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89 騒乱
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シャロンの言葉に思わず笑いが込み上げる。リンドベルに解毒用の魔道具を作らせた後、元々揃いでつけようと思っていた為に、同じ物をリンドベルに作らせていたのだ。
今テオドールはその魔道具である腕輪を付けている。すぐに役立つ事になるとは想定外であったが、これが無ければ目の前のシャロンの状態と同じ様になっていたのかと思うとゾッとする。
「さぁ殿下、これではお互い苦しいだけですわ」
目をギラ付かせ更に伸ばしてくる手を、ぱしりと叩き落したテオドールは、心底不愉快そうに口を歪め、冷笑した。
「誰が君なんかと、死んでもごめんだ。俺の相手は一生フェリだけだからな」
ぐっと言葉を詰まらせ、顔を歪めたシャロンはそれでも尚テオドールに食らいつく。
「拒むならここで私が叫べば、皆何があったかわかりますわ。そして貴方は私の物になりますのよ」
胸元のリボンをしゅるりと解いていくシャロンを見ながら、テオドールは特に焦るそぶりも見せなかった。その事にシャロンの心は焦燥感に駆られていく。
「それは脅しか? 叫ぶなら叫んだらいい。それぐらいで揺らいだりはしないからな」
「ほんとに、良いんですのね」
口元を自嘲気味に吊り上げ、知らないうちに涙を流しながら、一歩ずつ後ずさったシャロンは深く息を吸い込み大きく口を開いた。
しかしシャロンの叫び声は、会場内からの悲鳴にかき消された。バサリとカーテンを跳ねのけ会場内へと戻れば、招待客達が悲鳴を上げながら逃げ惑っている姿が見えた。
「どうした、何があった!?」
「どうやら大規模な火災が起きた様で、それを聞いた招待客達がパニックになったようです」
扉の前で待機していたヴィンスに報告を受け、すぐさま目でフェリチアーノとミリアの姿を探すが、その姿は逃げまどう人の波の中確認する事が出来なかった。
「しかし殿下、その恰好は……」
上着が乱れており、肌が覗くという恰好になってしまっているテオドールに、ヴィンスは怪訝そうに顔を顰めた。
「シャロン嬢に媚薬を盛られた」
「なっ!!」
「テラスに潜んで既成事実を作る魂胆だったらしい。拘束しておいてくれ、あぁ彼女も媚薬を飲んでるようだ。俺はリンドベルの魔道具を付けていたから体が熱い程度だが……捉える際は気を付けろ」
ヴィンスに指示された他の護衛騎士達がシャロンの拘束に動いたのを確認したテオドールは、フェリチアーノ達を探す為に先程別れた場所まで急いだ。
ごった返す人の中、フェリチアーノとミリアは波に流される様に、外へ外へと押し出されていた。
広い庭園に出た人々は、どんどんと燃え広がる会場から離れようと、我先にと走る。ミリアに手を引かれていたフェリチアーノだが、人混みの中その手を離してしまった。
「フェリちゃんっ!!」
ミリアが必死に手を伸ばすが、後ろから押されたフェリチアーノは前に倒れ込む。何とかフェリチアーノが立ちあがった時にはミリアの姿は何処にも見当たらなかった。
テオドールも戻らずミリアと逸れた今、不安が募る。どうすればいいのかと考えていれば、ガシッと手首を掴まれた。
驚いて見上げれば、どう見ても舞踏会には似つかわしくない顔の男が給仕の格好をして立っていた。
「危うく見失うところだったぜ、さぁお前は大人しく来てもらおうか」
「放して、放してくださいっ!」
「おっと大声を出すなよ坊ちゃん、周りに気づかれたら困るんだ」
腕から逃れようと必死に抵抗するが、男はフェリチアーノの力では敵わない程の力で腕を掴んでいた。
周りに助けを求めようにも、口を手で塞がれ声を出せない上に、周りは依然パニック状態で、誰もフェリチアーノの非常事態に気が付いていない。
バタバタと暴れ抵抗するフェリチアーノを、面倒だと言わんばかりに後頭部を殴り気絶させた男は、近くに居た仲間達を引き連れ会場の裏手に回る。
既に待機させてあった粗末な馬車にフェリチアーノを押し込めると、夜の闇に紛れる様にして、王都の人気のない通りを抜けながら街中へと馬車を走らせた。
舗装されてない道が続き、フェリチアーノはその度に馬車の中で体をあちこちぶつけるが、気絶したまま起きる事は無い。
暫く走った馬車は、明かりが灯らない屋敷の前でゆっくりと止まる。馬車の中からフェリチアーノを出したところで屋敷の扉が開き、中から目を三日月の様に歪めたマティアスが出て来た。
「報酬はウィリアムから貰うといい、ご苦労」
フェリチアーノを部屋まで運び込んだ男達にそう言うと、さっさと屋敷から追い出してしまう。
ウィリアムを殺したその足で、計画の変更をウィリアムが雇っていた男達に伝えに行き、フェリチアーノが参加している舞踏会の会場に火を付けさせ、連れ去って来てもらったのだ。
最初は怪訝そうにしてはいたが、ウィリアムからくすねていた金貨が入った袋を渡せば男達はマティアスの言葉にすぐにしたがった。
こんなにもスムーズに事が運び、マティアスは込み上げる歓喜をそのまま笑声として外へとだし、デュシャン家の屋敷に不気味な笑い声が響き渡るのだった。
*本日は二回更新、二回目の更新は21時です。
今テオドールはその魔道具である腕輪を付けている。すぐに役立つ事になるとは想定外であったが、これが無ければ目の前のシャロンの状態と同じ様になっていたのかと思うとゾッとする。
「さぁ殿下、これではお互い苦しいだけですわ」
目をギラ付かせ更に伸ばしてくる手を、ぱしりと叩き落したテオドールは、心底不愉快そうに口を歪め、冷笑した。
「誰が君なんかと、死んでもごめんだ。俺の相手は一生フェリだけだからな」
ぐっと言葉を詰まらせ、顔を歪めたシャロンはそれでも尚テオドールに食らいつく。
「拒むならここで私が叫べば、皆何があったかわかりますわ。そして貴方は私の物になりますのよ」
胸元のリボンをしゅるりと解いていくシャロンを見ながら、テオドールは特に焦るそぶりも見せなかった。その事にシャロンの心は焦燥感に駆られていく。
「それは脅しか? 叫ぶなら叫んだらいい。それぐらいで揺らいだりはしないからな」
「ほんとに、良いんですのね」
口元を自嘲気味に吊り上げ、知らないうちに涙を流しながら、一歩ずつ後ずさったシャロンは深く息を吸い込み大きく口を開いた。
しかしシャロンの叫び声は、会場内からの悲鳴にかき消された。バサリとカーテンを跳ねのけ会場内へと戻れば、招待客達が悲鳴を上げながら逃げ惑っている姿が見えた。
「どうした、何があった!?」
「どうやら大規模な火災が起きた様で、それを聞いた招待客達がパニックになったようです」
扉の前で待機していたヴィンスに報告を受け、すぐさま目でフェリチアーノとミリアの姿を探すが、その姿は逃げまどう人の波の中確認する事が出来なかった。
「しかし殿下、その恰好は……」
上着が乱れており、肌が覗くという恰好になってしまっているテオドールに、ヴィンスは怪訝そうに顔を顰めた。
「シャロン嬢に媚薬を盛られた」
「なっ!!」
「テラスに潜んで既成事実を作る魂胆だったらしい。拘束しておいてくれ、あぁ彼女も媚薬を飲んでるようだ。俺はリンドベルの魔道具を付けていたから体が熱い程度だが……捉える際は気を付けろ」
ヴィンスに指示された他の護衛騎士達がシャロンの拘束に動いたのを確認したテオドールは、フェリチアーノ達を探す為に先程別れた場所まで急いだ。
ごった返す人の中、フェリチアーノとミリアは波に流される様に、外へ外へと押し出されていた。
広い庭園に出た人々は、どんどんと燃え広がる会場から離れようと、我先にと走る。ミリアに手を引かれていたフェリチアーノだが、人混みの中その手を離してしまった。
「フェリちゃんっ!!」
ミリアが必死に手を伸ばすが、後ろから押されたフェリチアーノは前に倒れ込む。何とかフェリチアーノが立ちあがった時にはミリアの姿は何処にも見当たらなかった。
テオドールも戻らずミリアと逸れた今、不安が募る。どうすればいいのかと考えていれば、ガシッと手首を掴まれた。
驚いて見上げれば、どう見ても舞踏会には似つかわしくない顔の男が給仕の格好をして立っていた。
「危うく見失うところだったぜ、さぁお前は大人しく来てもらおうか」
「放して、放してくださいっ!」
「おっと大声を出すなよ坊ちゃん、周りに気づかれたら困るんだ」
腕から逃れようと必死に抵抗するが、男はフェリチアーノの力では敵わない程の力で腕を掴んでいた。
周りに助けを求めようにも、口を手で塞がれ声を出せない上に、周りは依然パニック状態で、誰もフェリチアーノの非常事態に気が付いていない。
バタバタと暴れ抵抗するフェリチアーノを、面倒だと言わんばかりに後頭部を殴り気絶させた男は、近くに居た仲間達を引き連れ会場の裏手に回る。
既に待機させてあった粗末な馬車にフェリチアーノを押し込めると、夜の闇に紛れる様にして、王都の人気のない通りを抜けながら街中へと馬車を走らせた。
舗装されてない道が続き、フェリチアーノはその度に馬車の中で体をあちこちぶつけるが、気絶したまま起きる事は無い。
暫く走った馬車は、明かりが灯らない屋敷の前でゆっくりと止まる。馬車の中からフェリチアーノを出したところで屋敷の扉が開き、中から目を三日月の様に歪めたマティアスが出て来た。
「報酬はウィリアムから貰うといい、ご苦労」
フェリチアーノを部屋まで運び込んだ男達にそう言うと、さっさと屋敷から追い出してしまう。
ウィリアムを殺したその足で、計画の変更をウィリアムが雇っていた男達に伝えに行き、フェリチアーノが参加している舞踏会の会場に火を付けさせ、連れ去って来てもらったのだ。
最初は怪訝そうにしてはいたが、ウィリアムからくすねていた金貨が入った袋を渡せば男達はマティアスの言葉にすぐにしたがった。
こんなにもスムーズに事が運び、マティアスは込み上げる歓喜をそのまま笑声として外へとだし、デュシャン家の屋敷に不気味な笑い声が響き渡るのだった。
*本日は二回更新、二回目の更新は21時です。
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