懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第294話 場数

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「……」

 オレとしては長引くのは不本意でしかない。サンボをメインに動きを組み立て、『古式』で決める。

「ほう」

 相手は戦闘員とは言え女。体格もこちらが上だし、何より『Mk-VI』もある。
 オレは組み伏せる為に接近。斧は振りが大きい。見てからでも十分に避けられ――

「っ! コーン――」

 あっぶねぇぇ! 斧を投げて来やがるとは! しかし、ギリギリでかわしたぞ!

「組み付きが目的ですか」

 次に女はナイフを取り出す。それは想定内。逆に掴まえ易――

「ッニコーン!」

 ナイフも投げて来やがった! しかも顔面だったが、咄嗟に顔を背ける事で表面を滑らせて直撃は回避! 『Mk-VI』を着てなかったら、鼻を持っていかれてた。
 だが……間合い! 取ったぞ!

「注意が武器に向き過ぎです」

 その時、頭上から強烈な、かかと落としが頭部に叩きつけられた。
 武器を投げたのはこの一撃の布石か……
 オレは顔面が地面に激突する。

「コーン……(ぐぉぉ……)」
『フェニックス! 止まるな! 殺られるぞ!』

 サマーちゃんの声と首筋に向けられる強烈な殺気に、オレは女の足を掴まえる為に手を伸ばす。
 しかし、女は攻撃よりも回避を優先。身を引く様に足を逃がすと、情けなく伏したオレから距離を取った。

 その手にはナイフが握られている。伏したオレの首筋に突き下ろすつもりだったのだろう。何本持ってんだよ……

「ユニコユニココーン(くそ、やっぱりプロは違うな)」
「ふざけた喋り方です。こちらの苛立ちを狙っているのですか?」

 女は慣れた様にナイフを構える。素人でも無ければ荒削りでもない。きちんと指導を受けた構えだ。

『カーシャ・ラングレンは自警団に入る前は国軍におった軍人じゃぞ!』
「軍隊格闘ってヤツか……」

 相手の手札は堅実なモノばかり。加えて場数も踏んでて咄嗟の判断も早く、リスクは避けた立ち回り。
 対してこっちは素人サンボと、正面からはまず決まらない『古式』の二つだけだ。

「……」

 ジリッ、と女はこちらの様子を窺っている。僅かにでも隙を見せれば、身体のどこにでも刺しますよ、って構えは冷ややかな殺意を感じる。

“『古式』とは弱者が生き残る為に作り出した術だ。それ故に、一度見られると二度は通じない”

 ジジィの言うとおり『古式』は単体では機能しない。
 まずはベースとなる動きを前にして後ろから“奇襲”する形でしか効果は生まれないのだ。

「ユニ、ユニユニコココーン(じゃあ、やっぱりコレしか無いよな)」
「馬鹿の一つ覚えですか」

 オレは身を低く姿勢を前屈みに。今からタックルしますよ、と言う構え。
 相手は組みつかれる事を嫌っている。
 『Mk-VI』と男女の体格差は一度組みつかれると覆す事は困難。掴めればオレの勝ちだ。

「――――」

 オレは若干の脱力からたわめた筋肉を解放。女へ向かって低い姿勢でタックルを仕掛ける。
 女はナイフを逆手から諸手に持ち変えた。
 『Mk-VI』に防刃耐性は無いとは言え、前屈み姿勢の接近に刺せる位置は極端に制限される。

「まるで暴れ牛ですね」

 女はステップを踏み側面へ避ける。単調なタックルはかわすのは容易いだろう。スカす形でタックルは空振りに終わった。しかし、

「サマーちゃん! 右足を!」
『無茶しおって!』

 その場でオレは無理やり踏み止まると、『Mk-VI』の筋力補佐を右足だけMAXにして貰い、側面へ逃げた女へ強引にタックルの軌道を変えた。

「ユニコーン!(この動きは普通は出来ない!)」

 この動きは女も想定していなかったハズ。しかし、女の姿が視界から消えた。

「――――」

 冗談だろ。これも読まれてたってのか?
 女はオレの真下に潜る様にタックルに対して逆に接近。急所に刺し放題――

「ユニコ(捕った)」

 それをオレも読んでいた。
 人が抱き合うレベルの至近距離。オレは蛇のように女へ上から腕を絡める。

 フロント・チョーク。

 立った状態で片腕と首を締め上げて拘束するソレは一度決れば脱出は不可能。

「――ユニッ!(おい!)」

 だが、女はナイフで自分の上着のボタンを切り開くと、決まる寸前のフロント・チョークから脱皮の様に抜け出した。

「勝ったと思いましたか?」
「ユニコ!?(うぉ!?)」

 逆にオレは腕に上着が絡まり若干拘束される。そこへ命を狙うナイフが応酬されるが、ギリギリで受けて一旦距離を開けた。
 慎重な女はオレへの追撃をしない。

「ただのヘンテコスーツでは無いようですね」
「ユニココーン……(今のでも駄目かよ)」

 咄嗟の機転や判断が早い。やっぱりプロと素人では戦闘力に明確な差が出る。

『フェニックスよ。こうなればフルアーマーを一機、こちらへ寄越すしかあるまい。これ以上時間をかければ帰り道が無くなるぞ』
「ソレはマジで最後の手段にしよう」

 サマーちゃんの提案も悪くないが、それは片道切符だ。ショウコさんが居る部屋が奥である限り、そちらに追い詰められれば詰みは確定である。

「ユニココーン(どうすっかな)」

 取りあえず絡まった上着を外す。幸い女からは攻めてこない。まぁ、向こうは時間をかければかけるだけ優位になるのだから当然っちゃ当然か。

「ユニ?(ん?)」

 すると、パサッ……と女の上着から何か落ちた。内ポケットにでも入っていたのだろう。それは――





 カーシャは目の前の敵に驚異は何も感じていなかった。
 何故なら、殺意は欠片もなく、全てこちらを無力する為に動いている。
 平和な国で育った人間は本当の戦いと言うモノを知らない。場数は戦闘力に直接現れる。故に、こちらが裏をかかれる事はないだろう。

 すると、絡まった上着を外した際に内ポケットの“赤紐”が落ちた。
 落ちた赤紐をカーシャは特に気にしない。しかし、

「良いのですか? 私は来なくても構いませ――」
「……ユニコーン?(……彼女に何をした?)」

 目の前の敵の雰囲気が変わった。
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