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011 佐山氏の手紙発見①

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 私は西村課長から手紙をお借りして、中を拝見させていただいた。 

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国立映画資料館館長 福峰敏夫ふくみねとしお 殿
 
 いつも良質な作品の上映、所蔵品の公開、資料の保管をありがとう。
 小生も若かりし頃よりこちらに通い、多くの作品に出会って来た。いわば青春の場所だ。そこに今でも変わらぬ熱意で足を運べることを嬉しく思う。
 小生の青春時代は長く、映画がある限り続くように思っていたが、如何せん寄る年波には勝てるものではない。
 そんな時、小生の人生を賭けた愛蔵品の事が気になった。火気に注意し、光を避け、季節の移り変わりも感じられない程に空調管理を行い、小生の守って来た愛蔵品が、小生亡き後にどうなってしまうのか。
 妻は小生の活動に理解はないので、すぐに古新聞に出してしまうかもしれぬ。
 娘達ならば二束三文で売り飛ばしてしまうことも考えられる。
 この邦画資料は今後の映画史研究に役立つものであると自負している。映画製作者には次の作品のインスパイアをもたらすものであるかもしれぬ。貴館のように広く公開し教育普及を行う事業運営の一助にもなるだろう。
 小生はこの愛蔵品をゆくゆくは貴館や映画研究機関に寄贈したいと考えている。
 小生が元気なうちに手続きをと思うが、青春を手放すのはまだ辛く、ここまで来てしまった。

 この手紙は懇意の福峰館長殿のご厚意で貴館に保管していただいている。
 小生に若しもの事があれば、葬式などよりも先に貴館館長殿へ一報を入れるよう妻と弁護士に頼んであるので、その一報を受け次第開封してほしい。
 友人知人への連絡は後回しにしても、まずはこの愛蔵品の保全を貴館に頼みたいのだ。
 なので貴館には大変恐縮であるが、最後にお願いを聞いてほしい。

 一つ、小生の愛蔵品全ての寄贈を受け入れてほしい。
 一つ、重複資料がある場合のみ、貴館経由で然るべき研究機関へ譲渡してほしい。
 一つ、小生の愛蔵品は自宅ではなく別宅にあるが、小生死去後、内密に速やかに来訪して保全してほしい。 
 一つ、小生の愛蔵品は一部の者には至高品ともいえる。気の迷いを起こさせないよう、保全が済むまでは小生死去や寄贈のことなどの一切を世間に公表を控えてほしい。
 一つ、小生の愛蔵品は例外なく個人には譲り渡さない。譲渡先は研究機関乃至は当該作品の遺族のみ可とし、個人からの譲渡希望や購入依頼は決して引き受けないでほしい。
 一つ、本書簡を所持する者は、小生死去の一報後速やかに江藤亮介えとうりょうすけ弁護士事務所の江藤先生に連絡をし、江藤先生より小生別宅の鍵を受け取ってほしい。

 最後に、貴館の一ファンである小生のこのような我儘に突き合わせてしまう研究員諸君には、大変申し訳なく思う。
 だが小生は長い収集家生活の中で、貴重な資料があっさりと焼け落ちたり、映画会社の倒産や引っ越しのさなかに散逸してしまったり、好事家の手によって他国に売り飛ばされるところも目にしてきたのだ。用心するに越したことはない。
 貴館の大いなるファンである小生は、この貴重な愛蔵品を貴館の元で長きに渡り守っていただきたいと切望している。

 映画好きな老人の願いがどうか聞き届けられるよう祈念しつつ。

2016年5月18日 佐山義之


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