56 / 100
56.聖女捕獲の一報
しおりを挟む
「ビオラが……捕獲された?」
タンジー公爵からの知らせを受け取り、カレンデュラは愕然とした。作戦の一環とはいえ、彼女を隣国へ派遣したのは自分だ。その責任と後悔が胸に押し寄せる。行かせるのではなかった、そうではないわ。もっと守りを固めるべきだったのかも。
混乱しながら、後悔を振り払う。後でも間に合うことは今すべきではなかった。まずはビオラの安全確保が最優先だ。カレンデュラは大急ぎで王宮へ伝令を出す。と同時に、作戦を立てるためにクレチマスを呼び出した。
義妹リッピア同席なら……と返事を寄越したクレチマスを待てず、カレンデュラは行動を起こす。タンジー公爵家の王都屋敷に向かった。返信は途中で受け取り、そのまま先触れとほぼ同時に到着する。
「君らしいが、かなり礼儀に欠けた行いだ」
「でしたら、後でいかようにもお詫びしますわ。ビオラが囚われました」
「は?」
初手で情報を共有する。ここで無駄な駆け引きをする時間が惜しかった。カレンデュラの表情から嘘ではないと判断し、クレチマスは客間へ彼女を通す。隣にリッピアを座らせ、男女二人きりの状態を避けた。公爵家同士、いつ噂になってもおかしくないのだ。
「ラックス男爵令嬢には、デルフィニューム公爵家の護衛がついていたはずだ」
「ええ。まだ報告がないの。おそらく……」
一緒に囚われたか、始末されたか。言いづらい部分を濁し、カレンデュラはきゅっと唇を噛んだ。普段はしない無作法だが、クレチマスは目を細めただけで指摘しない。気持ちは理解できた。同じ日本から来た者同士、どうしたって感情移入はある。
「領地より伝令が参りました」
執事が報告を上げ、手紙を受け取ったクレチマスはその場で開封した。公爵夫人の手筆で、今回の情報が端的に記されている。ほぼ同時にタンジー公爵と手分けをして書き記し、伝令の速さで到着に差が出たのだろう。
「王宮には伝令を出したけれど、届いているかもしれないわね」
カレンデュラは綺麗に整えた髪が崩れるのも気にせず、くしゃりと指を入れて俯いた。髪を引っ張る指先に力がこもる。
「後悔する時間が惜しいの。救出作戦を考えるから、指摘してほしいわ」
求めているのは参謀役だ。作戦の立案はカレンデュラ一人でも可能だが、前世も含めて戦場に立った経験などない。欠落した視点を補ってきたのが、友人カージナリス辺境伯令嬢ティアレラだった。今回、彼女は領地に帰っている。
同じ辺境出身のタンジー公爵子息クレチマスに、その役割を求めた。一瞬だけ躊躇い、クレチマスは承諾する。僅かに迷ったのは、義妹が隣に座るからだ。彼女を遠ざける必要も理由もないが、あまり厳しい現実に晒したくない本音もあった。それでも……国家や友人の一大事とあれば動く。
覚悟を見せたクレチマスに、眉尻を下げたカレンデュラは微妙な表情を向けた。愛でも恋でもなく、手のかかる弟を見るような眼差しだ。
「作戦は考えたの。危険な部分と抜け穴を見つけて」
カレンデュラは己の作戦に自信がある。だから自らは気付けない。現実の戦場で崩壊しかねない危険を、先に見つけて塞ぎたかった。
タンジー公爵からの知らせを受け取り、カレンデュラは愕然とした。作戦の一環とはいえ、彼女を隣国へ派遣したのは自分だ。その責任と後悔が胸に押し寄せる。行かせるのではなかった、そうではないわ。もっと守りを固めるべきだったのかも。
混乱しながら、後悔を振り払う。後でも間に合うことは今すべきではなかった。まずはビオラの安全確保が最優先だ。カレンデュラは大急ぎで王宮へ伝令を出す。と同時に、作戦を立てるためにクレチマスを呼び出した。
義妹リッピア同席なら……と返事を寄越したクレチマスを待てず、カレンデュラは行動を起こす。タンジー公爵家の王都屋敷に向かった。返信は途中で受け取り、そのまま先触れとほぼ同時に到着する。
「君らしいが、かなり礼儀に欠けた行いだ」
「でしたら、後でいかようにもお詫びしますわ。ビオラが囚われました」
「は?」
初手で情報を共有する。ここで無駄な駆け引きをする時間が惜しかった。カレンデュラの表情から嘘ではないと判断し、クレチマスは客間へ彼女を通す。隣にリッピアを座らせ、男女二人きりの状態を避けた。公爵家同士、いつ噂になってもおかしくないのだ。
「ラックス男爵令嬢には、デルフィニューム公爵家の護衛がついていたはずだ」
「ええ。まだ報告がないの。おそらく……」
一緒に囚われたか、始末されたか。言いづらい部分を濁し、カレンデュラはきゅっと唇を噛んだ。普段はしない無作法だが、クレチマスは目を細めただけで指摘しない。気持ちは理解できた。同じ日本から来た者同士、どうしたって感情移入はある。
「領地より伝令が参りました」
執事が報告を上げ、手紙を受け取ったクレチマスはその場で開封した。公爵夫人の手筆で、今回の情報が端的に記されている。ほぼ同時にタンジー公爵と手分けをして書き記し、伝令の速さで到着に差が出たのだろう。
「王宮には伝令を出したけれど、届いているかもしれないわね」
カレンデュラは綺麗に整えた髪が崩れるのも気にせず、くしゃりと指を入れて俯いた。髪を引っ張る指先に力がこもる。
「後悔する時間が惜しいの。救出作戦を考えるから、指摘してほしいわ」
求めているのは参謀役だ。作戦の立案はカレンデュラ一人でも可能だが、前世も含めて戦場に立った経験などない。欠落した視点を補ってきたのが、友人カージナリス辺境伯令嬢ティアレラだった。今回、彼女は領地に帰っている。
同じ辺境出身のタンジー公爵子息クレチマスに、その役割を求めた。一瞬だけ躊躇い、クレチマスは承諾する。僅かに迷ったのは、義妹が隣に座るからだ。彼女を遠ざける必要も理由もないが、あまり厳しい現実に晒したくない本音もあった。それでも……国家や友人の一大事とあれば動く。
覚悟を見せたクレチマスに、眉尻を下げたカレンデュラは微妙な表情を向けた。愛でも恋でもなく、手のかかる弟を見るような眼差しだ。
「作戦は考えたの。危険な部分と抜け穴を見つけて」
カレンデュラは己の作戦に自信がある。だから自らは気付けない。現実の戦場で崩壊しかねない危険を、先に見つけて塞ぎたかった。
228
お気に入りに追加
695
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる