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幕開け
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「結局、昨日はメルロス殿下が優勝したのね。」順位表を確かめながらリーンが聞いてくる。
「う、うん…。そうなんだけど…。」
「ん、なんでそう釈然としないんだ?」僕の反応をみて訝し気な表情を浮かべながらシンも聞いてくる。
「なんでって…。うーん…。」
「誰に聞いても同じような反応されるんだよね…。昨日何があったの?」首をコテンとかしげながら聞いてくるソーン君。
昨日の決勝戦、つまりは上級部門の決勝戦はメルロス殿下の勝利で終わった。…終わったのだけれども…。
「うーん…。なんていうか、決勝が始まるまでは会場全体がものすごく盛り上がってたんだよ。メルロス殿下もその対戦相手も体力と実力も底なしでお互い結構派手に戦うタイプだったし、魔術の属性が火と水で相反してたから、みんなどんなふうに戦うのか、どっちが勝つのかで白熱してたんだよね。属性的に有利な水が勝つんじゃないか、いやそれを凌駕する魔術量を殿下は持っているんだ!、みたいな感じで。とにかく決勝戦が始まる前まではみんなすごく興奮してたんだよ。」
「じゃあ、なんでなおさらあんな微妙な反応してるの?」
「それが、えっとね…。始まってすぐ決着が着いちゃったからなんだよね。」僕は昨日の決勝戦を思い返す。
決勝戦が始まる前、会場の盛り上がりは最高潮だった。その前の準決勝では地面のいたるところが抉れてしまうほど激しい戦いだったが、それを上回る戦いを見せてくれるのではないかと観客の期待も上がりに上がっていた。
…しかし、いざ試合が始まると、ものの5秒で決着がついたのだ。分、とかじゃない。秒で終わったのだ。しかも両者とも一切魔術を使うことなく。
「こう、さ。審判の人が試合開始の合図するじゃん。そしたらメルロス殿下が対戦相手の子に真っ先に突進していったんだよ。それで、もちろん相手の子は避けるじゃん。でもメルロス殿下はすぐに反応してその子の腕をつかんだんだよね。」
「おぉ、いきなりチャンスだな。そこで魔術を使えばだいぶ有利になるんじゃ?」
「うん。あれは誰もがそう思ってたよ。でもね、殿下魔術使わなかったの。その代わり、」
「その代わり?」
「関節技決めてた。」
一瞬の出来事だった。
対戦相手の腕をつかんだ殿下はそのまま相手の背後に回り込んでそのまま倒れこみ、いわゆる十字固めを決めていたのだ。
「あの時、観客席にいた人たちはみんなもっと激しい戦いを想像していたと思うんだよ。でもそれに比べてあまりにもあっさり決着がついちゃったから、終わった瞬間も歓声よりどよめきのほうが大きかったしね。」
「うわぁ、なんとなく想像つくよ…。あのメルロス殿下だもん。結構満足げにやってたんじゃない?」顔をしかめながらソーン君が言う。
「うん。終わった時、してやったりみたいな顔してたよ。でもその後カルロ殿下にものすごく怒られてた。『お前はその極端になる癖を改めろ。』って。」
「なるほどね…。だからあんな微妙な反応をしてたのね…。」
「みんな、それが決勝だっただなんてにわかに信じがたいんだろうね。」
「多分…。」
僕たちは釈然としな気持ちを共有したまま観客席へと向かった。
「う、うん…。そうなんだけど…。」
「ん、なんでそう釈然としないんだ?」僕の反応をみて訝し気な表情を浮かべながらシンも聞いてくる。
「なんでって…。うーん…。」
「誰に聞いても同じような反応されるんだよね…。昨日何があったの?」首をコテンとかしげながら聞いてくるソーン君。
昨日の決勝戦、つまりは上級部門の決勝戦はメルロス殿下の勝利で終わった。…終わったのだけれども…。
「うーん…。なんていうか、決勝が始まるまでは会場全体がものすごく盛り上がってたんだよ。メルロス殿下もその対戦相手も体力と実力も底なしでお互い結構派手に戦うタイプだったし、魔術の属性が火と水で相反してたから、みんなどんなふうに戦うのか、どっちが勝つのかで白熱してたんだよね。属性的に有利な水が勝つんじゃないか、いやそれを凌駕する魔術量を殿下は持っているんだ!、みたいな感じで。とにかく決勝戦が始まる前まではみんなすごく興奮してたんだよ。」
「じゃあ、なんでなおさらあんな微妙な反応してるの?」
「それが、えっとね…。始まってすぐ決着が着いちゃったからなんだよね。」僕は昨日の決勝戦を思い返す。
決勝戦が始まる前、会場の盛り上がりは最高潮だった。その前の準決勝では地面のいたるところが抉れてしまうほど激しい戦いだったが、それを上回る戦いを見せてくれるのではないかと観客の期待も上がりに上がっていた。
…しかし、いざ試合が始まると、ものの5秒で決着がついたのだ。分、とかじゃない。秒で終わったのだ。しかも両者とも一切魔術を使うことなく。
「こう、さ。審判の人が試合開始の合図するじゃん。そしたらメルロス殿下が対戦相手の子に真っ先に突進していったんだよ。それで、もちろん相手の子は避けるじゃん。でもメルロス殿下はすぐに反応してその子の腕をつかんだんだよね。」
「おぉ、いきなりチャンスだな。そこで魔術を使えばだいぶ有利になるんじゃ?」
「うん。あれは誰もがそう思ってたよ。でもね、殿下魔術使わなかったの。その代わり、」
「その代わり?」
「関節技決めてた。」
一瞬の出来事だった。
対戦相手の腕をつかんだ殿下はそのまま相手の背後に回り込んでそのまま倒れこみ、いわゆる十字固めを決めていたのだ。
「あの時、観客席にいた人たちはみんなもっと激しい戦いを想像していたと思うんだよ。でもそれに比べてあまりにもあっさり決着がついちゃったから、終わった瞬間も歓声よりどよめきのほうが大きかったしね。」
「うわぁ、なんとなく想像つくよ…。あのメルロス殿下だもん。結構満足げにやってたんじゃない?」顔をしかめながらソーン君が言う。
「うん。終わった時、してやったりみたいな顔してたよ。でもその後カルロ殿下にものすごく怒られてた。『お前はその極端になる癖を改めろ。』って。」
「なるほどね…。だからあんな微妙な反応をしてたのね…。」
「みんな、それが決勝だっただなんてにわかに信じがたいんだろうね。」
「多分…。」
僕たちは釈然としな気持ちを共有したまま観客席へと向かった。
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