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294.口に触られたのは浮気?
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お母さんも魚を捕まえに出掛けて、洞窟の中は人が少なくなる。真ん中の部屋で卵を温めるカイサお姉さんと僕、ボリスだけ。お父さんは奥の部屋を広くするのに夢中みたい。音が煩くないように魔法を使ってくれたので、今は静かだった。
「一緒に行ってもよかったのよ」
カイサお姉さんが優しく声を掛けてくれたけど、僕は約束を守りたい。
「あのね、僕が約束を守らないと……誰も僕との約束を守ってくれなくなるよ」
だから我慢なの。そう言ったら、偉いねと舐めてくれた。カイサお姉さんはお兄さん達より温かい。お母さんもお父さんより温かいの。不思議に思って聞いたら、メスは卵を産んだり育てる間は体温が高いのだと教えてもらった。卵を温めるし、赤ちゃんもお母さんが冷たいとびっくりしちゃうから?
お姉さんとお話しする僕の横で、ボリスは欠伸をして昼寝を始めた。いつも難しい話をすると寝ちゃうの、まだまだボリスは子どもなんだね。やっぱりお兄ちゃんの僕がしっかりしなくちゃ。
入り口で音がしたから顔を向けるけど、何も見えない。誰か帰ってきたの? カイサお姉さんも首を伸ばすけど、よく見えないって。僕が見に行くことにして部屋を出る。入り口の通路を進んで、途中で見知らぬ人と出会った。
「だれ?」
「くそっ、見つかった!」
「何で見つかったんだ?」
隠れる場所がない通路を歩いてきたのに、変なこと言う人達。ギラギラする長い剣を持った人と、木の枝みたいな棒を持った人は、どっちも僕よりずっと大きかった。ピンクのスカートを握った僕に手を伸ばす。怖い。叩かれる!
「セティ、怖い。助けて!」
その言葉に反応した男達が僕の口を塞いだ。直後、悲鳴を上げて手を離す。びっくりした。胸の辺りがほんのり暖かい。引っ張った鎖の先で、魔術師のタグが光っていた。再び手を伸ばす男を避けて後ろに逃げた僕は、お父さんを呼んだ。
「お父さん! 変な人がいる!!」
ぐああああ! 威嚇する大きな声がして、お父さんが奥から出て来る。大急ぎでお父さんに駆け寄ろうとした僕を、途中でセティが受け止めた。神様の姿になってる。一緒にガイアとカイルも来ていた。
「なんだ? あれ」
「大丈夫か? イシス、何をされた?」
安心して泣き出した僕は、必死でセティに伝える。口に触られたから、これは浮気なの? 僕は悪い子になった? あと叩こうとしたし、僕を捕まえようとした。しゃくりあげながら伝えた内容に、声が聞こえるカイルとガイアが眉を寄せる。
「僕らの愛し子に随分なことをしてくれたね」
「軽く滅びておけ」
ガイアが凄んだら、後ろでカイルがもっと怖いことを言った。びっくりしすぎて涙が引っ込んだ僕の前で、お父さんが出口を岩で塞ぐ。暗くなるけど、ちゃんと見えた。神族の目は便利だろう? そう言って頭を撫でるガイアに頷く。神様の目だと見えるんだね。
「カイルス、簡単に滅ぼすんじゃないよ。こういうのは見せしめにして、二度と近づかないようにしないとね。帝国を滅ぼしても湧いて出る害虫らしい姿にしようか」
にこにことガイアが笑顔で言う。でもこの笑顔は違うね。本当は怒ってるみたい。さっきの2人は床に這いつくばって何か叫んでるけど、セティが僕の耳を塞いだから聞こえなかった。
「一緒に行ってもよかったのよ」
カイサお姉さんが優しく声を掛けてくれたけど、僕は約束を守りたい。
「あのね、僕が約束を守らないと……誰も僕との約束を守ってくれなくなるよ」
だから我慢なの。そう言ったら、偉いねと舐めてくれた。カイサお姉さんはお兄さん達より温かい。お母さんもお父さんより温かいの。不思議に思って聞いたら、メスは卵を産んだり育てる間は体温が高いのだと教えてもらった。卵を温めるし、赤ちゃんもお母さんが冷たいとびっくりしちゃうから?
お姉さんとお話しする僕の横で、ボリスは欠伸をして昼寝を始めた。いつも難しい話をすると寝ちゃうの、まだまだボリスは子どもなんだね。やっぱりお兄ちゃんの僕がしっかりしなくちゃ。
入り口で音がしたから顔を向けるけど、何も見えない。誰か帰ってきたの? カイサお姉さんも首を伸ばすけど、よく見えないって。僕が見に行くことにして部屋を出る。入り口の通路を進んで、途中で見知らぬ人と出会った。
「だれ?」
「くそっ、見つかった!」
「何で見つかったんだ?」
隠れる場所がない通路を歩いてきたのに、変なこと言う人達。ギラギラする長い剣を持った人と、木の枝みたいな棒を持った人は、どっちも僕よりずっと大きかった。ピンクのスカートを握った僕に手を伸ばす。怖い。叩かれる!
「セティ、怖い。助けて!」
その言葉に反応した男達が僕の口を塞いだ。直後、悲鳴を上げて手を離す。びっくりした。胸の辺りがほんのり暖かい。引っ張った鎖の先で、魔術師のタグが光っていた。再び手を伸ばす男を避けて後ろに逃げた僕は、お父さんを呼んだ。
「お父さん! 変な人がいる!!」
ぐああああ! 威嚇する大きな声がして、お父さんが奥から出て来る。大急ぎでお父さんに駆け寄ろうとした僕を、途中でセティが受け止めた。神様の姿になってる。一緒にガイアとカイルも来ていた。
「なんだ? あれ」
「大丈夫か? イシス、何をされた?」
安心して泣き出した僕は、必死でセティに伝える。口に触られたから、これは浮気なの? 僕は悪い子になった? あと叩こうとしたし、僕を捕まえようとした。しゃくりあげながら伝えた内容に、声が聞こえるカイルとガイアが眉を寄せる。
「僕らの愛し子に随分なことをしてくれたね」
「軽く滅びておけ」
ガイアが凄んだら、後ろでカイルがもっと怖いことを言った。びっくりしすぎて涙が引っ込んだ僕の前で、お父さんが出口を岩で塞ぐ。暗くなるけど、ちゃんと見えた。神族の目は便利だろう? そう言って頭を撫でるガイアに頷く。神様の目だと見えるんだね。
「カイルス、簡単に滅ぼすんじゃないよ。こういうのは見せしめにして、二度と近づかないようにしないとね。帝国を滅ぼしても湧いて出る害虫らしい姿にしようか」
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