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第5章 強欲の対価
99.迅速な決断は頂点に立つ者の役目だ
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グリュポス国が仕掛けた戦いの犠牲者へ行った補償の一覧、被害者遺族からの要望、現在行っている外壁の修復と、孤児院の増設……。様々な案件が溜まっている。ある程度対策を取った上で、最後の決断と報告をサタンへ行うアガレスのやり方は正しかった。
一から十までトップに決断を委ねると、判断が遅れる。必要な時に必要な助けが届かなくなる可能性があった。各部署の長にある程度の決裁権を持たせる理由もそこにある。任命し部下に判断を預けた以上、何かあれば責任を取るのが上位者の仕事だった。
王が宰相に内政を任せたなら、彼の不手際は任命した王の失態だ。逆に宰相の仕事ぶりが優れ手柄を立てたなら、宰相を称えて褒美を与える。そこで王が誇るべきは宰相の手柄ではなく、彼を任命した己の目利きのみだった。
はき違える上位者が多すぎて、部下は委縮し、忖度し、徐々に決断をしなくなる。負が螺旋状となり、優秀な者を排除してしまう。
バシレイア国の中で爪を隠して伏せていた能ある鷹を、空に放つのは王たる者の役目だった。だから彼の報告に頷き、後で数字をまとめた書類を提出するよう要請すれば、残る質問はひとつしかない。
「足りないものはあるか?」
ぱちりと目を瞬き驚いたような顔を見せたが、すぐにアガレスはいくつか要望を口にした。
「はい。後で要望書をお持ちする予定でしたが……グリュポス国へ賠償金回収に向かう役人を守れる者が欲しいのです。人間相手は騎士でも対応できますが、不安があります」
「オリヴィエラを派遣しよう」
決断は迅速に、その場で答えを出す必要がある。頂点が迷ってぐらつけば、土台も崩れるのが国という組織だった。これは魔族も人間も大差ない。
「助かります。次に、グリュポス国に散らばる死骸ですが……処理を急ぐ必要があります。かの国から流行病が発生してしまえば、我が国にも被害が出ます。また難民が出て我が国へ流れ込まれた場合、食料が足りません」
「処理は明日行う。食料はどの程度不足する?」
「大まかな試算ですが、グリュポス国の都の人口が半分ほど流れ込んだら、10日程で備蓄に手を付ける必要がでます。1ヶ月もしたら備蓄が尽きるでしょう」
先王の愚かな贅沢が国の財政を圧迫し、様々な備蓄が不足していた。バシレイアの現状を建て直すために、最初に手を付けたのは民への食糧供給と備蓄だ。国は民で出来ている組織であり、彼らの支払う税が国を潤し豊かにする。
公共事業も孤児の保護や働けない者への補償も、すべて国税が使われた。その金を使い込めば、国が滅びてしまう。城に蓄えられた贅沢品を売り、リリアーナが持ち帰った魔物の素材を金に換え、ようやく備蓄に回した食料だった。
再び消費してしまえば、元に戻すのは困難だ。バシレイア国は再建の途中であり、まだ豊かな国と表現できる状態ではなかった。かろうじて回っている車輪を片方外せば、あっという間に傾いて残る車輪も崩壊する。
「将来的な働き手は足りるのか」
考えながらの質問へ、アガレスは難しそうな顔をした。悩みながら口にした結論は「否」だ。バシレイア国の民は弱っており、働ける若者は他国へ逃げている。若者を呼び戻すにしても、金や食料は潤沢でなければ枯渇する。だが余裕はなかった。
グリュポスから若者を中心に運ぶことは可能だ。しかし弱者である女子供を切り捨て、老人を見捨てたら……執政者として失格だった。愚かにもほどがある。若者を育てたのは老人であり、妻や子供を受け入れない国のために働く者はいない。
受け入れたら破滅、受け入れなくてもいずれ屋台骨は崩壊する――仕方ない。手間を惜しんで足元を疎かには出来ないか。
「グリュポスからの難民を受け入れよう。上限は設けないが、逐次連絡を入れよ」
市場に出回る食料が不足するのは10日後――ならば、それまでに解決すれば問題あるまい。ふと気づけば、足元のリリアーナはうとうとと船を漕いでいた。
一から十までトップに決断を委ねると、判断が遅れる。必要な時に必要な助けが届かなくなる可能性があった。各部署の長にある程度の決裁権を持たせる理由もそこにある。任命し部下に判断を預けた以上、何かあれば責任を取るのが上位者の仕事だった。
王が宰相に内政を任せたなら、彼の不手際は任命した王の失態だ。逆に宰相の仕事ぶりが優れ手柄を立てたなら、宰相を称えて褒美を与える。そこで王が誇るべきは宰相の手柄ではなく、彼を任命した己の目利きのみだった。
はき違える上位者が多すぎて、部下は委縮し、忖度し、徐々に決断をしなくなる。負が螺旋状となり、優秀な者を排除してしまう。
バシレイア国の中で爪を隠して伏せていた能ある鷹を、空に放つのは王たる者の役目だった。だから彼の報告に頷き、後で数字をまとめた書類を提出するよう要請すれば、残る質問はひとつしかない。
「足りないものはあるか?」
ぱちりと目を瞬き驚いたような顔を見せたが、すぐにアガレスはいくつか要望を口にした。
「はい。後で要望書をお持ちする予定でしたが……グリュポス国へ賠償金回収に向かう役人を守れる者が欲しいのです。人間相手は騎士でも対応できますが、不安があります」
「オリヴィエラを派遣しよう」
決断は迅速に、その場で答えを出す必要がある。頂点が迷ってぐらつけば、土台も崩れるのが国という組織だった。これは魔族も人間も大差ない。
「助かります。次に、グリュポス国に散らばる死骸ですが……処理を急ぐ必要があります。かの国から流行病が発生してしまえば、我が国にも被害が出ます。また難民が出て我が国へ流れ込まれた場合、食料が足りません」
「処理は明日行う。食料はどの程度不足する?」
「大まかな試算ですが、グリュポス国の都の人口が半分ほど流れ込んだら、10日程で備蓄に手を付ける必要がでます。1ヶ月もしたら備蓄が尽きるでしょう」
先王の愚かな贅沢が国の財政を圧迫し、様々な備蓄が不足していた。バシレイアの現状を建て直すために、最初に手を付けたのは民への食糧供給と備蓄だ。国は民で出来ている組織であり、彼らの支払う税が国を潤し豊かにする。
公共事業も孤児の保護や働けない者への補償も、すべて国税が使われた。その金を使い込めば、国が滅びてしまう。城に蓄えられた贅沢品を売り、リリアーナが持ち帰った魔物の素材を金に換え、ようやく備蓄に回した食料だった。
再び消費してしまえば、元に戻すのは困難だ。バシレイア国は再建の途中であり、まだ豊かな国と表現できる状態ではなかった。かろうじて回っている車輪を片方外せば、あっという間に傾いて残る車輪も崩壊する。
「将来的な働き手は足りるのか」
考えながらの質問へ、アガレスは難しそうな顔をした。悩みながら口にした結論は「否」だ。バシレイア国の民は弱っており、働ける若者は他国へ逃げている。若者を呼び戻すにしても、金や食料は潤沢でなければ枯渇する。だが余裕はなかった。
グリュポスから若者を中心に運ぶことは可能だ。しかし弱者である女子供を切り捨て、老人を見捨てたら……執政者として失格だった。愚かにもほどがある。若者を育てたのは老人であり、妻や子供を受け入れない国のために働く者はいない。
受け入れたら破滅、受け入れなくてもいずれ屋台骨は崩壊する――仕方ない。手間を惜しんで足元を疎かには出来ないか。
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