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21 凱旋2
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堅苦しく重い衣服を身に着けさせられた春輝は王都を囲む壁を潜る。勇者を一目見ようと群衆が押し寄せ、沿道は大変な混雑だった。
城門前に待ち構えていた騎士達は隊列を組みながら春輝とトビアスが乗る馬車の前後を仰々しく歩く。
誰も生還者がたったの二人だと言うことに触れはしない。集まっている人々も誰一人悲愴な表情をしていなかった。
それが春輝には異様な光景に見えていた。青い空は吸い込まれそうなほど高く、建物の上階からは色とりどりの花びらが撒かれ、皆が凱旋した勇者を声高に讃えていた。
行きとはまた違った熱狂具合に春輝はただただ嘆息する。
ゆっくりと時間をかけながら大名行列のような隊列は王都の中を進み、やがて日が暮れる頃に城壁の内側へと入った。
馬車から降りればまたもやゆっくりと王宮内を進む。ちらりとトビアスを見た春輝は、喉元まで出かかった愚痴を静かに飲み込んだ。
春輝の体に問題は殆どなくなっていたが、春輝の治療を優先させていたトビアスは、怪我をしている片足の回復が完全ではなく、引きずるようにして歩いているのだ。
治癒ができる神官が沢山いるはずの王都だというのに、トビアスには謁見が終わるまではと未だに治癒がなされていない。
これが魔王を討伐してきた者への仕打ちかと憤るが、とうのトビアスが全て終わるまではと言うのだから春輝はそれ以上なにも言えなかった。
魔王城とは真逆のように、煌びやかで金の色が光に反射し目が痛い玉座の間には、既にオーグリエ王国の貴族達が一堂に会していた。
「勇者よ、よくぞ魔王を討伐してくれた。これで世界の平和は保たれた」
王からゲームのエンディングのようなチープな言葉が発せられ、集まった人々からは拍手が湧き起こる。
長々と続く式典のようなものに辟易としてしまうが、それはすぐには終わりそうもなかった。
宰相により報酬が与えられ、その内容がつらつらと述べられる。集まっている人々はその内容に感嘆の声を漏らしていた。
知識がいくら刷り込まれていようとも、この世界に馴染みがない春輝には土地を与えられようが、宝飾品を積まれようが心は動かない。
提示された金さえあれば、いちかと二人でゆっくりと暮らすには充分なのだ。
横に並ぶトビアスはきりりとした顔をしながらも、どこか誇らしげに、そして喜悦を浮かべている。
そんなトビアスを尻目に、春輝はいちかの姿を探すがこの場のどこにも求める姿はない。
オーバンがこの場にいると言うことは、マルコムと共に部屋にいるのかもしれないと思い至り、春輝はこの場から抜け出したくて仕方がなかった。
漸く退屈で仕方がない式典が終われば、春輝は押し寄せて来る人々を押し退けオーバンに駆け寄った。
「いちかは? 治癒はだいぶ進んだだろ? 早く自由になりたいんだけど」
春輝の問いに、悲痛な表情をするオーバン。その様子にザワリと嫌な予感がした。
横にいるサーシャリアも、目の前の教皇ジェンツも、あの傲慢そうな王でさえも。皆が一様にまるでコピーしたように同じ表情を張り付けている。
「いちかは、どこだ」
「ハルキ様、申し訳ございません。イチカ様は……」
顔を青ざめさ、小さく震え出したオーバンの肩にそっと手を置いたジェンツが春輝の前に進み出て頭を下げた。
「ハルキ様が討伐に赴いてすぐ、病を患い状態が悪化してしまったのです」
「治癒で治るだろ」
「私も懸命に治癒を致しましたが、どうにもできませんでした。ハルキ様は勇者ですのでその内に魔力を溜める器がありますが、妹君にはそれがありません。それに加え、妹君は外傷の治癒の途中……あまり治癒を施してしまっても亡くなってしまうだけです。病の進行が遅ければ完治したでしょうが、生命力が落ちてしまっている状態ではどうにも……その結果妹君はーー」
血の気が引き、耳がその先を拒否するように周りの音を遮断する。拒絶するようにジリジリと後ろに下がろうとするが、足がもつれ上手くいかない。
「ーーイチカ様は……お亡くなりになられました」
周りの音が聞こえないはずなのに、ジェンツのその言葉だけは耳の奥にしっかりと聞こえてきた。
城門前に待ち構えていた騎士達は隊列を組みながら春輝とトビアスが乗る馬車の前後を仰々しく歩く。
誰も生還者がたったの二人だと言うことに触れはしない。集まっている人々も誰一人悲愴な表情をしていなかった。
それが春輝には異様な光景に見えていた。青い空は吸い込まれそうなほど高く、建物の上階からは色とりどりの花びらが撒かれ、皆が凱旋した勇者を声高に讃えていた。
行きとはまた違った熱狂具合に春輝はただただ嘆息する。
ゆっくりと時間をかけながら大名行列のような隊列は王都の中を進み、やがて日が暮れる頃に城壁の内側へと入った。
馬車から降りればまたもやゆっくりと王宮内を進む。ちらりとトビアスを見た春輝は、喉元まで出かかった愚痴を静かに飲み込んだ。
春輝の体に問題は殆どなくなっていたが、春輝の治療を優先させていたトビアスは、怪我をしている片足の回復が完全ではなく、引きずるようにして歩いているのだ。
治癒ができる神官が沢山いるはずの王都だというのに、トビアスには謁見が終わるまではと未だに治癒がなされていない。
これが魔王を討伐してきた者への仕打ちかと憤るが、とうのトビアスが全て終わるまではと言うのだから春輝はそれ以上なにも言えなかった。
魔王城とは真逆のように、煌びやかで金の色が光に反射し目が痛い玉座の間には、既にオーグリエ王国の貴族達が一堂に会していた。
「勇者よ、よくぞ魔王を討伐してくれた。これで世界の平和は保たれた」
王からゲームのエンディングのようなチープな言葉が発せられ、集まった人々からは拍手が湧き起こる。
長々と続く式典のようなものに辟易としてしまうが、それはすぐには終わりそうもなかった。
宰相により報酬が与えられ、その内容がつらつらと述べられる。集まっている人々はその内容に感嘆の声を漏らしていた。
知識がいくら刷り込まれていようとも、この世界に馴染みがない春輝には土地を与えられようが、宝飾品を積まれようが心は動かない。
提示された金さえあれば、いちかと二人でゆっくりと暮らすには充分なのだ。
横に並ぶトビアスはきりりとした顔をしながらも、どこか誇らしげに、そして喜悦を浮かべている。
そんなトビアスを尻目に、春輝はいちかの姿を探すがこの場のどこにも求める姿はない。
オーバンがこの場にいると言うことは、マルコムと共に部屋にいるのかもしれないと思い至り、春輝はこの場から抜け出したくて仕方がなかった。
漸く退屈で仕方がない式典が終われば、春輝は押し寄せて来る人々を押し退けオーバンに駆け寄った。
「いちかは? 治癒はだいぶ進んだだろ? 早く自由になりたいんだけど」
春輝の問いに、悲痛な表情をするオーバン。その様子にザワリと嫌な予感がした。
横にいるサーシャリアも、目の前の教皇ジェンツも、あの傲慢そうな王でさえも。皆が一様にまるでコピーしたように同じ表情を張り付けている。
「いちかは、どこだ」
「ハルキ様、申し訳ございません。イチカ様は……」
顔を青ざめさ、小さく震え出したオーバンの肩にそっと手を置いたジェンツが春輝の前に進み出て頭を下げた。
「ハルキ様が討伐に赴いてすぐ、病を患い状態が悪化してしまったのです」
「治癒で治るだろ」
「私も懸命に治癒を致しましたが、どうにもできませんでした。ハルキ様は勇者ですのでその内に魔力を溜める器がありますが、妹君にはそれがありません。それに加え、妹君は外傷の治癒の途中……あまり治癒を施してしまっても亡くなってしまうだけです。病の進行が遅ければ完治したでしょうが、生命力が落ちてしまっている状態ではどうにも……その結果妹君はーー」
血の気が引き、耳がその先を拒否するように周りの音を遮断する。拒絶するようにジリジリと後ろに下がろうとするが、足がもつれ上手くいかない。
「ーーイチカ様は……お亡くなりになられました」
周りの音が聞こえないはずなのに、ジェンツのその言葉だけは耳の奥にしっかりと聞こえてきた。
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