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第一部
原罪の箱庭⑽
しおりを挟む現在のアセビは、朝晩と食事を運んでくるクオンと、1日中紫寝殿に身をおくシルキの目があり、行動を監視されていた。
(ここ数日、変わった動きはないな。毎晩のように、男を相手にせねばならぬのかと思ったが……)
囚われの身となった今、むやみに動かず、なるべく従順なふりを演じるアセビだが、ジュリアンの奪還をあきらめていなかった。
(やはり、どうにかして寝所を抜けだせないものか……)
寝台の上で思考をめぐらせていると、クオンがやってきた。
「あっ、クオンさんだ、こんばんは!」
「よ、シルキ」
「わぁ、いい匂い! きょうは汁飯なんですね」
「おまえは肉が好きだったな」
「はい、栄養たっぷりで大好きです」
クオンとシルキは知り合いのようで、顔を合わせるたび自然な会話が発生した。また、恩女と共に1日2食の生活を送るシルキだが、成長過程にある骨格が脆弱そうに見えるため、アセビは箸を持つと自分の皿から肉を取り、少年の汁飯へ追加した。
「シルキ、食べながらでいいから聞け。今夜はおれの部屋に来い。それと、リュンヌは寝ずに待っていろ」
(……起きている理由は、ただひとつ。恩女の仕事が入ったのだな)
汁飯を口へ運ぶアセビの表情は翳り、箸を動かす手をとめた。拒否権を持たないため、「わかった」と頷き、残りをシルキに譲った。
(……今夜は誰が呼ばれたのだ? わたしが相手にする男を、クオンは知っているのか?)
空になった食器を膳にまとめるクオンの横顔は、いつもと変わらず涼しげに見えた。また、いつの間にか敬語をやめ、リュンヌの名を呼び捨てるようになっている。
(最初から無礼な男であったが、こうして見ると、意外と端正な顔だちをしているな……)
じっくり観察していると、視線に気がついたクオンと目が合った。
「どうかしたか」
「え?」
「何か訊きたければ、どうぞ」
「べつになにも……」
アセビが顔を横向けると、クオンはシルキに膳を持たせ、先に退出させた。続いて、備え付けの収納棚から、消毒液の瓶と綿を取りだす。
(また、クオンに肌を晒すのか)
アセビは、医官とふたりきりの状況を気重に感じつつ、自ら帯を解き、下着を脱ぐ。寝台の上で股をひらくと、クオンが膣に指を挿入し、綿を詰めた。
「……うっ」
「おまえさんは、ここが弱いらしいな」
「よ、よさぬか!」
「気持ちいいくせに」
「や、やめろ!」
「力を抜け。このまま続けるぞ」
「なに? まさか、きさまが相手なのか!?」
「今夜は、リヤンがおまえを抱きにくる。おれとは前戯のみだ」
「リヤン……、皇帝のことか?」
「他に誰がいる」
「……あっ、んんっ!」
アセビの恥部は、愛液で濡れてゆく。クオンの指づかいに呼吸が乱れ、手足から力が抜け落ちた。
「そろそろかな。……待たせたな、リヤン」
準備が整うと、扉がひらき、皇帝が姿をあらわした。「ハァハァ」と肩で息をするアセビへ視線を向け、クオンに「去れ」と短く命じる。
✓つづく
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