映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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112 告白④

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 待ち切れない、という皆の気持ちを汲んで、私達は途中で見つけた全然人の気配のないカラオケボックスに入った。隣接するコンビニのコピー機で人数分印刷を終えた田代主任と尾崎係長が戻り、まずはめいめいでそれを読むことにした。



――――――――――

国立映画資料館 御中


 ここに書き残すことだけで、手渡しもしなかった小生の不明をまずはお詫びする。
 これを手に取っているということは、ビリーズ美術館に引き取らせた資料からでも気付かれたのだろうか。それともあの忌まわしい映画のせいか?

 忌まわしい映画、というのは『夜を殺めた姉妹』のことだ。これを撮ってから富樫っちゃんは気鬱になってしまった。何か新しいものを作ろうとしても、途中で萎えてしまうのだ。腑抜けになってしまった富樫っちゃんの耳には、今も耳障りなあの声が聞こえて来るんだそうだ。
「俺を手元に置け、そしてまた悪魔を呼ぶのだ」

 富樫っちゃんが『夜を殺めた姉妹』を撮る前から、何かに取り憑かれたようにおかしくなっていたことには気づいていた。あのおかしな石が原因かもしれないことも。
 だが、あれを捨てようとすると富樫っちゃんは狂い出す。何度も台本を書き直そうとしても、大悪魔を召喚して周りを切り刻むシーンを削除することが出来ない。

 病んでいく富樫っちゃんを見ていられず、周りのスタッフにも重々言い含めて、さっさと撮り終えてしまうことにした。

 主演の女優二人は前作と同じだが、悪魔となる男の選考には難儀した。既存の役者ではどうしても諾と口に出せないのだと言う。どうにも困っていると、飲み屋で隣り合った男を見て、富樫っちゃんが驚愕して立ち上がり『君、映画に出る気はないか?』と突然言い出した。
 ちょっと優男風の顔立ちのいい男ではあったが、ただの工場勤務の男。そんな男を主演に? と思ったが、男は断りもせずに快諾しやがった。

 男は小生達の心配を他所に、見事に演じきった。見事過ぎたような気もするが、富樫っちゃんが興奮して撮っていたので、周りの雰囲気も良くなり、女優もノッた。
 男の意見を聞いて富樫っちゃんが発注してきた祭壇デザインも、思ったよりもずっと良かった。だが、町工場の男に美術デザインのことをあれこれ言われるのは我慢ならなかった。
 小生は富樫っちゃんに文句を言った。他のスタッフだって、映画はうまく行ってても、あの男にあれこれ言われるのが気に食わないと感じてるやつは沢山いた。その代わり、信望しているようについて行くやつも出て来るのだ。町工場男なのに。

 大悪魔を呼ぶシーンを撮る日になった。順撮りではなかったものの、このシーンが撮影順でも偶然最後になった。終わったら打ち上げだと助監督は酒の準備まで酒屋に頼んでいた。
 そんな浮ついた気持ちが出ていたのか、あのシーンで男は迫真の演技を見せ、女優達も恐怖と安らぎを綯い交ぜにしたような表情を作ってすごい空気を作り上げたのに、何故かあの石が発火した。

 蝋燭の炎が移ったのか、と思ったが、石が強い光を放って燃えているのだ。すぐにおかしいと思った。役者を離して水をかけるが、光は弱まって来たものの炎は消えない。よく見ると燃えているのではなく、陽炎のような揺らめきが炎のように見えているのだ。なんの超常現象だ。

 富樫っちゃんはキャメラを回せと叫ぶ。あの石が燃えるところを映すんだと狂ったように怒鳴るので、キャメラマンはカットの声がかかるまではと回し続けた。だが、その声をかける前に富樫っちゃんは倒れ、撮影所は騒然となった。

 気づくと石は元通り。男は消えていて、富樫っちゃんも意識を取り戻した。

 
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