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115 寄贈感謝会の日に①
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山森は、今は入居者なしとはいえ住居侵入罪になった。あの家の鍵を持っていたことも、私から盗んで合鍵を作ったのではないかと疑われているらしい。私は貴重品をロッカーに仕舞わず、デスクの一番下にカバンごと放り込んでいたので、山森だけではなく誰でも盗めたといえば盗めたのが情けない。
「山森さんは概ね認めましたよ。鍵のことは言わないんですけどね」
飄々とした語り口は相変わらずだ。このところ辻堂刑事はちょくちょくと連絡をくれる。
「辻堂さん、もうとっくに色々分かってるんじゃないんですか? 全部教えてくれないですから」
「人間関係のあれこれっていうのは、ちょっとつついてみて、どう動くのかを眺めてると見えて来るんですよね」
「蟻の観察みたいな言い方ですね」
「でもまだ注意してくださいね。安易に人から物もらって飲み食いしないようにね。署にあるお菓子は安全ですから、また食べにいらっしゃい」
完全に子供だと思われているのだろうか。それももお菓子に群がる蟻の方?
「······また今度巾着に詰めて帰ります。沢山!」
辻堂刑事との電話を切って、池上にも報告を入れておく。もうしばらくの辛抱です、と。
結局、山森は資料館を辞めることになった。私の前住居の管理会社とは示談が成立しているので、公には罪を犯したと認識されていないけれど、けじめをつけるのだそうだ。荷物の整理と挨拶に来た山森は、少し前までの暗い顔から比べるとすっきりとしていて、本人曰く『目が覚めた』と言っていた。
「けいちゃん、本当にごめんなさい。私、どうしてもあのブレスレットを見つけなきゃってことで頭がいっぱいになって······。見つけてあげたら喜ばれるし、使わないならもらってもいいかな、なんて」
「そんなに気に入ってたんですか、あのブレスレット」
「違うの! そうじゃないんだけど······、ある人に探して欲しいって言われて」
「誰かに頼まれたんですか? 八頭女史のブレスレットを手に入れろって」
この期に及んでも誰かは言いたくないのだろうか。少しの間を置き、躊躇いつつも、ぽつぽつと山森が話し出した。
「山森さんは概ね認めましたよ。鍵のことは言わないんですけどね」
飄々とした語り口は相変わらずだ。このところ辻堂刑事はちょくちょくと連絡をくれる。
「辻堂さん、もうとっくに色々分かってるんじゃないんですか? 全部教えてくれないですから」
「人間関係のあれこれっていうのは、ちょっとつついてみて、どう動くのかを眺めてると見えて来るんですよね」
「蟻の観察みたいな言い方ですね」
「でもまだ注意してくださいね。安易に人から物もらって飲み食いしないようにね。署にあるお菓子は安全ですから、また食べにいらっしゃい」
完全に子供だと思われているのだろうか。それももお菓子に群がる蟻の方?
「······また今度巾着に詰めて帰ります。沢山!」
辻堂刑事との電話を切って、池上にも報告を入れておく。もうしばらくの辛抱です、と。
結局、山森は資料館を辞めることになった。私の前住居の管理会社とは示談が成立しているので、公には罪を犯したと認識されていないけれど、けじめをつけるのだそうだ。荷物の整理と挨拶に来た山森は、少し前までの暗い顔から比べるとすっきりとしていて、本人曰く『目が覚めた』と言っていた。
「けいちゃん、本当にごめんなさい。私、どうしてもあのブレスレットを見つけなきゃってことで頭がいっぱいになって······。見つけてあげたら喜ばれるし、使わないならもらってもいいかな、なんて」
「そんなに気に入ってたんですか、あのブレスレット」
「違うの! そうじゃないんだけど······、ある人に探して欲しいって言われて」
「誰かに頼まれたんですか? 八頭女史のブレスレットを手に入れろって」
この期に及んでも誰かは言いたくないのだろうか。少しの間を置き、躊躇いつつも、ぽつぽつと山森が話し出した。
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