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90 騒乱2

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「無事ですか姉上!」

 人混みの中からミリアを漸く見つけ出したテオドールは、ミリアの隣に一緒に居る筈のフェリチアーノが居ない事に気が付き、顔を青ざめさせた。

「テオドール! フェリちゃんが見当たらないの、探したのだけれどどこにも居なくて、あぁどうしましょう……」

 同じ様に顔を青ざめさせながら、手を祈る様にきつく握るミリアを安心させるように抱きしめると、すぐに人混みから離れどうやってフェリチアーノを探すか考える。
 しらみつぶしに探すように指示を出そうとしていると、テオドール達の様子を窺っていた給仕の男が、怯える様にしながらおずおずと話しかけて来た。

「殿下、もしかしたら違うかもしれないのですが……フェリチアーノ様は、連れ去られた可能性が……」
「なんだって!?」
「君、どういう事だ! 知っている事をすぐに殿下に話しなさい!」

 給仕の男はロイズに詰め寄られ震えながら、フェリチアーノが同じく給仕の格好をした男達に抱えられて行くところ見たと話した。

「ですがこの暗さですし、見間違いかもしれないんです。でもあんな給仕、うちには居ないですし気になって……」

 すぐさま男達の特徴を聞いたテオドールとロイズは、お互いに顔を見合わせた。それは紛れも無く、ウィリアムが雇っていた破落戸達に違いなかったからだ。

「なんて事だ、計画はまだ先の話だったんじゃないのか?」
「その筈ですが……」
「シャロン嬢が仕掛けて来たのもそのせいか……くそっ!! 何があるかわからい、お前達、急ぐぞ!」
「まっ待ってテオドール、フェリちゃんは……フェリちゃんは大丈夫よね?」

 目に薄っすらと涙の膜を張り、見上げて来るミリアをもう一度抱きしめたテオドールは、その目をしっかりと見た。

「大丈夫です姉上。俺が必ずフェリチアーノを連れ戻します。姉上は先に帰って、義兄上と一緒に帰りを待っていてください」
「必ずよ」
「はい、姉上。必ず」

 ミリアをその場に残し、テオドールは焦る気持ちを押さえつけながら、急いで破落戸達のねぐらへと馬を走らせた。



 ばしゃんと勢いよく水を被せられ、漸くフェリチアーノは意識を取り戻した。
朦朧とする頭のまま、視線を巡らせば顔の目の前にゴトンと水が入っていたのであろう、器が上から落とされ、体を跳ねさせる。
 視線を上げれば、逆光でもわかるくらいに顔を楽しそうに歪ませたマティアスが居た。

「あ、兄上……」
「どうしてこんな事になってるか、わからないって顔だな? はははっ全てはお前が悪いって言うのに、呆れたもんだ!」
「一体何のことですか」

 ケラケラと笑うマティアスに薄ら寒さを感じながら、フェリチアーノはゆっくりと体を起こし、じりじりと後ろに後ずさる。

「ガチョウがガチョウらしくして居なかったせいだ! そのせいでウィリアムも死んだっ!」

 口端を吊り上げながらそう言ったマティアスに、フェリチアーノは驚愕する。一瞬計画とやらが早まってしまったのかと考えたのだが、首謀者の一人であるウィリアムが死んだとはどういうことだろうか。
 言い知れぬ恐怖をマティアスに感じ始めたフェリチアーノは、震え始めた体を叱咤する様に手を握りしめた。

「お前がちゃんとしていれば、ウィリアムも俺を愛してくれていた筈なんだ。ガチョウのお前だけが幸せなままだなんて許せるはずがないだろ!! お前もウィリアムの様に殺してやるよ!!」

 どこに隠し持っていたのか、血がこびり付いたナイフを取り出したマティアスは、ゆっくりと追い詰める様にフェリチアーノに近づいていく。
 あまりの恐怖に足腰に力が入らず、転びながら後ずさるフェリチアーノをマティアスは獲物を追い詰める様な残虐な顔をして、一歩ずつ近づいて来る。

 何とか逃げようと扉に手を掛けるが、震える手では上手くドアノブが掴めず苦戦してしまう。早く逃げなければと焦れば焦る程、手には汗が滲んでいき手元が滑る。
 マティアスがナイフを振り上げた瞬間、漸く扉は開き廊下に体ごと投げ出された。
 刺せなかった事に苛立つ様子も無く、寧ろ更に凶悪な笑みを深めると、足を縺れさせながら逃げようとするフェリチアーノを愉快そうに追いかけ始めるのだった。






✳︎最終日の明日は5回更新になる予定です。

7:50、12時、18時、21時、0時

上記の時間に更新予定です。
最後までよろしくお願いします!
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