映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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071 比江島氏の遺言状②

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 暑さは大分柔らいで来たとはいえ、歩いて来るとまだ蒸しているのか、辻堂刑事は額をハンカチで拭いながらにこやかに会議室に入って来た。

「すみませんね、何度も。実は比江島氏の弟さんから遺言状のことで連絡が入りまして、その件で私と資料館の方、出来たら八頭さんと付き合いのあった方に来てほしいそうなんです。資料館さんの方で日比野さんの他に適切な方がおられるならその方でもいいと思うのですが、いかがでしょうか?」

 あいにく資料課には八頭女史と親しかった人はいない。他の課や図書室に頼むのも憚られるのだろう。困ったように西村課長がこちらを見たので、私は「自分でよければ伺います」とだけ告げた。



     ◇     ◇     ◇



 それから数日後。比江島氏の弟さんの依頼に応じて、西村課長と私、それから辻堂刑事とともに比江島氏のマンションにお伺いした。山手線内側にあるそこは分譲のみらしい高級感のあるマンションだ。そして彼の住まいは男性の一人暮らしにしては随分広い。おそらく映画パンフレットの収蔵のためにこのくらいのスペースが入り用なのかもしれない。
 出迎えてくれた喪服姿の比江島氏の弟さんは彼より4歳ほど歳下らしいが、勤め人らしく比江島氏よりもしっかりして見える。

 私達が焼香を済ませると、弟さんは早速用件を切り出してきた。

「お呼び立てして申し訳ない。私は比江島直哉の弟で比江島和志と申します。まずはこれを読んでいただきたい」

 そう言って比江島氏の遺言状を手渡される。まず辻堂刑事が受け取り、それから西村課長に回る。

 そこには弟和志氏へ簡潔に今までのお礼と、相続についてのことが記されていて、映画コレクションは八頭早苗氏へ、それ以外の資産は和志氏へとなっていた。

「お恥ずかしい話、私は両親が亡くなってからというもの仕事にかまけて兄とは疎遠にしていまして、他に身よりもないんです。ですからこんな手の込んだ遺言状なんて用意されてるとは思わなかったんですね。しかも受遺者に指定されている八頭早苗さんは兄の死からすぐ後に亡くなられたという。
 慌てて弁護士の30分相談というのに行ってみたのですが、受遺者死亡の場合は相続無効となるので正式な相続人は自分だけになるようなんです。でもねえ、兄がわざわざ指定した方です。映画に関心のない私よりその方に贈りたかったのだと思うと、せめてご挨拶にだけでも伺いたいという気持ちなのですが、先方様もまだ大切な方を亡くされたばかり。
 そういうわけでこちらの都合ばかりを押し付ける気は毛頭ないのですが、兄の大切にされていた方のことを少しでも知っている方に話を伺って、可能であればいずれ先方様へご挨拶ができればと思ったわけなんです。
 兄も八頭さんも映画がお好きで、よくそちらの資料館にも通われていたと。それでしたら懇意にしている職員さんもおられたのではと考えた次第なのです」

 
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