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幕開け
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しおりを挟む着々と試合が進み、残すところあと決勝戦のみとなった上級部門。今はグラウンドの整備も含め休憩の時間となっている。僕はお兄ちゃんと散歩がてらスタジアムの中を歩き回っている。
「メルロス殿下すごかったね!」
「あぁ。試合を重ねるごとに火力が強くなるなんて…。体力が底なしだな。」
「それに決勝戦まで行っちゃうなんて!このまま優勝しちゃうかもしれないね。」
「メルロス殿下ほどの実力ならば不可能ではないな。」
「でも、きっと相手の子も強いんだろうな…。」
「そうだ…。!!」
不意にお兄ちゃんの言葉が途切れる。何が起きたんだろうとお兄ちゃんのほうを見ると、目を見開いて固まっている。その視線の先を見ると、シャーマール先生とエドガー先生、それにリカード=フォルストさんがいた。
…あぁ、これはちょっとまずいかも…。
「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「………。」
だめだ、突然のあこがれの人の登場で固まってる…。お兄ちゃんの顔の前で手を振ってみるも、反応なし。え、立ったまま気絶してるとかないよね…?
そうこうしているうちに、先生たちの方から声をかけてくれた。
「おや、アラン君とアルス君じゃないか。」手を振りながらこちらのほうに来てくれるシャーマール先生。
「こんなところで会うなんて奇遇だね~。」
「シャーマール先生、エドガー先生こんにちは。それと、えっと…リカード=フォルスト様ですよね。初めましてアルス=シューベルトと言います。こっちは兄のアラン=シューベルトです。」そういってお兄ちゃんを小突く。
「あ…。は、初めまして!アラン=シューベルトと申します!」
「そうか、君たちがシューベルト兄弟か!初めましてだね。アルス君の言う通り、僕がリカード=フォルストだよ。気軽にリカードさんとでも呼んでくれないかな?僕はそっちのほうが慣れてるから。」
リカードさんは、かなり物腰の柔らかい人だった。話していて本当に心優しい人なんだろうなって節々に感じる。それにびっくりするほどシャーマール先生と似ている。こうして横に並んでいるのを見ると違うところが髪が長いか短いかくらいだった。
「わ、分かりました。り、リカードさん…。」
「うん!それと、アラン君。」
「は、はい!」お兄ちゃんの声がちょっと裏返っている。緊張しているな。
「研究では僕の弟がお世話になったね。君の話はシャーマールからよく聞いてるよ。非常に優秀だと。」
「あ、そう、なんですね…。」
「アラン君、兄さんの大ファンなんだ。小さい頃から兄さんに関する本は暗記するほど読んでたし、たぶん兄さんに関しては彼の右に出るものはいないんじゃないかな…。」
ちら、とお兄ちゃんの方を見る。顔は相変わらず真顔なんだけれども、耳が赤い。
「ほんとうに?なんだかうれしいなぁ。」
「そうだ。兄さんアラン君にサインを書いてあげてよ。兄さんのサインが欲しいってアラン君常々言ってたんだ。」
「そうなの?僕のサインでよければいくらでも書くよ!何か紙と書くもの持ってない?」
「あ、いやえっと…。」
「あぁ!あります!ちょっと待ってくださいね…。」
そう言い、僕はお兄ちゃんが肩にかけているカバンから『英雄観』というリカードさんの考え方や価値観が書かれてある本とペンを取り出した。僕、お兄ちゃんが何かの拍子でリカードさんのサインもらえないかなって、一応用意していたの知ってるんだから。
無事にサインを書いてもらい、休憩時間も終わりそうということで僕たちは観客席に戻った。お兄ちゃんは決勝戦が始まるギリギリまで、リカードさんのサインが書かれた個所をずっと眺めていた。
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