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012 佐山氏の手紙発見②

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「これは、あの私家本を発行した際に献本で来館予定だった佐山氏が、突然弁護士同伴でお持ちになった手紙らしいんだ。館長が言うには、何か切羽詰まったものを感じたため、これで気休めになるのならと受け取って館長室の金庫に保管しておいたらしい」
「その時から狙われているような気がしていたのでしょうか?」
「その辺は分からない。数年前のことだしね」
「だけど、他に味方になってくれる人とかいなかったんですかね?」

 西村課長の言葉に反応して田代主任がぽつりと呟くが、誰も答えられずに沈黙になってしまった。
 たしかに、上映会場や図書室にはよくいらしていた方らしいが、佐山氏はあくまでお客様だ。多くの貴重な資料の寄贈をいただき当館運営にご協力下さってもおられたが、それ以上の関係ではない。
 それだから、彼が当館でどのような方と知己を得ていたかは知らない。長年当館に通っておられても顔見知り以上の関係にはならなかったのかもしれない。あるいはそれは意図的なものだったのかもしれない。

「佐山氏の手紙にはこんなことが書かれていただろう?『他所からの購入依頼には原則お断りだが、当館が間に入って研究機関もしくは当該作の遺族にのみ寄贈すること。例外は認めない』と」
「じゃあ、大学の研究機関ならいいけど、大学の先生個人が自身の研究のために欲しがるとかだと駄目ってことですね?」
「そういうことだな。まあ基本、個人には渡さないことになるが、情報は回るだろうからそこら辺をどういう風に差し止めるか、かな」

 西村課長が眉間を揉むようにし、手紙を元に戻した。

「どこかの研究機関や、雑誌や書籍系なら国会図書館がまとめて引き受けてくれたらいいのですが。これから要確認ですね」

 尾崎係長が話を引き取り、そういえば、と私を見やる。

「上の書斎には目録はなかったんだろう? でも私家本には詳細な掲載一覧がある。この本は佐山氏お一人で作成されたと聞いているから、やはりどこかに目録はありそうだよね」

 そうか、あの本を自身で作られたのなら目録化あるいはデータベース化していそうな気がする。

「書斎にはプリントアウトした形では見つかりませんでしたが、書斎デスクには鍵がかかっていまして、そこにもしかしたらあるかもしれません」
「そっか。じゃあ俺達で見てみようか。課長、弁護士から借りた鍵の中には邸の鍵遺骸は預かっていないのですか?」
「うーんと、警備会社の警報を切る方法と、邸の鍵と、あとカードキーなのかなって思われるものがある」
「カードキー?」

 私が首を傾げると、尾崎係長が疑問に答えてくれた。佐山氏の訃報が入った後、佐山氏の弁護士事務所から館長室に使いが来て、ここの鍵一式の類を託されたのだそう。

「日比野ちゃん、デスクはカードキーで開く感じ?」
「······そういえば引き出しが開かなかったな、とは思いましたが、鍵穴は見てないかもしれません」
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