月冴ゆる離宮

み馬

文字の大きさ
上 下
10 / 66
第一部

原罪の箱庭⑽

しおりを挟む

 現在のアセビは、朝晩と食事を運んでくるクオンと、1日中紫寝殿ししんでんに身をおくシルキの目があり、行動を監視されていた。

(ここ数日、変わった動きはないな。毎晩のように、男を相手にせねばならぬのかと思ったが……)

 囚われの身となった今、むやみに動かず、なるべく従順なふりを演じるアセビだが、ジュリアンの奪還をあきらめていなかった。

(やはり、どうにかして寝所ここを抜けだせないものか……)

 寝台の上で思考をめぐらせていると、クオンがやってきた。

「あっ、クオンさんだ、こんばんは!」
「よ、シルキ」
「わぁ、いい匂い! きょうは汁飯しるめしなんですね」
「おまえは肉が好きだったな」
「はい、栄養たっぷりで大好きです」

 クオンとシルキは知り合いのようで、顔を合わせるたび自然な会話が発生した。また、恩女と共に1日2食の生活を送るシルキだが、成長過程にある骨格が脆弱ぜいじゃくそうに見えるため、アセビは箸を持つと自分の皿から肉を取り、少年の汁飯へ追加した。

「シルキ、食べながらでいいから聞け。今夜はおれの部屋へやに来い。それと、リュンヌ、、、、は寝ずに待っていろ」

(……起きている理由は、ただひとつ。恩女の仕事が入ったのだな)

 汁飯を口へ運ぶアセビの表情はかげり、箸を動かす手をとめた。拒否権を持たないため、「わかった」とうなずき、残りをシルキに譲った。

(……今夜は誰が呼ばれたのだ? わたしが相手にする男を、クオンは知っているのか?)

 カラになった食器を膳にまとめるクオンの横顔は、いつもと変わらず涼しげに見えた。また、いつの間にか敬語をやめ、リュンヌの名を呼び捨てるようになっている。

(最初から無礼な男であったが、こうして見ると、意外と端正たんせいな顔だちをしているな……)

 じっくり観察していると、視線に気がついたクオンと目が合った。

「どうかしたか」
「え?」
「何かきたければ、どうぞ」
「べつになにも……」

 アセビが顔を横向けると、クオンはシルキに膳を持たせ、先に退出させた。続いて、備え付けの収納棚から、消毒液の瓶と綿を取りだす。

(また、クオンに肌をさらすのか)

 アセビは、医官とふたりきりの状況を気重に感じつつ、自ら帯をほどき、下着を脱ぐ。寝台の上で股をひらくと、クオンが膣に指を挿入し、綿を詰めた。

「……うっ」
「おまえさんは、ここが弱いらしいな」
「よ、よさぬか!」
「気持ちいいくせに」
「や、やめろ!」
「力を抜け。このまま続けるぞ」
「なに? まさか、きさまが相手なのか!?」
「今夜は、リヤンがおまえを抱きにくる。おれとは前戯のみだ」
「リヤン……、皇帝のことか?」
「他に誰がいる」
「……あっ、んんっ!」

 アセビの恥部は、愛液で濡れてゆく。クオンの指づかいに呼吸が乱れ、手足から力が抜け落ちた。

「そろそろかな。……待たせたな、リヤン」

 準備が整うと、扉がひらき、皇帝が姿をあらわした。「ハァハァ」と肩で息をするアセビへ視線を向け、クオンに「去れ」と短く命じる。


✓つづく
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

三鏡草紙よろづ奇聞

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

改造空母機動艦隊

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:7,784pt お気に入り:96

【R18】王と王妃は側妃をご所望です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:1,075

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:13,058pt お気に入り:10,701

その手に、すべてが堕ちるまで 孤独な半魔は愛を求める

BL / 完結 24h.ポイント:525pt お気に入り:2,336

白家の冷酷若様に転生してしまった

BL / 完結 24h.ポイント:718pt お気に入り:1,366

美容講座は呑みながら

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:19

【完結】致死量の愛を飲みほして【続編連載中】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:126

致死量の愛と泡沫に

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:3,295pt お気に入り:72

処理中です...