君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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「ねぇねぇ、ソーン君この問題なんだけど…。」
「うん?どれどれ…。」

 リーンがソーン君に質問をしている。ちょっと気になって僕ものぞいてみる。あれ、このグラフって…。

「先生が試験勉強用でくれたやつなんだけど、この降雨量のグラフだと『寒冷期に多くなる。』に合わなくない?」
「ああ!それはね…「そもそも載ってるグラフが違う…。」そう!……ん…え?」……あれ…?
「アルって…この授業取ってたっけ…?」…あれれ…。
「ぁ…いや!えっと…取ってない!取ってないけど!なんか、その……そう!自習室でそう言ってる人を見たんだよ!」
「なんだ、そうだったのね…。」
「…。」

 なんで、僕プリントに載ってるグラフが先生のミスで違うものになってるって知ってたんだろう…。
 …最近こういうの増えてきたな…。初めて行く教室のはずなのに空調が効きすぎない席を知っていたり、初めて話す人なのにどこか懐かしさを覚えたり…。終いには経験したことのない記憶みたいなものが断片的に浮かんでくる始末…。疲れている、のか…?








「疲れたー!!」
「でも、今日すごく捗った気がするわ!テオ君があんなに教えるの上手だなんて…。やっぱり先生が二人もいると違うわね…。」
「そうだね。」
 勉強も終わり、僕たちは寮の自室へと帰っている。テオ君は少し用事があるとか言ってどこかに行っちゃったけど、大丈夫かな…?
「捗ったとはいえ、やっぱ勉強はやだな…。あと少しすれば試験も始まっちまうし…。」
「まぁ、でも試験が終わったら夏祭りって考えたらちょっとは頑張れそうじゃない?」
「それは一理あるかも。」
「あ、夏祭りといえばさ、ソーン君気を付けないとだね。」
「気を付けるってどういうこと?」
「え、だってソーン君夏祭りに…あれ…。」...僕なんて言おうと…?
「まぁ、夏祭りは人が多いからね…。実家に帰るにしても大変そうよね。特に今回はリリーシュ殿下の誕生日のこともあるし。」
「確かにな。あ、じゃあ俺たちはこっちだから!じゃあなリーン!」
「えぇ、じゃあね。」
「ばいばい!」






 ソーンside

 部屋に入り電気をつける。持って行った荷物を机に置き、ベッドに寝転がる。





 ………驚いたな、まさか覚えているのかと思っちゃった…。


 ———僕が夏祭りの最中誘拐されちゃうことを。



 


 

 
 僕はこの楽しい楽しい夏祭りで誘拐されてしまう。これはどんな選択をとっても、どんなに行動を変えたとしても絶対に起こってしまうことだった。それほどこの世界の中で影響力をもっている。この出来事を得て、物語は大きく進んでいく、

 はずなんだけど…。

 今回は起こりそうにないよな。だってそもそもその原因がないんだもん。植物だって種をまかないと生えてこないし。そもそもその種すらないんだもんな…。





 それにしても、今回は何もかもが変わっちゃったな…。

 まさか、魔術が使えないとはね…。それに前提条件の月とも仲が悪いと来た。なんなら”呪い”っていうオプション付いちゃったし。ただ闇との親和性はまだ健在のようだけど…、本人気づいてないしな…。どうしたものか…。


 今回の世界って僕からしたら、外来種によってそれまでの生態系が崩れて別のものを再構築してるって感じなんだよね。外来種っていうのは言わずもがな僕がしちゃったことなんだけど…。再構築中だから結末がいいものになるのかそれとも再構築されないままになってしまうのかわからないし…。未来が読めないのって意外と厄介だな…。

 もしかして!これが!前途多難ってやつか…!いや、確かにねちょっと世界変わらないかな~とかロマンチックにできないかな~みたいなノリで歴史を少し変えちゃったのはあるけど、変わりすぎちゃったしロマンチックもくそも無かったよね。僕あの後どうなったか正直知らないし…。
 でも、これだけは言える。後悔はしてない。だって、今、僕自身の人生を送れているって感じれるし。今まではどんなに抗ったとしても、強制力には勝てなかったし、結局たどる道は同じだったもん。最後がどうなるかなんて知ってたし、僕の選択なんてあってないようなものだった。生きてるっていうより生かされてるって感じだった。けど、今回は選択がちゃんと反映されているし、それのせいで僕はこの先何が起こるか分からない。だからこそ、今、最高に生きてるって感じがする。うん、後悔はしてない。ただ、後悔はしてないけど変えすぎたことに申し訳なさは感じてる。そのせいで彼の人生というか本質までも変わってしまって、彼がすごく苦労していることにも。でもね!安心して!僕は彼の本質を取り戻す方法を知っている。今までの経験のおかげだね。今は僕にその術が備わってないからどうしようもないけど、その術を手に入れたら彼に返すつもりでいる。だから、それまでは彼がこれ以上苦しまないように僕がサポートしなくちゃ…。せめてもの贖罪の意を込めて。
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