映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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072 比江島氏の遺言状③

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 丁寧な物腰だが、わりに押しが強い。和志氏としてはきっちりと兄の弔いをして、相続の件も遺恨なく進めて行きたいのだろう。

「お気持ちはよく分かりました。ですが我々はあくまでもお兄様方によくご利用いただいた施設の職員であり、お客様とそれほど懇意にしていたわけではありませんが······」
「それでも、兄の交友関係など分かる範囲でお聞かせいただけると嬉しいのですが。こうしてみると、疎遠にしていたことが悔やまれて······、八頭さんのお身内の連絡先も分かりませんし。
 刑事さん、犯人の目処はまだ立っていないのですか? 独身の兄が清廉な生活をしていたとはよもや思っておりませんが、それでも周りを明るくするような兄でした。······あんな風に殺されるような恨みを買うなど信じたくもないのです」

 そう言われても困ってしまう。辻堂刑事に顔を向けると、仕方ないとばかりに少しだけ回答してくれた。

「お兄様は、たしかに八頭早苗さんとお付き合いをされていたようです。それがどこまでのものだったかはまだ調査中ですが、よくこちらの資料館で映画を見たり、彼女の家にも行っていたようです。お兄様はリウマチを患っておられましたね? その薬――注射器が八頭早苗さんの家の冷蔵庫にも入っていましたので、それだけ信頼を寄せていたのかもしれません。
 それから、お兄様は有名な映画コレクターでしたので、八頭さんの他にもコレクターの方々と交流があったようです。お兄様がお亡くなりになっていた家の佐山義之さんだとか川真田猛さん、ニッコー門木さん、他に映画古書専門店のヨシイ古書店にも足繁く通っておられたと。映画資料館さんの他にも多くの映画館にも行かれていたでしょうし、お付き合いは色々とあったでしょうが、自宅に人は入れたがらず、深く付き合う人は限られていたようですよ」

 佐山氏の名前が出た途端、和志氏の顔色が変わる。

「ちょっと待って下さい。兄が佐山さんという方の家で亡くなっていたとは聞いていましたが、佐山義之さん、ですか? 記憶違いでなければその方はもっと都心に住んでおられたのでは?」
「本邸はそうですが、お兄様が倒れていたのは彼の別邸です。失礼ですが佐山さんとお付き合いがあったのですか?」

 辻堂刑事の問いに、和志氏は少しだけ逡巡した後に口を開いた。

「······実は、佐山義之氏には死別した妻がいるのです。佐山真奈美。彼女は我々の亡母の妹で、佐山氏との間に娘を二人もうけたのち精神を病んで亡くなりました」



    
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