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293.約束だから首を横に振った

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 帰り道は、まっすぐだった。お母さんの背中に乗って、僕が眠くなる前に着く。速いけど揺れないから安心だったよ。お母さんにお礼を言って、洞窟の入り口で他のドラゴンに手を振った。僕の家族の手伝いをしてくれてありがとうと叫んだら、また明日顔を出してくれるみたい。

「セティ、用意するお礼は何がいい?」

「まず肉だが、これはファフニール達が捕まえてくる」

 お父さんもお兄さん達も狩りが上手だ。僕じゃ無理なので頷く。セティがにっこり笑って収納のお部屋から桃を取り出した。

「これなんてどうだ? ドラゴンは甘い物が大好きだぞ」

「桃だ! ガイアに貰った分?」

 頷くセティが見せてくれたけど、びっくりするくらいたくさん持ってた。ガイアが僕の好物ならっていっぱい用意してくれてたの。それを全部入れたとセティが笑う。僕は抱き着いてお礼を言った。

「お礼なら寝る前に食べさせてもらうよ」

「……我の前でいい度胸ではないか、破壊神殿」

「番なんだから、愛でるのは当然の権利だろ」

 お父さんとセティが言い争ってる? でも仲良しだから平気だよね。僕は真ん中できょろきょろしたあと、にっこり笑った。僕の顔をべろんと舐めたお父さんが「しかたない」と項垂れる。もしかして、セティがお父さんに勝ったのかな。可哀想だから慰めよう。

 セティの腕をぺちぺち叩いて下ろしてもらい、お父さんの鼻に抱き着いた。ぐわっと持ち上げられて声を立てて笑う僕を見て、ボリスが駆けてきた。自分もとお父さんに強請り、同じように持ち上げてもらう。楽しいね、一緒に遊んでもらった。

「明日は朝から狩りで忙しい。イシス、卵を温める係と見張りをお願いできるかい?」

「うん! 頑張る。出てくるの楽しみだね」

 大きく頷いた。明日はたくさんのドラゴンがまた遊びに来てくれる。僕もおもてなししなくちゃいけない。お父さんとお母さんの子だもん。それに卵を温める役も貰ったから、忙しくなりそう。今夜はセティが収納から出した香草玉でスープを作って、お母さんが捕まえたお肉を食べた。

 朝になるとお兄さん達は全員出て行った。ドラゴンがたくさん集まるから、巣穴が狭いと言ってお父さんが拡張していく。ここ、ルードルフお兄さんのお家だよね。そんなに大きくしたら後で掃除が大変じゃないのかな。

「イシスは面白いことを考える。ドラゴンは奥から風を起こして掃除するから問題ないぞ」

 風で吹き飛ばすんだって。人間のお家みたいに家具がないから平気なんだね。お父さんはせっせと奥へ掘り進めては、外へ岩を捨てる。前に玄関の岩を飛ばしたけど、同じ魔法みたい。僕も使えたらいいのにね。あっちのお手伝いは出来ないから、カイサお姉さんと卵を守る。

「桃の補充に行くけど、一緒に行くか?」

 セティが手を伸ばしたけど、迷って首を横に振った。本当は一緒がいい。でも僕は卵を守るって約束したから、早く帰ってきてね。抱き着いて唸る。そっと手を離すと、セティが困ったような顔をして「すぐに帰る」と約束してくれた。約束は絶対だ。

 卵に駆け寄って抱き締め、セティがいなくなるのを見ないようにした。セティは魔法で移動するから、すぐはすぐ……だけど、離れると胸の中がすーすーして寒くなった気がした。
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