87 / 100
87.あの侵入者は誰だったの?
しおりを挟む
数日後、ルーカス様とお買い物に出かけた。街中を歩くルーカス様は、いつもよりラフな恰好をしている。もちろん、私も膝下丈のワンピースを選んだ。
ルーカス様のスカーフの色に合わせ、私もラベンダーにした。銀髪だから、淡い色も濃い色も似合うルーカス様と腕を組む。街で自由に歩けるなんて久しぶりだった。
あちこちで襲われたり攫われたり、いつも騒動が付き物の私は子爵領以外を徒歩で移動しない。ネヴァライネン子爵領は、金鉱山が王家直轄になっているお陰で、衛兵や騎士が普段から常駐してくれる。安全面ではピカイチだった。
今回はルーカス様の護衛として、複数の騎士が周囲に散っている……らしい。私服で警備しているせいで、私には区別がつかなかった。子爵領の街はのんびりしていて、大きなお店はない。顔見知りばかりの街と違い、領都の賑わいは驚くばかりだ。
見たことのない果物が並び、煌びやかな宝飾店や大きな本屋もあった。きょろきょろしながら歩くので、ルーカス様と腕を組んでいないと逸れてしまいそう。
「寄りたい店はあるか?」
「本が欲しいです。それ以外は揃っていますので」
新作の小説が読みたい。以前は恋愛小説に興味が薄かったが、王妃様やムスコネン公爵夫人にお借りしたら、ハマってしまった。王宮に監禁された時期に増えた趣味だ。そう伝えると、困ったような顔で「あの時は悪かった」と謝られた。
私の安全のための監禁なので、気にしていないと伝える。本屋の扉を開ければ、インク特有の香りがした。心地よい匂いじゃないけれど、何となく落ち着く。ずっと書棚に並べていると薄れるから、新しい本が並ぶ本屋ならでは、だろう。
新作が並ぶ入り口近くの棚を一度通り過ぎ、奥の本棚を眺める。いくつか知らない作家の本を手に取った。それから新作もきちんと確認する。ルーカス様も難しそうな本を何冊か購入した。全部合わせて屋敷に送る。
外へ出て、お店で食事をしようと提案された。断って、屋台やお店で購入した料理を運び、街の大通りにある噴水のそばへ移動した。ここはベンチがあって、自由に誰でも使えると聞いている。情報源はエルヴィ様だ。
木製のベンチはしっかりしているし、丸いテーブルもあった。並んで座り、食事を始める。両手で掴んで齧り付く料理ばかりだった。串刺しの魚、パンに肉と野菜を挟んだもの。飲み物のコップは、後でお店に返す必要がありそう。
「それで? 何か聞きたいんだろう」
さっさと言ってしまえ。そんな口調でルーカス様に促され、バレていたかと笑う。
「先日の侵入者ですが……誰ですか?」
心当たりがありそうだった。私は薄めた果汁のカップを傾ける。半分ほど飲んで、テーブルに置いた。代わりに串刺しの魚を齧る。お腹から豪快にいくのが、屋台のルールよね!
「ステーン公爵家の次男だ」
「……スッテン……」
そんな名前の人、いたかしら。考え込む私の隣で、なぜかルーカス様の機嫌が上向く。満面の笑みで答えをくれた。
「隣国から求愛に来て、罪人として返送された男だ」
「あ! 顔見てないのに一目惚れを主張した人!!」
あの人、殺害されたんじゃなかったの? 疑問を素直に口に出せば、意外な事実が判明した。地位が高かった罪人って、使い道があるのね。
ルーカス様のスカーフの色に合わせ、私もラベンダーにした。銀髪だから、淡い色も濃い色も似合うルーカス様と腕を組む。街で自由に歩けるなんて久しぶりだった。
あちこちで襲われたり攫われたり、いつも騒動が付き物の私は子爵領以外を徒歩で移動しない。ネヴァライネン子爵領は、金鉱山が王家直轄になっているお陰で、衛兵や騎士が普段から常駐してくれる。安全面ではピカイチだった。
今回はルーカス様の護衛として、複数の騎士が周囲に散っている……らしい。私服で警備しているせいで、私には区別がつかなかった。子爵領の街はのんびりしていて、大きなお店はない。顔見知りばかりの街と違い、領都の賑わいは驚くばかりだ。
見たことのない果物が並び、煌びやかな宝飾店や大きな本屋もあった。きょろきょろしながら歩くので、ルーカス様と腕を組んでいないと逸れてしまいそう。
「寄りたい店はあるか?」
「本が欲しいです。それ以外は揃っていますので」
新作の小説が読みたい。以前は恋愛小説に興味が薄かったが、王妃様やムスコネン公爵夫人にお借りしたら、ハマってしまった。王宮に監禁された時期に増えた趣味だ。そう伝えると、困ったような顔で「あの時は悪かった」と謝られた。
私の安全のための監禁なので、気にしていないと伝える。本屋の扉を開ければ、インク特有の香りがした。心地よい匂いじゃないけれど、何となく落ち着く。ずっと書棚に並べていると薄れるから、新しい本が並ぶ本屋ならでは、だろう。
新作が並ぶ入り口近くの棚を一度通り過ぎ、奥の本棚を眺める。いくつか知らない作家の本を手に取った。それから新作もきちんと確認する。ルーカス様も難しそうな本を何冊か購入した。全部合わせて屋敷に送る。
外へ出て、お店で食事をしようと提案された。断って、屋台やお店で購入した料理を運び、街の大通りにある噴水のそばへ移動した。ここはベンチがあって、自由に誰でも使えると聞いている。情報源はエルヴィ様だ。
木製のベンチはしっかりしているし、丸いテーブルもあった。並んで座り、食事を始める。両手で掴んで齧り付く料理ばかりだった。串刺しの魚、パンに肉と野菜を挟んだもの。飲み物のコップは、後でお店に返す必要がありそう。
「それで? 何か聞きたいんだろう」
さっさと言ってしまえ。そんな口調でルーカス様に促され、バレていたかと笑う。
「先日の侵入者ですが……誰ですか?」
心当たりがありそうだった。私は薄めた果汁のカップを傾ける。半分ほど飲んで、テーブルに置いた。代わりに串刺しの魚を齧る。お腹から豪快にいくのが、屋台のルールよね!
「ステーン公爵家の次男だ」
「……スッテン……」
そんな名前の人、いたかしら。考え込む私の隣で、なぜかルーカス様の機嫌が上向く。満面の笑みで答えをくれた。
「隣国から求愛に来て、罪人として返送された男だ」
「あ! 顔見てないのに一目惚れを主張した人!!」
あの人、殺害されたんじゃなかったの? 疑問を素直に口に出せば、意外な事実が判明した。地位が高かった罪人って、使い道があるのね。
24
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました
下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。
そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。
自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。
そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる