【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親

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88 陰る者

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 煌びやかな舞踏会は未だ熱が冷めやらず、フェリチアーノは休憩を挟んだのちにミリアの手を取り、女性達の中に紛れて楽しそうにステップを踏んでいた。そんなフェリチアーノとミリアをテオドールは静かに眺めていた。
 グレイス家でも時折練習がてら踊っていたようで、息もぴったりに踊る姿はまるで本当の姉と弟の様に見える。
 くるくると回るドレスの群れの中から時折、スッと向けられるフェリチアーノからの視線に、片手を上げてテオドールが答えれば嬉しそうに破顔した顔を向けた。
 テオドールと踊っている時とは違い、周りの視線は温かい物で、皆微笑ましそうに見ていた。

「殿下、ご報告が」

 ロイズが後ろからこそりとテオドールに話しかける。視線はフェリチアーノに留めたままに、ロイズからの報告を聞いた。

「シルヴァンを捕らえました。安心したのか酒場で羽目を外したようで、身ぐるみを剥がされて林に捨てられておりました」
「そうか、何か企んでる様子は?」
「国外へ逃亡しようとしていただけの様です」
「それは良かった。厳重に鎖につないでおけ」

 軽く頭を下げたロイズは、指示を出す為に足早に離れていった。軽やかな曲はまだまだ続いていて、フェリチアーノとミリアの踊りも終わらない。
 あの楽し気な様子に水を差すのは無粋だろうと、テオドールはワイングラスに口を付けながら、再び二人が楽し気に踊る様子を眺め続けた。



 遠くからそんなテオドールの様子を眺めているシャロンは、ミリアの取り巻きからの視線を感じながらも、それらを気にする様子を見せずにテオドールを見つめ続けた。
 あの視線が自分に向いたらと思うと胸が高鳴るが、それと同時に手に入らない焦燥感は増すばかりだ。
 ウィリアムとの計画はまだ先だが、今のシャロンには二人の眩しさに耐えられそうになかった。
 胸元で扇子を握りしめたシャロンは、給仕から飲み物を受け取ると、人混みを縫うようにしてミリアの取り巻き達の近くまで来る。
 目の前から歩いて来る客は、ダンスホールへと目を向けているらしく、シャロンには気が付いていない。しめたとばかりにシャロンも視線を前からダンスホールへと向け、盛大にぶつかった。
 その拍子に手にしたグラスの中身は運悪く、ミリアの取り巻きのドレスにかかり大きな染みを作る。
 ざわつく取り巻き達に、シャロンにぶつかってしまった客の男は冷や汗をかきながらあちらこちらへと頭を下げだした。

 シャロンはぶつかってしまっただけで被害が無いとわかった客の男は、深く詫びた後にすぐさまミリアの取り巻き達に謝罪をしだす。
 舞踏会はまだまだ終わるには早い時間だ。替えのドレスに着替える為に控室へと下がって行く取り巻き達を見たシャロンは、ニヤリと広げた扇子の下で笑う。
 その足で今度は給仕の男を捕まえると、先程の経緯の愚痴を話しかけるフリをしながらさり気無く給仕の持つトレーからグラスを取り、一口目の前で飲んで見せた。
 少しばかり大げさに飲み物を褒めている間に、残りのグラスにシャロンはこっそりと薬を仕込む。
話を切り上げようとしたところで、給仕の男にシャロンはこっそりと金を握らせる。
一瞬目を見開いた給仕の男だが、シャロンが給仕が持つトレーの上に乗っているお勧めの飲み物をテオドールにさり気無く進めて欲しいだけだと言えば、警戒心を解いたのか心得たとばかりに頷いた。

意中の相手にさり気無く飲み物を進める事はよくある事で、その際にチップを渡す事も当然ながらある。
給仕達は夜会や舞踏会での臨時収入を貯め込むのだ。そこにはやはりいろいろなしがらみはあるのだが、年若く余り慣れていなさそうな給仕の男は難なくシャロンに従ってしまう。

 迷いなくテオドールの元へと歩いていった給仕は、テオドールに飲み物を進め、シャロン尾目論見通りテオドールはクスリが入った物を飲み始めた。
 上手く言った事に上機嫌になったシャロンは、効き目が早く現れる様にと祈りながら、自身もその薬を口に含んだ。



 テオドールが丁度グラスの中身を飲み終わる頃、華やかでテンポの速い曲が終わり、フェリチアーノとミリアがテオドールの元まで戻って来た。
余程楽しかったのか、キャッキャとはしゃぐフェリチアーノだが、息が少し上り赤みが差した顔をしていて、一瞬体を繋げている時の光景が過り、テオドールはすぐさま抱き寄せた。
 ぎゅっと抱き込んだフェリチアーノからは微かに汗の匂いがして、どうにも体が熱くなる。このままでは不味いと、テオドールはフェリチアーノから体を離すが、どうにも体の奥で燻る火種は消えそうになかった。

体の熱を外の冷たい夜風で冷ます為、ミリアにフェリチアーノを任せると、テオドールは少し奥まった場所にあるテラスへと足を進める。
 僅かに開いていたカーテンを抜けテラスに出れば、丁度いい風が吹き抜けた。上着のボタンを外し簡単にシャツも緩めると、冷えた風が地肌に心地よかった。

 一体この熱さはどうしたのかと体の様子を窺っていれば、、コツンと背後から音が聞こえテオドールは瞬時に振り返った。

「今夜はとても体が熱くなる夜ですわね殿下」
「……シャロン嬢」
「殿下もそうではありませんか? 体が疼いてきません事?」

 逆光でしかも暗がりであると言うのに、それでもわかる程シャロンの顔は上気しており、目には潤み情欲が伺い知れた。
 その様子を見たテオドールは、成る程これはシャロン嬢に何か盛られたらしいと思い至った。
 一歩ずつゆっくりと近づいて来るシャロンから、欲望に塗れた視線を受けたテオドールはゾワリと肌が粟立った。
 フェリチアーノからならいくらでもそんな視線を向けて欲しいが、それ以外の人間から向けられる欲望など気持ち悪く、また悍ましいだけだ。

「私も同じ物を飲みましたのよ、これで二人で楽しめますわ殿下」

 にんまりと笑んだシャロンは、何のためらいも無くテオドールへと手を伸ばした。

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