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57.作戦をひっくり返す事態
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逃げてきた貴族や特権階級を集め、そこから切り崩す。かなり乱暴な作戦だが、効果が早く目に見えるのが利点だ。そう説明され、クレチマスはいくつか穴を指摘した。
利用する連中の選別方法と、利用した後の処理方法だ。ここを先に決めないと、計画自体が破綻する。その点はカレンデュラも考えていたようで、案がいくつか追加で提示された。検討して、実行するためにクレチマスも実家に援助を頼むと口にした。
王宮としても、自国の貴族令嬢の危機は見過ごせない。たとえ男爵家の養女であっても、貴族名鑑に名前が載った女性だ。もし見捨てる決断をすれば、今後、王家は貴族達にそっぽを向かれるだろう。
形骸化していても、ビオラは聖女である。帰還させるよう、国として要望も出した。互いに作戦と対策を確認し、実行許可が出る。辺境に領地を持つ各家に協力要請を送り、デルフィニューム公爵家は兵士の派遣を決めた。
だが、決行直前に思わぬ一報が飛び込むこととなる。
「……ビオラ? 囚われたって、え? なぜ……」
タンジー公爵から手紙を受け取ったティアレラは、驚いて言葉を失う。武装した婚約者シオンも、目を見開く。彼の手から鎧の頭が落ち、足の甲に直撃した。
「いたっ、え……本物なのか?」
シオンは身をもって、夢ではないと思い知る。痛む足は思ったより重傷で、この後数日に渡って引きずって歩くことになった。
「なんで驚いてるの?」
デルフィニューム公爵家から派遣された護衛、侍女を連れたビオラは首を傾げる。騒動の内容を知らない彼女は、きょとんとした顔で説明を受けた。徐々に深刻な表情になり、最後は驚きすぎて笑ってしまう。
「えっと……無事だって連絡しないとマズい気がする」
ビオラに言われ、説明よりそちらが先だとシオンが部屋を出た。鎧ががちゃがちゃと音を立て、遠ざかっていくのがわかる。足は相当痛むようで、足音はぎこちなかった。
「ビオラのいた状況を教えて」
追加情報はメモして、後で手紙に直して追加すればいい。ティアレラは手元に紙とペンを用意し、疲れた様子ながらビオラは口を開いた。
侍女がお茶と軽食を用意し、隣国へ同行した騎士達はすでに休んでいる。早く話して休もうと考えたのか、ビオラはやや早口で語った。
予定された支援が終わりに近づいた頃、突然現れた神殿騎士。彼らに捕まりそうになったが、周囲の民が助けてくれたこと。その後、宿に移動して休憩をとり、二度目の支援を終えてから帰還したこと。
「帰り道で襲撃はなかったの?」
「何もないわ。ああ、そうそう。途中まで新興派だっけ? 第三勢力の人達が送ってくれたの」
国境の砦が見える手前まで、彼らが周囲に警戒して同行したという。そのおかげか、盗賊も襲撃もなかった。用意されたパンにたっぷりジャムを塗り、ビオラは頬が膨らむほど頬張った。
「やっぱり美味しい!」
その後の聴取も恙無く終了し、ビオラは丁寧に挨拶して宛てがわれた部屋へ帰った。話の途中から同席したシオンと手分けして、同じ内容の手紙を複数書き上げる。
デルフィニューム公爵邸、王宮、ラックス男爵家、タンジー公爵領。それぞれに宛てた手紙は、ビオラ無事の報を追いかける形で辺境伯領から発送された。
――囚われた聖女はビオラではない、と。
利用する連中の選別方法と、利用した後の処理方法だ。ここを先に決めないと、計画自体が破綻する。その点はカレンデュラも考えていたようで、案がいくつか追加で提示された。検討して、実行するためにクレチマスも実家に援助を頼むと口にした。
王宮としても、自国の貴族令嬢の危機は見過ごせない。たとえ男爵家の養女であっても、貴族名鑑に名前が載った女性だ。もし見捨てる決断をすれば、今後、王家は貴族達にそっぽを向かれるだろう。
形骸化していても、ビオラは聖女である。帰還させるよう、国として要望も出した。互いに作戦と対策を確認し、実行許可が出る。辺境に領地を持つ各家に協力要請を送り、デルフィニューム公爵家は兵士の派遣を決めた。
だが、決行直前に思わぬ一報が飛び込むこととなる。
「……ビオラ? 囚われたって、え? なぜ……」
タンジー公爵から手紙を受け取ったティアレラは、驚いて言葉を失う。武装した婚約者シオンも、目を見開く。彼の手から鎧の頭が落ち、足の甲に直撃した。
「いたっ、え……本物なのか?」
シオンは身をもって、夢ではないと思い知る。痛む足は思ったより重傷で、この後数日に渡って引きずって歩くことになった。
「なんで驚いてるの?」
デルフィニューム公爵家から派遣された護衛、侍女を連れたビオラは首を傾げる。騒動の内容を知らない彼女は、きょとんとした顔で説明を受けた。徐々に深刻な表情になり、最後は驚きすぎて笑ってしまう。
「えっと……無事だって連絡しないとマズい気がする」
ビオラに言われ、説明よりそちらが先だとシオンが部屋を出た。鎧ががちゃがちゃと音を立て、遠ざかっていくのがわかる。足は相当痛むようで、足音はぎこちなかった。
「ビオラのいた状況を教えて」
追加情報はメモして、後で手紙に直して追加すればいい。ティアレラは手元に紙とペンを用意し、疲れた様子ながらビオラは口を開いた。
侍女がお茶と軽食を用意し、隣国へ同行した騎士達はすでに休んでいる。早く話して休もうと考えたのか、ビオラはやや早口で語った。
予定された支援が終わりに近づいた頃、突然現れた神殿騎士。彼らに捕まりそうになったが、周囲の民が助けてくれたこと。その後、宿に移動して休憩をとり、二度目の支援を終えてから帰還したこと。
「帰り道で襲撃はなかったの?」
「何もないわ。ああ、そうそう。途中まで新興派だっけ? 第三勢力の人達が送ってくれたの」
国境の砦が見える手前まで、彼らが周囲に警戒して同行したという。そのおかげか、盗賊も襲撃もなかった。用意されたパンにたっぷりジャムを塗り、ビオラは頬が膨らむほど頬張った。
「やっぱり美味しい!」
その後の聴取も恙無く終了し、ビオラは丁寧に挨拶して宛てがわれた部屋へ帰った。話の途中から同席したシオンと手分けして、同じ内容の手紙を複数書き上げる。
デルフィニューム公爵邸、王宮、ラックス男爵家、タンジー公爵領。それぞれに宛てた手紙は、ビオラ無事の報を追いかける形で辺境伯領から発送された。
――囚われた聖女はビオラではない、と。
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