【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
295 / 321

293.約束だから首を横に振った

しおりを挟む
 帰り道は、まっすぐだった。お母さんの背中に乗って、僕が眠くなる前に着く。速いけど揺れないから安心だったよ。お母さんにお礼を言って、洞窟の入り口で他のドラゴンに手を振った。僕の家族の手伝いをしてくれてありがとうと叫んだら、また明日顔を出してくれるみたい。

「セティ、用意するお礼は何がいい?」

「まず肉だが、これはファフニール達が捕まえてくる」

 お父さんもお兄さん達も狩りが上手だ。僕じゃ無理なので頷く。セティがにっこり笑って収納のお部屋から桃を取り出した。

「これなんてどうだ? ドラゴンは甘い物が大好きだぞ」

「桃だ! ガイアに貰った分?」

 頷くセティが見せてくれたけど、びっくりするくらいたくさん持ってた。ガイアが僕の好物ならっていっぱい用意してくれてたの。それを全部入れたとセティが笑う。僕は抱き着いてお礼を言った。

「お礼なら寝る前に食べさせてもらうよ」

「……我の前でいい度胸ではないか、破壊神殿」

「番なんだから、愛でるのは当然の権利だろ」

 お父さんとセティが言い争ってる? でも仲良しだから平気だよね。僕は真ん中できょろきょろしたあと、にっこり笑った。僕の顔をべろんと舐めたお父さんが「しかたない」と項垂れる。もしかして、セティがお父さんに勝ったのかな。可哀想だから慰めよう。

 セティの腕をぺちぺち叩いて下ろしてもらい、お父さんの鼻に抱き着いた。ぐわっと持ち上げられて声を立てて笑う僕を見て、ボリスが駆けてきた。自分もとお父さんに強請り、同じように持ち上げてもらう。楽しいね、一緒に遊んでもらった。

「明日は朝から狩りで忙しい。イシス、卵を温める係と見張りをお願いできるかい?」

「うん! 頑張る。出てくるの楽しみだね」

 大きく頷いた。明日はたくさんのドラゴンがまた遊びに来てくれる。僕もおもてなししなくちゃいけない。お父さんとお母さんの子だもん。それに卵を温める役も貰ったから、忙しくなりそう。今夜はセティが収納から出した香草玉でスープを作って、お母さんが捕まえたお肉を食べた。

 朝になるとお兄さん達は全員出て行った。ドラゴンがたくさん集まるから、巣穴が狭いと言ってお父さんが拡張していく。ここ、ルードルフお兄さんのお家だよね。そんなに大きくしたら後で掃除が大変じゃないのかな。

「イシスは面白いことを考える。ドラゴンは奥から風を起こして掃除するから問題ないぞ」

 風で吹き飛ばすんだって。人間のお家みたいに家具がないから平気なんだね。お父さんはせっせと奥へ掘り進めては、外へ岩を捨てる。前に玄関の岩を飛ばしたけど、同じ魔法みたい。僕も使えたらいいのにね。あっちのお手伝いは出来ないから、カイサお姉さんと卵を守る。

「桃の補充に行くけど、一緒に行くか?」

 セティが手を伸ばしたけど、迷って首を横に振った。本当は一緒がいい。でも僕は卵を守るって約束したから、早く帰ってきてね。抱き着いて唸る。そっと手を離すと、セティが困ったような顔をして「すぐに帰る」と約束してくれた。約束は絶対だ。

 卵に駆け寄って抱き締め、セティがいなくなるのを見ないようにした。セティは魔法で移動するから、すぐはすぐ……だけど、離れると胸の中がすーすーして寒くなった気がした。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...