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第1章 強制召喚

9.盛大に滅ぼしてやろう

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「魅了が使えるのか?」

「使える」

 魅了の瞳は金眼以外存在しない。やはりこの世界の理は、オレがいた世界とほとんど同じらしい。かなり使える部下を手に入れた。くしゃりと頭を撫でてやると、真っすぐな癖のない髪がさらりと揺れる。ぴたんと尻尾が床を叩いた。

「ならばオレの役に立て」

「うん!」

 顔を赤く染める理由はわからないが、有能な配下を手に入れたことは喜ばしい。黒いドラゴンは強者の血統であるため、彼女がもう少し成長すれば戦闘面でも頼れる。

 魅了眼みりょうがんはその輝きの美しさから珍重されるが、それ以上に利用価値が高かった。彼女より魔力が少ない相手ならば、すべて配下に置くことができる。素直なリリアーナの尻尾が、びたんばたんと床を叩いた。感情豊かな子だ。

「このあと、どうするの?」

 無邪気に尋ねるリリアーナに、少し考えて言葉を紡ぐ。

「逃げた羽虫を追うか、隠れるモグラを潰すか――お前ならどうする?」

 愚かな強制召喚を行った人間の王族と、ドラゴンを送り込んで自ら出向かない魔王。リリアーナが失敗したことなど、すでに理解しているはずだ。突然現れた脅威となる魔力の持ち主へドラゴンを送る以上、監視役をつけるのは当たり前の対応だった。

 次の魔族を送り込むかと思えば、その反応もない。ドラゴン1匹で刺客が尽きたわけでもあるまい。出方が分からぬ魔王を先に潰すべきか。

「選べない、けど……私に命じた魔王の居場所、わかる」

 この一言で先に魔王を潰すことに決めた。考えてみれば理に適っている。この世界の王族と宮廷魔術師は実際に会って魔力量を把握したので、オレの脅威にならないと判明していた。ならば、異世界から召喚してまで倒そうと考える敵……魔王の方が強いはずだ。

 戦うなら最初に頭を潰す。この世界の魔族の数が把握できていない現状、頭を潰して手足を配下に置くのが効率的だろう。生まれた時から存在した世界ではない。なんらかの強制力や理が邪魔をする可能性もあった。

「ふっ、面白いではないか」

 前の世界をすでに征服した以上、新たなゲーム盤を楽しむのも悪くない。クリアした遊びにさほど心残りはなかった。強いて言うなら、残した部下が気になる程度だ。

 視線を向ければ、胸のあたりまでしかない小柄な少女が微笑む。ただ視線が合うだけで嬉しいと全身で示す彼女の好意は、前世界の部下達を思い起こさせた。褐色の頬に手を滑らせ、まっすぐな金髪を指先で掬う。

「オレはこの世界ゲームを制覇する。お前はどうする? オレについてくるか」

「うん! ご主人様だもん」

 嬉しそうに口にした単語は、過去の思い出をくすぐる。ドラゴン種特有の言い回しだ。ならばと己の黒髪を数本抜いて、魔法陣で編み上げる。僅かな時間で作り上げた細い飾りを、彼女の手首に巻いた。

「なくすでないぞ」

「ありがとう!」

 はしゃいだ声をあげて、髪を巻きつけた左手首を胸元に引き寄せる。頬を緩ませて喜ぶ姿に、こちらも気持ちが安らいだ。部下の居場所を感知し常に気を配るのは主人の役目だが、ドラゴン種は主人と繋がるアイテムを欲しがる。彼女も同じで助かった。

 以前の知識はそのまま使えそうだと判断し、石造りの塔から外へ転移する。一緒に連れ出したリリアーナが目を見開いた。

「転移すごい。難しいのに」

「帰り道に手順は必要ないからな」

 転移の理由をつまらなそうに口にした。手順を省くと扉が開かなくなる仕掛けを想定したが、結局それほどの技術は使われていなかった。知っていれば最初から転移で往復できたのだと眉をひそめる。

 転移魔法陣を維持する為だけに造られた塔――これ以上不幸な召喚者を生まぬため、盛大に滅ぼしてやろう。この世界を制覇する覚悟として、誰の目にも明らかな証とする。

「『めっせよ』」
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