公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月

文字の大きさ
上 下
21 / 25
番外編

リリーの初恋

しおりを挟む
「アリシア義姉様?ちゃんと聞いてくださってますか?協力していただいてこんなことは言いたくはないのですが、アリシア義姉様にそのような対応はされたくはないのですが?」

可愛らしい唇を尖らせてアリシアに抗議の声を上げているのは、オルフェウスとの結婚により義妹となったリリーである。

リリーがアリシアとオルフェウスのの時にいたオルフェウスの護衛騎士に一目惚れをしたのは事件の帰り、彼がリリーをエスコートして馬車に乗せた時だった。

差し出された手に自分の手を重ね、お礼を言おうと彼を見た瞬間、リリーの中に雷のような衝撃が走った。

夜闇色の髪に銀色の瞳の凛々しくも逞しい騎士様はご令嬢たちの憧れの的で、リリーもまた例外ではなかったというわけだ。

以来、王城での王女教育の度に彼を目で追う日々。

だけど彼は騎士、リリーは育ちや表向きの肩書きはともかく、実際は国王の血を分けた王女。

身分的な問題は火を見るより明らかで、だけどそう簡単に諦めることもできず、それならせめてになれればとアリシアを通してオルフェウスから情報をもらい、作戦を練っては恥ずかしさや照れに負けて実行できず、結局見つめるだけの日々を送っていた。

そして現在。

リリーの意中の彼、クロードがオルフェウスにと言っていたという情報を得て、蒼白になりながらあーでもないこーでもないとアリシア相手に必死に弁解をしているのだが…

アリシアにしてみれば「自分に弁解されてもねー?」なので適当に相槌をうちつつ今日も今日とて呆れたようにリリーの相手をしていた。

が、リリーとてアリシアとオルフェウスのいろいろを知らない訳ではない。

むしろ自分のお陰で今の仲睦まじいアリシアとオルフェウスがあるといっても過言ではないと思っている。

なのでリリーは呆れ顔で適当に自分の相手をしているアリシアに文句を並べ立てているという訳だ。

が、そんなリリーにアリシアは

「はいはい、その節は大変お世話になり、今も心よりありがたくは思ってますよ?ただ私がどんなに協力しても、あなたがあまりにも長い間なのでつい」

と言って大きくなったお腹を撫でながらホホホとお上品に微笑んだ。

既に臨月に入ろうとしているそのお腹は見てるだけでも実に重そうだ。

そう、現在、アリシアは第一子を妊娠中なのである。

リリーはそんなアリシアを微笑ましく、だけどどこか羨ましそうにしながら「でも」「だって」と言い訳を並べ、アリシアはそんなリリーに可笑しそうに、でも優しく微笑んでいた。

そして数十分後、少し離れたところから声が聞こえてオルフェウスがアリシアのお迎えに登場する。

そしてそのオルフェウスにはもちろんリリーの想い人が付き従っているわけで…

リリーはハッとしたように今まで尖らせていた唇を元に戻し、ポッと頬を染めて俯きつつもクロードに見つからないように視界の端で一生懸命その姿を脳裏に焼き付けるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ここではないどこかで幸せになります

杉本凪咲
恋愛
私は全てを姉に奪われた。 両親の愛も、婚約者も。 しかし、そんな私の元に幼馴染の彼が現れて……

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】婚約から始まる恋愛結婚

水仙あきら
恋愛
「婚約を解消しましょう。私ではあなたの奥方にはなれそうもありませんから」 貧乏貴族のセレスティアにはものすごく横柄な婚約者がいる。そんな彼も最近ではずいぶん優しくなってきたと思ったら、ある日伯爵令嬢との浮気が発覚。そこでセレスティアは自ら身を引こうとするのだが…?前向き娘とツンデレ男のすれ違い恋物語。

婚約破棄を受け入れたはずなのに

おこめ
恋愛
王子から告げられた婚約破棄。 私に落ち度はないと言われ、他に好きな方が出来たのかと受け入れると…… ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

夫への愛は儚く消える

杉本凪咲
恋愛
久しぶりに訪ねてきた幼馴染は、私に愛の告白をした。 私はそれを受け入れ、彼の妻となることを決意する。 しかし半年後、彼への愛は儚く消えた。

本当の勝者は正直者

夕鈴
恋愛
侯爵令嬢ナンシーの婚約者は友人の伯爵令嬢に恋をしている。ナンシーが幼馴染の婚約者の恋を応援しても動かない。不毛な恋愛相談に呆れながらも、ナンシーはヘタレな幼馴染の恋を叶えるために動き出す。 幼馴染の恋を応援したい少女が選んだ結末は。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...