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22 絶望の淵
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どうやって部屋に戻って来たのか、春輝が目を開けた時には真っ暗な部屋のベッドに横たわっていた。
無意識に広いベッドの反対側へと手を伸ばすが、そこにあるはずの温もりはどこにも無い。
式典でジェンツから告げられた事実に、春輝は衝撃を受けはしたが信じはしなかった。信じられるわけがなかったのだ。
ジェンツに連れられ小さな棺に収まったいちかを目の当たりにし、到底受け入れ難い事実を受け入れざるを得なかった。
棺の中身が精巧に作られた人形であればどれほど良かったか。花に囲まれ収められている小さな少女は紛れもなく、愛してやまない妹であった。
足元が崩れ落ちるような感覚に引っ張られ、春輝の思考も停止した。まるで糸が切れた人形のように棺に縋りつき、ストンと抜け落ちた表情をする春輝を皆が遠巻きに見ていた。
その様子に嬉々としたのはサーシャリアだ。これで新しいペットが手に入ると喜び、春輝を人形のように扱おうとしたが、全てを放棄し脱け殻のような春輝の反応の無さにすぐに興味をなくしてしまっていた。
茫然自失のままの春輝は廃人のように過ごす。
目が覚めてもベッドから起き上がることもなく、用意された食事には手も付けない。
勇者の変わり果てた姿に皆が戸惑った。いくら溺愛していたとしても、たかだか妹が死んだくらいでこのような有様になるなど誰も考えていなかったのだ。
魔王を討伐した勇者がすぐに死んでは困ると、王の指示を受けたジェンツは、王宮にオーバンを含む神官達を派遣した。神官達は日に数回、春輝を生かすためだけに治癒を施す。
それがなければ気力を失ってしまった春輝は既に生きてはいなかっただろう。
昼夜問わず寝続けたかと思えば、数日間眠りにつくことなく起き続け、春輝自身も生きているのか死んでいるのか、わからない状態になっていた。
最早頭はなにも思考していない。あの逃げたくなるような悪夢も眠りにつけば不快さが増して襲ってくるが、春輝は既に抵抗することを諦めていた。
どんどんと体が衰えていくが、決して死にはしなかった。しかしそれすらもわからない。
悪夢の中で窒息しそうな嫌悪感に溺れていれば、不意に耳障りの良い声が聞こえてくる。
そこで漸く春輝の止まっていた脳が動き、意識をそちらへ向けた。だが条件反射で意識が向いただけで、体は動かないし思考もできてはいない。
『まったく、手間がかかる』
溜息混じりに言われた言葉にボンヤリとしていれば、どこまでも真っ暗でねっとりと絡みつく場所から、途端に腕を掴まれ引っ張り上げられた。
急激に意識は覚醒へと導かれ、久しぶりにちゃんと目が覚めたと自覚する。
薄らと目を開ければ、瞼ですら重く、指先ひとつも動かなかった。
「無様だなぁ、勇者」
声の方へと視線を向ければ、そこには確かに殺したはずの魔王ガベルトゥスが悠然と立っていた。
無意識に広いベッドの反対側へと手を伸ばすが、そこにあるはずの温もりはどこにも無い。
式典でジェンツから告げられた事実に、春輝は衝撃を受けはしたが信じはしなかった。信じられるわけがなかったのだ。
ジェンツに連れられ小さな棺に収まったいちかを目の当たりにし、到底受け入れ難い事実を受け入れざるを得なかった。
棺の中身が精巧に作られた人形であればどれほど良かったか。花に囲まれ収められている小さな少女は紛れもなく、愛してやまない妹であった。
足元が崩れ落ちるような感覚に引っ張られ、春輝の思考も停止した。まるで糸が切れた人形のように棺に縋りつき、ストンと抜け落ちた表情をする春輝を皆が遠巻きに見ていた。
その様子に嬉々としたのはサーシャリアだ。これで新しいペットが手に入ると喜び、春輝を人形のように扱おうとしたが、全てを放棄し脱け殻のような春輝の反応の無さにすぐに興味をなくしてしまっていた。
茫然自失のままの春輝は廃人のように過ごす。
目が覚めてもベッドから起き上がることもなく、用意された食事には手も付けない。
勇者の変わり果てた姿に皆が戸惑った。いくら溺愛していたとしても、たかだか妹が死んだくらいでこのような有様になるなど誰も考えていなかったのだ。
魔王を討伐した勇者がすぐに死んでは困ると、王の指示を受けたジェンツは、王宮にオーバンを含む神官達を派遣した。神官達は日に数回、春輝を生かすためだけに治癒を施す。
それがなければ気力を失ってしまった春輝は既に生きてはいなかっただろう。
昼夜問わず寝続けたかと思えば、数日間眠りにつくことなく起き続け、春輝自身も生きているのか死んでいるのか、わからない状態になっていた。
最早頭はなにも思考していない。あの逃げたくなるような悪夢も眠りにつけば不快さが増して襲ってくるが、春輝は既に抵抗することを諦めていた。
どんどんと体が衰えていくが、決して死にはしなかった。しかしそれすらもわからない。
悪夢の中で窒息しそうな嫌悪感に溺れていれば、不意に耳障りの良い声が聞こえてくる。
そこで漸く春輝の止まっていた脳が動き、意識をそちらへ向けた。だが条件反射で意識が向いただけで、体は動かないし思考もできてはいない。
『まったく、手間がかかる』
溜息混じりに言われた言葉にボンヤリとしていれば、どこまでも真っ暗でねっとりと絡みつく場所から、途端に腕を掴まれ引っ張り上げられた。
急激に意識は覚醒へと導かれ、久しぶりにちゃんと目が覚めたと自覚する。
薄らと目を開ければ、瞼ですら重く、指先ひとつも動かなかった。
「無様だなぁ、勇者」
声の方へと視線を向ければ、そこには確かに殺したはずの魔王ガベルトゥスが悠然と立っていた。
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