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第293話 ジジィにバレませんよーに

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 船内は思った以上に人が居なかった。
 どうやら相当数の人間がユニコ君達に引き寄せられている様だ。

『出航の直前じゃからな。各員、持ち場についておるのじゃろう。外を出歩く者はユニコ君達に注意が行っとるハズじゃ』
「今のうちだね」

 不思議と足は速くなる。ユニコ君達はコンテナの多い甲板で暴れているので、正反対のこちら側は手薄と言った所だろう。

『フェニックス、止まれ』

 タイ○ニックの客室船みたいな内装をした空間に出た際にサマーちゃんから静止が入る。

「どうしたの? 誰も居ないけど」
『バカみたいにセンサーがあるわい』

 オレとサマーちゃんが見ている情報は大きく異なる。オレはソレを使いこなせそうに無かったので、サマーちゃんに一任していた。

「どんな?」
『認識センサーじゃ。登録者以外が通ると警報が鳴る。ええぃ! 設計書に無いところを見ると抜き打ちで設置された代物じゃわい!』

 用意周到も良い所だ。だが、それは逆にオレに確信を抱く。

「ショウコさんはこの先に居る」
『言わんでも解っておる。監視カメラのログから一番奥の部屋へ連れられるのを確認済みじゃ!』
「どうする? 解除とか出来る?」
『全部は無理じゃ。時間が足らん!』

 と、サマーちゃんは瞬時に代案を用意してきた。
 一旦、外に出て別の扉から船内に再侵入するルート。時間はかかるが、そちらから船内を進んだ方がセンサーの数は圧倒的に少ない。

『帰りも考えればこちらの方が良いハズじゃ』
「了解移動するよ」

 一旦、外回りに移動して倉庫を通ってその先の扉か。

『わしは修正ルート上のセンサーを優先して解除しておく。移動は任せるぞ』
「オーケー。何かあったら連絡するよ」





「ジェット。聞こえますか?」

 カーシャは移動しながら何度か無線を試すも、ジャミングはまだ続いてる事から完全に諦めた。
 SNSが通じたと言う事はオフラインでの短距離通信のみを妨害しているようだ。

「となれば……ブリッジのシステムも一時的に不能にされている可能性が高いか……」

 本来なら即時に海上保安に連絡するべきなのだが、“新しい荷”がある以上、出来るだけ余計なリスクは避けたい所だ。
 とにかく今は懸念材料を全て抑える。『ハロウィンズ』の目的が何にしろ、達成させなければ意味はない。

「――――」

 カーシャはショウコの部屋への最短距ルートとして倉庫の扉から客室へ入ろうとした時に知らない背中を発見した。
 フードコートに身を包んでおり、体格はやや大きめ。いや……何かを――

「装着していますね」
「!?」

 ソレはカーシャの接近には気づいて居なかった。いや、気づけなかったと言うべきか。
 咄嗟に振り向くがカーシャが腕に装着している『電水銃スタンショット』の方が先にヒットする。

「――――帯電仕様ですか」

 手加減する必要は無いので電力は最大。象でさえも一瞬で失神させる一発だったが、敵は腕を覆って受け、特に動きに乱れはない。

「それでは」

 カーシャは壁にある火災用の斧を取るとソレに向かって振るう。
 ソレは慌てて転がる用に避け、入れ替わる形でカーシャは来客区へ向かう扉の前に立った。

「やはり、全て陽動ですか。残念でしたね。アナタは終わりです」

 誰一人通すつもりはない。カーシャはソレと向かい合う。

「……ユニコーン……」

 そんな彼女の様子を見て、ソレは静かにそう発した。





 時間制限がある以上、不利なのはオレたちの方だった。
 ベストなのは誰にも見つからずにショウコさんを連れ出す事。無論、立てた予定がすんなり行く可能性が低いことは社会人としては嫌と言うほど理解している。

「けど……今回はソレは無しにして欲しかったなぁ」

 何せ捕まればオレは死ぬか逮捕だ。顔が見られただけで人生は終了。マジで細心の注意を払わねば、先にジジィがオレを殺しに来るだろう。

『接敵か! 最悪の流れじゃのぅ』

 サマーちゃんの言うとおり、現状はまだ折り返しにもなっていない。しかも、よりにもよってブラック・○ィドウかよ。
 女である分、他の二人よりは正直言ってやりづらいのだ。斧を振り下ろしてくる。

『フェニックスよ! ソレに防刃耐性は無い! 食らうと死ぬぞ!』
「わぁ。それはゴキゲンだぁ」

 この場から一時離脱する選択肢はない。こちらの狙いが船内への侵入だとバレた以上、人数を呼ばれれば詰みだ。

「仰々しい装備ですね。狙いは“流雲昌子”様ですか」
「!」
「当たりの様ですね」

 ヤベ。反応しちゃったよ。

『フェニックス! ここが分岐点じゃ! 引き返すなら――』
「あの女には借りがあるんでね」
『フッ……不躾じゃったな!』

 リベンジマッチと行こう。状況と装備もあの時とはまるで違う。
 オレの持つ“手札”を切るタイミングは流れに穴を開ける時と、勝負を決める時だ。

「ジジィにバレませんよーに」

 加賀、泉、ヨシ君達と沖縄に新人研修に行った時以来か。
 『古式』を使わざる得ないと思ったのは。
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