいめまいに襲われた亮介は、3人が差しのべた手を取ろうとして、弁当箱を床へ落としてしまった。ガチャンッ。
(ブロッコリー、タコさんのウインナー、玉子焼き……)
ゴロゴロと中身が転がり、足もとに飛び散った白米は、桜の花びらのように見えた。
(どうしよう……、僕のお弁当……。せっかく、誰かがつくってくれたのに……)
亮介は床に膝をつき、ふるえる指でつぶれたトマトを拾うと、それを口へ運ぼうとした。
「よせ」と、ハイロに制される。
「で、でも、まだ、食べれるよ……。もったいない……」
「気持ちはわかるけどさ、みんなが土足で歩きまわる床のうえだぜ」
キールのことばに、ミュオンがうなずく。
「衛生的に、よろしくはありませんね。そのお弁当は、あきらめてください。代わりに、わたしが、コロッケサンドとフルーツ牛乳を買ってきましょう」
「……あ、ありがとう」
ミュオンとキールが購買部へ向かうと、亮介はハイロとふたりで床を片付けた。
「残念だったな」
静かに、そうつぶやくハイロは、気落ちする亮介をなぐさめたつもりだが、弁当を用意した人物をあわれむ感情も含まれていた。
★つづく
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