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116 寄贈感謝会の日に②

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「······うん。あのね、私本当は子供二人いるの。学生の時に産んでさ。子供が出来た時、その人と結婚しようって思って。でも何か上手く行かなくて。結局一人で産んだの。
 その人とはそのまま会わないでさ、今の夫と出会って結婚して。でもその時の子供はもうハタチ超えてて、けいちゃんよりも上かな? 歳の離れた弟ですなんて言ってても、やっぱり気づかれるじゃない? 
 そのことでは親にも迷惑かけたし、夫と別れる気なんてなかったよ。今の夫との子供はまだ小さいし、なのに彼は長距離ドライバーでいつも家に居なくて、姑は口うるさい。
 何でこんな人生なのかなって思ってたら、最初の息子の父親が金持ちのとこで婿養子になってるって言うじゃない? それで舅は死んだ。遺産は妻と子供に行くけど、婿にだって恩恵あるじゃない? それで今度姑が死んだり、嫁が死んだら、倍々ゲームなの? 逃げたあいつだけ裕福に暮らして、認知もされない私との息子は?って思っちゃったの。······そしたら、当然の権利が欲しくなってね」
「権利っていうのは」
「最低限、認知して、今までの養育費払ってもらう。それと、彼が亡くなった時は息子にも遺産が行くようにして欲しいって、そう言いに行ったの。そしたら、『今はそれどころじゃない。八頭女史の大切にしていたシルバーメダルのブレスレットが見つからないと破滅だ』って泣き出したのよ。今でも私を愛してるけど、あの時は仕方無かった。義父に逆らえなくて、意の沿まぬ結婚をした。全てが間違えてた、やり直したいって······」

 目を伏せて鼻を啜っている。同僚が悲しんでいるのを見るのは嫌なものだし、気の毒ではあるが、だからといって同情はしない。彼女の言動から他害にまで発展しているのだ。

「それでどうしたんですか?」
「けいちゃん、八頭女史の家に行った後からあのブレスレットを着け出したから、きっとこれだと思って。『うちの、ひびの・けいちゃんが着けてるやつかも』って話して、二人の未来のために譲ってもらえないか、けいちゃんに聞こうと思って」
「初めに私のところに来たのは川真田さんでした。その時一緒にいたんですか?」

 急に顔を上げてすがるような顔を見せる山森。その目に涙は無かった。良かった。

「いないよ! 道佳くんも行ってない! 私達はけいちゃんを害そうなんて思ってなかった!」
「それなら川真田氏の車に誰が乗車していたか分かりますか? 空き巣に入った人は?」

 山森の必死な形相に心が少しずつ冷めていく。ちょっと前まで楽しくランチもしていたのに、この人は自分のために私を売ったんだな、とそんなことまで思ってしまった。

「分からない! 分からないけど、井ノ口さんは池上だろうって。八頭女史を殺したのも門木だから、その正体の池上には気をつけた方がいいよ!」
「······ありがとうございます。気をつけますね」



 
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