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58.伝令、ギリギリセーフ
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国王の許可、大義名分の確認と検証、デルフィニューム公爵家の私兵を準備、後方支援も手配した。完璧だと自画自賛しつつ、カレンデュラは自らも乗馬服に着替えていた。
「待て、カレンデュラ。お前の同行は認めていない」
「お父様、同行の許可は不要ですわ。自らの意思で出陣します」
「もっと悪い! 絶対にダメだ」
父娘喧嘩を始めた二人を、クレチマスは呆れ顔で見つめた。驚いた表情のリッピアは「カレンデュラ様、凛々しいです」と賛同している様子だ。
「どっちも譲らんだろうな」
苦笑いするのは国王フィゲリウスだった。王宮の一角を占拠したカレンデュラは、クレチマス監修の元で立てた案を持ち込み、国の上層部を説得し終えたばかり。盛り上がる室内に、辺境からの手紙が届く。
飛び込んだ伝令が、渡し終えたその場に倒れ込んだ。案内の侍従が慌てる横で、騎士達が運んでいく。全力を出し切った仲間が倒れる姿に慣れているため、さほど驚きはなさそうだった。医務室でいいかと相談しながら、伝令が運び出される。
侍従が恭しく扉を閉めたが、室内ではお偉方が首を揃えて手紙を覗き込んでいた。
「っ!? ビオラが……」
「無事だと?」
驚きでカレンデュラと父オスヴァルドが見つめ合う横で、ほわりとリッピアが微笑んだ。
「よかったわ」
「そうだな、リッピアの言う通りだ」
いちゃつくタンジー公爵家の二人をよそに、フィゲリウスはもう一度読み直していた。何か暗号が隠されていないか、もしかしたら読み間違えでは? そんな不安で目を通すこと三回目、手紙を机の上に置いた。
「聖女ビオラは無事……? ならば、誰が聖女が捕縛されたと連絡を……」
リクニス国とエキナセア神聖国、両国が争うことを望んだ勢力の仕業か。深読みしすぎのようだが、国のトップは常に様々な方向へアンテナを張るのが普通だ。たとえ、妻の一人に騙され、息子の愚行を止め損ねた国王であろうと。
政に関しては他国につけ入る隙を与えず、治めてきた実績がある。フィゲリウスが真剣に考え込む隣で、オスヴァルドは胸を撫で下ろしていた。これで愛娘のカレンデュラが危険な戦場に行かずに済む。行かせる気はないが、強気な彼女のこと。止めても勝手に出ていくだろう。
聖女ビオラが無事なら、娘も無事。デルフィニューム公爵家としては、私兵への出費や損失も抑えられて万々歳の報告だった。
「他に捕まった聖女がいたのかしら」
「そもそも、最初の連絡の信憑性が疑わしくなってきた」
混乱が落ち着くと、今度は原因究明が始まる。公爵家の二人は国王と共に、考えられる限りの可能性を並べた。
「悪いが、帰せてもらう」
義妹リッピアの肩を抱いたクレチマスの発言は届くことなく、真剣な表情の三人の耳を抜けていった。念の為、扉の外に控える侍従にも伝言を頼み、クレチマスは王宮を出た。
「もしかしたら……いや、デルフィニューム公爵令嬢が思いつくだろう」
一瞬よぎった可能性を、首を振って流す。こういった場面で濁すことが、一種のフラグになる。その認識がないまま、タンジー公爵家の馬車は帰宅した。
「待て、カレンデュラ。お前の同行は認めていない」
「お父様、同行の許可は不要ですわ。自らの意思で出陣します」
「もっと悪い! 絶対にダメだ」
父娘喧嘩を始めた二人を、クレチマスは呆れ顔で見つめた。驚いた表情のリッピアは「カレンデュラ様、凛々しいです」と賛同している様子だ。
「どっちも譲らんだろうな」
苦笑いするのは国王フィゲリウスだった。王宮の一角を占拠したカレンデュラは、クレチマス監修の元で立てた案を持ち込み、国の上層部を説得し終えたばかり。盛り上がる室内に、辺境からの手紙が届く。
飛び込んだ伝令が、渡し終えたその場に倒れ込んだ。案内の侍従が慌てる横で、騎士達が運んでいく。全力を出し切った仲間が倒れる姿に慣れているため、さほど驚きはなさそうだった。医務室でいいかと相談しながら、伝令が運び出される。
侍従が恭しく扉を閉めたが、室内ではお偉方が首を揃えて手紙を覗き込んでいた。
「っ!? ビオラが……」
「無事だと?」
驚きでカレンデュラと父オスヴァルドが見つめ合う横で、ほわりとリッピアが微笑んだ。
「よかったわ」
「そうだな、リッピアの言う通りだ」
いちゃつくタンジー公爵家の二人をよそに、フィゲリウスはもう一度読み直していた。何か暗号が隠されていないか、もしかしたら読み間違えでは? そんな不安で目を通すこと三回目、手紙を机の上に置いた。
「聖女ビオラは無事……? ならば、誰が聖女が捕縛されたと連絡を……」
リクニス国とエキナセア神聖国、両国が争うことを望んだ勢力の仕業か。深読みしすぎのようだが、国のトップは常に様々な方向へアンテナを張るのが普通だ。たとえ、妻の一人に騙され、息子の愚行を止め損ねた国王であろうと。
政に関しては他国につけ入る隙を与えず、治めてきた実績がある。フィゲリウスが真剣に考え込む隣で、オスヴァルドは胸を撫で下ろしていた。これで愛娘のカレンデュラが危険な戦場に行かずに済む。行かせる気はないが、強気な彼女のこと。止めても勝手に出ていくだろう。
聖女ビオラが無事なら、娘も無事。デルフィニューム公爵家としては、私兵への出費や損失も抑えられて万々歳の報告だった。
「他に捕まった聖女がいたのかしら」
「そもそも、最初の連絡の信憑性が疑わしくなってきた」
混乱が落ち着くと、今度は原因究明が始まる。公爵家の二人は国王と共に、考えられる限りの可能性を並べた。
「悪いが、帰せてもらう」
義妹リッピアの肩を抱いたクレチマスの発言は届くことなく、真剣な表情の三人の耳を抜けていった。念の為、扉の外に控える侍従にも伝言を頼み、クレチマスは王宮を出た。
「もしかしたら……いや、デルフィニューム公爵令嬢が思いつくだろう」
一瞬よぎった可能性を、首を振って流す。こういった場面で濁すことが、一種のフラグになる。その認識がないまま、タンジー公爵家の馬車は帰宅した。
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