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第5章 強欲の対価
100.けん制を兼ねた後片付け
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手元に用意した巨大な魔法陣を、地面に転写した。暗闇の中、グリュポスの都を覆う大きさまで拡大した魔法陣が輝きを増す。魔法文字が躍るように揺れながら、地面を光で染めていく。
「『飲み込め』」
設定した発動の言葉に魔力を込めれば、ぞろりと地面が波打った。揺れる地面が反転するようにうごめき、地上にあるすべてを飲み込んでいく。砂漠の中に遺跡が沈むように、グリフォンの紋章を持つ国の首都が飲み込まれた。
ドーンと音が波紋を描きながら広がる。土埃が舞って爆発のような衝撃を視覚化しながら、弾けて飛んだ。振動が地面を大きく波打たせ、他国まで届いただろう。数秒ずれて、バシレイアを覆った結界に届いた余波を受け取る。
生きた者を1日かけて追い出したため、残るは物と者だった生命なきモノのみ。放置された死体ごと街を消した大地は何もなかったように、凪いだ湖面に似た静寂を取り戻した。
アガレスの報告を受けた翌日から3日間は、様々な書類を片付けて過ごした。川を下った騎士や役人は翌日にグリュポスの都に入る。崩れた王城から金銀や宝飾品を引っ張り出すため、オリヴィエラに魔法陣を一つ預けた。おかげで総ざらい回収できただろう。
呆然と立ち尽くす民に難民受け入れの報を伝えさせ、彼らが動き出すまで2日の猶予を置いた。もうこの都から回収すべきものは何もない。不用品をすべて大地に還して息をついた。敵国であろうが、滅びる姿は目に楽しい光景ではない。
静けさを取り戻した地に、リリアーナの感嘆の声が響く。
「すごい、初めてみた」
大地を操る魔法はさほど難しくはない。ただ風や炎と違い、動かすために必要な魔力が大きいことが欠点だった。砂や土ならば動かす魔力は微々たるものだ。魔法は世界の理を強引に己の思うまま捻じ曲げる行為だった。その対価は相応に魔力から奪われる。
水、火、風が容易に動かせるのは、それらが動くことを前提に世に存在する力だからだ。大地の様に揺るがず動かぬものに強要するならば、その対価は大きくなる。砂や土は動かせる分類に入るため、代償は小さくても足りる仕組みだった。
この原理を知る魔族にとって、この大地反転は豊富な魔力量を見せつける行為となる。偵察と思われる魔族が入れ替わり立ち代わり訪れるが、彼らに力の差を理解させるために大きな力を揮った。それでも大した消費が見られない魔力を宥めながら、不満に眉を寄せる。
思ったより効果が地味だ。これではこの世界の魔王陣営を脅す一報には物足りない。感動しているリリアーナに、違う魔法を見せてやろうと魔力を放った。
平らになった大地に木々を生やし、成長させ、森を作り出す。今後新しい都を作るにしても、資材となる木々は必要だろう。簡単そうに難しい魔法を施し、満足して頷いた。これならば見栄えもするし、他国の非難をかわす材料にもなる。
豊富な魔力量を見せつけるけん制としての役割も十分だった。あっという間に5m以上まで成長した木々が葉を揺らす。
「戻るぞ、リリアーナ」
「うん!」
すごい物を見た。機嫌のいいリリアーナは二つ返事でドラゴンの姿に戻る。大きく機嫌よく揺れる尻尾を避けて背に乗れば、ぶわりと魔力による浮遊に続き、高速で空気を裂いて進む。こうしてみると、クリスティーヌが乗っていたときは速度を加減していたのだろう。
遠慮なく飛ぶ彼女は透明の瞼で目を保護しながら、無意識に風を操っていた。本能だけでこの領域まで成長したなら、リリアーナの潜在能力は素晴らしい。ふと視線を落とせば、山へ戻る魔狼達の最後の群れがわずかに見えた。
「『飲み込め』」
設定した発動の言葉に魔力を込めれば、ぞろりと地面が波打った。揺れる地面が反転するようにうごめき、地上にあるすべてを飲み込んでいく。砂漠の中に遺跡が沈むように、グリフォンの紋章を持つ国の首都が飲み込まれた。
ドーンと音が波紋を描きながら広がる。土埃が舞って爆発のような衝撃を視覚化しながら、弾けて飛んだ。振動が地面を大きく波打たせ、他国まで届いただろう。数秒ずれて、バシレイアを覆った結界に届いた余波を受け取る。
生きた者を1日かけて追い出したため、残るは物と者だった生命なきモノのみ。放置された死体ごと街を消した大地は何もなかったように、凪いだ湖面に似た静寂を取り戻した。
アガレスの報告を受けた翌日から3日間は、様々な書類を片付けて過ごした。川を下った騎士や役人は翌日にグリュポスの都に入る。崩れた王城から金銀や宝飾品を引っ張り出すため、オリヴィエラに魔法陣を一つ預けた。おかげで総ざらい回収できただろう。
呆然と立ち尽くす民に難民受け入れの報を伝えさせ、彼らが動き出すまで2日の猶予を置いた。もうこの都から回収すべきものは何もない。不用品をすべて大地に還して息をついた。敵国であろうが、滅びる姿は目に楽しい光景ではない。
静けさを取り戻した地に、リリアーナの感嘆の声が響く。
「すごい、初めてみた」
大地を操る魔法はさほど難しくはない。ただ風や炎と違い、動かすために必要な魔力が大きいことが欠点だった。砂や土ならば動かす魔力は微々たるものだ。魔法は世界の理を強引に己の思うまま捻じ曲げる行為だった。その対価は相応に魔力から奪われる。
水、火、風が容易に動かせるのは、それらが動くことを前提に世に存在する力だからだ。大地の様に揺るがず動かぬものに強要するならば、その対価は大きくなる。砂や土は動かせる分類に入るため、代償は小さくても足りる仕組みだった。
この原理を知る魔族にとって、この大地反転は豊富な魔力量を見せつける行為となる。偵察と思われる魔族が入れ替わり立ち代わり訪れるが、彼らに力の差を理解させるために大きな力を揮った。それでも大した消費が見られない魔力を宥めながら、不満に眉を寄せる。
思ったより効果が地味だ。これではこの世界の魔王陣営を脅す一報には物足りない。感動しているリリアーナに、違う魔法を見せてやろうと魔力を放った。
平らになった大地に木々を生やし、成長させ、森を作り出す。今後新しい都を作るにしても、資材となる木々は必要だろう。簡単そうに難しい魔法を施し、満足して頷いた。これならば見栄えもするし、他国の非難をかわす材料にもなる。
豊富な魔力量を見せつけるけん制としての役割も十分だった。あっという間に5m以上まで成長した木々が葉を揺らす。
「戻るぞ、リリアーナ」
「うん!」
すごい物を見た。機嫌のいいリリアーナは二つ返事でドラゴンの姿に戻る。大きく機嫌よく揺れる尻尾を避けて背に乗れば、ぶわりと魔力による浮遊に続き、高速で空気を裂いて進む。こうしてみると、クリスティーヌが乗っていたときは速度を加減していたのだろう。
遠慮なく飛ぶ彼女は透明の瞼で目を保護しながら、無意識に風を操っていた。本能だけでこの領域まで成長したなら、リリアーナの潜在能力は素晴らしい。ふと視線を落とせば、山へ戻る魔狼達の最後の群れがわずかに見えた。
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