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かくして公爵令嬢のと王太子の婚約破棄騒動は幕を閉じた。
その後、アリシアとリリーは友達となり、例の噂も初めからなかったかのごとく消え去ることとなる。
もちろんリリーの出生や事情も公にされることはなく、その場にいた者の胸の中に秘められた。
ーーそして月日は流れ…
「アリシア様、とてもお綺麗です!」
感極まったマリーの言葉と共に、オルフェウスの髪と同じ金色の刺繍が素晴らしい純白のドレスと繊細なレースをあしらったベールを身に纏ったアリシアが鏡の前に立っていた。
もちろんその身を飾る宝飾品はオルフェウスの瞳の色で、今日のアリシアは誰が見てもドン引きする程にオルフェウスの溺愛ぶりと独占欲を体現していた。
事実、それを見た人々は、美しいと思うと同時に『うへぇ』と思った程だ。
今日はアリシアとオルフェウスの結婚式。
新郎よりも一足早くアリシアのドレス姿を見に来たリリーはその美しさに感嘆の声をあげつつも、色使いに若干の気持ち悪さを感じて苦笑いをした。
アリシアもそんなリリーに苦笑いを返したが、その顔にはこれ以上ないほどの幸せと喜びが浮かんでおり、リリーは『私もアリシア様とオルフェウス兄様みたいに想い合える方と結婚したいわ』と輝くような笑顔で言った。
新婦の父親であるフェンデル公爵は、今まで手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘の花嫁姿に涙し、アリシアを迎えに来たオルフェウスを仇を見るような目で睨むので、妻であるフェンデル公爵夫人に諌められていた。
しかし睨まれたオルフェウスは、自分色をした美しい花嫁しか目に入っておらず、フェンデル公爵の視線を華麗にスルーし、その愛しい花嫁を腕の中に閉じ込めて神に賛美を捧げるかの如く囁く。
「今日のアリシアは一段と美しい。いつもは妖精のような可憐な美しさだが、今日は女神にも勝る程だ。こんなにも美しいと結婚式だというのに他の男を魅了してしまいそうで心配になるよ」
「そんな……オルフェウス様もとても素敵です…」
囁かれたアリシアは恥ずかしさに頬を染めて、いつもより更に王子様なオルフェウスを見つめる。
そうして暫く二人で見つめ合っていると、その甘い空気を壊すように扉の方から咳払が聞こえてきた。
いよいよ式の時間だ。
大聖堂ではオルフェウスの両親である国王と王妃をはじめ、フェンデル公爵夫妻、主要貴族、オルフェウスの側近や二人の学友も参列しており、入場して来た二人の神々しいまでの美しさに皆が息を飲みため息を吐いた。
また、仲睦まじく見つめ合いながら誓いをたてる姿はこの国の明るい未来を感じさせるには十分であった。
しかし、誓いのキスで頬を染め瞳を潤ませたアリシアの可愛さに独占欲を刺激されたオルフェウスは、閉式と同時に上げていたアリシアのベールをサッと戻し、驚くアリシアをよそにお姫様抱っこで早急に大聖堂から出て行ってしまう。
オルフェウスのこの異常なまでの溺愛ぶりは瞬く間に噂となり、仲睦まじい王太子夫妻にあやかろうと、結婚式の終わりに愛の証として、花婿が花嫁の顔をベールで隠すという新たな流行を作ってしまった。
その数年後、アリシアは男の子二人と女の子を生み、オルフェウスは善政を敷く国王となる。
オルフェウスは王妃と子供たちへの溺愛ぶりと共に賢王として、またアリシアはそんなオルフェウスを支える賢妃として、更には王族で初めて自らの手で子育てをした王妃としても後世まで語り継がれることとなった。
リリーは婚約解消事件の時にオルフェウスの護衛騎士として公爵家に来ていた、後の近衛騎士団長となる人物と愛を育み結ばれることになるが、それはまた別のお話。
後書き
これにて公爵令嬢の婚約解消事件は終わりです。
拙い作品に最後までお付き合いくださりありがとうございました。
その後、アリシアとリリーは友達となり、例の噂も初めからなかったかのごとく消え去ることとなる。
もちろんリリーの出生や事情も公にされることはなく、その場にいた者の胸の中に秘められた。
ーーそして月日は流れ…
「アリシア様、とてもお綺麗です!」
感極まったマリーの言葉と共に、オルフェウスの髪と同じ金色の刺繍が素晴らしい純白のドレスと繊細なレースをあしらったベールを身に纏ったアリシアが鏡の前に立っていた。
もちろんその身を飾る宝飾品はオルフェウスの瞳の色で、今日のアリシアは誰が見てもドン引きする程にオルフェウスの溺愛ぶりと独占欲を体現していた。
事実、それを見た人々は、美しいと思うと同時に『うへぇ』と思った程だ。
今日はアリシアとオルフェウスの結婚式。
新郎よりも一足早くアリシアのドレス姿を見に来たリリーはその美しさに感嘆の声をあげつつも、色使いに若干の気持ち悪さを感じて苦笑いをした。
アリシアもそんなリリーに苦笑いを返したが、その顔にはこれ以上ないほどの幸せと喜びが浮かんでおり、リリーは『私もアリシア様とオルフェウス兄様みたいに想い合える方と結婚したいわ』と輝くような笑顔で言った。
新婦の父親であるフェンデル公爵は、今まで手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘の花嫁姿に涙し、アリシアを迎えに来たオルフェウスを仇を見るような目で睨むので、妻であるフェンデル公爵夫人に諌められていた。
しかし睨まれたオルフェウスは、自分色をした美しい花嫁しか目に入っておらず、フェンデル公爵の視線を華麗にスルーし、その愛しい花嫁を腕の中に閉じ込めて神に賛美を捧げるかの如く囁く。
「今日のアリシアは一段と美しい。いつもは妖精のような可憐な美しさだが、今日は女神にも勝る程だ。こんなにも美しいと結婚式だというのに他の男を魅了してしまいそうで心配になるよ」
「そんな……オルフェウス様もとても素敵です…」
囁かれたアリシアは恥ずかしさに頬を染めて、いつもより更に王子様なオルフェウスを見つめる。
そうして暫く二人で見つめ合っていると、その甘い空気を壊すように扉の方から咳払が聞こえてきた。
いよいよ式の時間だ。
大聖堂ではオルフェウスの両親である国王と王妃をはじめ、フェンデル公爵夫妻、主要貴族、オルフェウスの側近や二人の学友も参列しており、入場して来た二人の神々しいまでの美しさに皆が息を飲みため息を吐いた。
また、仲睦まじく見つめ合いながら誓いをたてる姿はこの国の明るい未来を感じさせるには十分であった。
しかし、誓いのキスで頬を染め瞳を潤ませたアリシアの可愛さに独占欲を刺激されたオルフェウスは、閉式と同時に上げていたアリシアのベールをサッと戻し、驚くアリシアをよそにお姫様抱っこで早急に大聖堂から出て行ってしまう。
オルフェウスのこの異常なまでの溺愛ぶりは瞬く間に噂となり、仲睦まじい王太子夫妻にあやかろうと、結婚式の終わりに愛の証として、花婿が花嫁の顔をベールで隠すという新たな流行を作ってしまった。
その数年後、アリシアは男の子二人と女の子を生み、オルフェウスは善政を敷く国王となる。
オルフェウスは王妃と子供たちへの溺愛ぶりと共に賢王として、またアリシアはそんなオルフェウスを支える賢妃として、更には王族で初めて自らの手で子育てをした王妃としても後世まで語り継がれることとなった。
リリーは婚約解消事件の時にオルフェウスの護衛騎士として公爵家に来ていた、後の近衛騎士団長となる人物と愛を育み結ばれることになるが、それはまた別のお話。
後書き
これにて公爵令嬢の婚約解消事件は終わりです。
拙い作品に最後までお付き合いくださりありがとうございました。
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