57 / 87
57.作戦をひっくり返す事態
しおりを挟む
逃げてきた貴族や特権階級を集め、そこから切り崩す。かなり乱暴な作戦だが、効果が早く目に見えるのが利点だ。そう説明され、クレチマスはいくつか穴を指摘した。
利用する連中の選別方法と、利用した後の処理方法だ。ここを先に決めないと、計画自体が破綻する。その点はカレンデュラも考えていたようで、案がいくつか追加で提示された。検討して、実行するためにクレチマスも実家に援助を頼むと口にした。
王宮としても、自国の貴族令嬢の危機は見過ごせない。たとえ男爵家の養女であっても、貴族名鑑に名前が載った女性だ。もし見捨てる決断をすれば、今後、王家は貴族達にそっぽを向かれるだろう。
形骸化していても、ビオラは聖女である。帰還させるよう、国として要望も出した。互いに作戦と対策を確認し、実行許可が出る。辺境に領地を持つ各家に協力要請を送り、デルフィニューム公爵家は兵士の派遣を決めた。
だが、決行直前に思わぬ一報が飛び込むこととなる。
「……ビオラ? 囚われたって、え? なぜ……」
タンジー公爵から手紙を受け取ったティアレラは、驚いて言葉を失う。武装した婚約者シオンも、目を見開く。彼の手から鎧の頭が落ち、足の甲に直撃した。
「いたっ、え……本物なのか?」
シオンは身をもって、夢ではないと思い知る。痛む足は思ったより重傷で、この後数日に渡って引きずって歩くことになった。
「なんで驚いてるの?」
デルフィニューム公爵家から派遣された護衛、侍女を連れたビオラは首を傾げる。騒動の内容を知らない彼女は、きょとんとした顔で説明を受けた。徐々に深刻な表情になり、最後は驚きすぎて笑ってしまう。
「えっと……無事だって連絡しないとマズい気がする」
ビオラに言われ、説明よりそちらが先だとシオンが部屋を出た。鎧ががちゃがちゃと音を立て、遠ざかっていくのがわかる。足は相当痛むようで、足音はぎこちなかった。
「ビオラのいた状況を教えて」
追加情報はメモして、後で手紙に直して追加すればいい。ティアレラは手元に紙とペンを用意し、疲れた様子ながらビオラは口を開いた。
侍女がお茶と軽食を用意し、隣国へ同行した騎士達はすでに休んでいる。早く話して休もうと考えたのか、ビオラはやや早口で語った。
予定された支援が終わりに近づいた頃、突然現れた神殿騎士。彼らに捕まりそうになったが、周囲の民が助けてくれたこと。その後、宿に移動して休憩をとり、二度目の支援を終えてから帰還したこと。
「帰り道で襲撃はなかったの?」
「何もないわ。ああ、そうそう。途中まで新興派だっけ? 第三勢力の人達が送ってくれたの」
国境の砦が見える手前まで、彼らが周囲に警戒して同行したという。そのおかげか、盗賊も襲撃もなかった。用意されたパンにたっぷりジャムを塗り、ビオラは頬が膨らむほど頬張った。
「やっぱり美味しい!」
その後の聴取も恙無く終了し、ビオラは丁寧に挨拶して宛てがわれた部屋へ帰った。話の途中から同席したシオンと手分けして、同じ内容の手紙を複数書き上げる。
デルフィニューム公爵邸、王宮、ラックス男爵家、タンジー公爵領。それぞれに宛てた手紙は、ビオラ無事の報を追いかける形で辺境伯領から発送された。
――囚われた聖女はビオラではない、と。
利用する連中の選別方法と、利用した後の処理方法だ。ここを先に決めないと、計画自体が破綻する。その点はカレンデュラも考えていたようで、案がいくつか追加で提示された。検討して、実行するためにクレチマスも実家に援助を頼むと口にした。
王宮としても、自国の貴族令嬢の危機は見過ごせない。たとえ男爵家の養女であっても、貴族名鑑に名前が載った女性だ。もし見捨てる決断をすれば、今後、王家は貴族達にそっぽを向かれるだろう。
形骸化していても、ビオラは聖女である。帰還させるよう、国として要望も出した。互いに作戦と対策を確認し、実行許可が出る。辺境に領地を持つ各家に協力要請を送り、デルフィニューム公爵家は兵士の派遣を決めた。
だが、決行直前に思わぬ一報が飛び込むこととなる。
「……ビオラ? 囚われたって、え? なぜ……」
タンジー公爵から手紙を受け取ったティアレラは、驚いて言葉を失う。武装した婚約者シオンも、目を見開く。彼の手から鎧の頭が落ち、足の甲に直撃した。
「いたっ、え……本物なのか?」
シオンは身をもって、夢ではないと思い知る。痛む足は思ったより重傷で、この後数日に渡って引きずって歩くことになった。
「なんで驚いてるの?」
デルフィニューム公爵家から派遣された護衛、侍女を連れたビオラは首を傾げる。騒動の内容を知らない彼女は、きょとんとした顔で説明を受けた。徐々に深刻な表情になり、最後は驚きすぎて笑ってしまう。
「えっと……無事だって連絡しないとマズい気がする」
ビオラに言われ、説明よりそちらが先だとシオンが部屋を出た。鎧ががちゃがちゃと音を立て、遠ざかっていくのがわかる。足は相当痛むようで、足音はぎこちなかった。
「ビオラのいた状況を教えて」
追加情報はメモして、後で手紙に直して追加すればいい。ティアレラは手元に紙とペンを用意し、疲れた様子ながらビオラは口を開いた。
侍女がお茶と軽食を用意し、隣国へ同行した騎士達はすでに休んでいる。早く話して休もうと考えたのか、ビオラはやや早口で語った。
予定された支援が終わりに近づいた頃、突然現れた神殿騎士。彼らに捕まりそうになったが、周囲の民が助けてくれたこと。その後、宿に移動して休憩をとり、二度目の支援を終えてから帰還したこと。
「帰り道で襲撃はなかったの?」
「何もないわ。ああ、そうそう。途中まで新興派だっけ? 第三勢力の人達が送ってくれたの」
国境の砦が見える手前まで、彼らが周囲に警戒して同行したという。そのおかげか、盗賊も襲撃もなかった。用意されたパンにたっぷりジャムを塗り、ビオラは頬が膨らむほど頬張った。
「やっぱり美味しい!」
その後の聴取も恙無く終了し、ビオラは丁寧に挨拶して宛てがわれた部屋へ帰った。話の途中から同席したシオンと手分けして、同じ内容の手紙を複数書き上げる。
デルフィニューム公爵邸、王宮、ラックス男爵家、タンジー公爵領。それぞれに宛てた手紙は、ビオラ無事の報を追いかける形で辺境伯領から発送された。
――囚われた聖女はビオラではない、と。
208
お気に入りに追加
653
あなたにおすすめの小説
聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
王侯貴族、結婚相手の条件知ってますか?
時見 靜
恋愛
病弱な妹を虐げる悪女プリシア・セノン・リューゲルト、リューゲルト公爵家の至宝マリーアン・セノン・リューゲルト姉妹の評価は真っ二つに別れていたけど、王太子の婚約者に選ばれたのは姉だった。
どうして悪評に塗れた姉が選ばれたのか、、、
その理由は今夜の夜会にて
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる