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240.悪い虫といい虫がいるの

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「えいっ!」

 桟橋という板に飛び降りる。前に船に乗った街じゃなくて、別の街に着いたみたい。海の砂浜が大きく広がるこの場所だと、船がぶつかるんだって。近くに寄れないから、小さな船がお迎えに来た。その船で、海に突き出した桟橋に移動するの。歩くと砂浜に着くんだよ。

 海の中に柱を立ててあるから動かない桟橋を横から見て、僕は感心した。誰がこんなこと考えたんだろう。頭がいい人なんだろうな。海の底に立てた柱は、足の下の砂みたいに波が持って行っちゃわないの?

「イシスは面白いことに興味を持つんだな」

「変?」

「いや、素晴らしいと思うぞ」

 セティが撫でた手を掴んで、ちゃんと繋ぐ。足の下の砂は今も波が奪っていくから、いつかなくなっちゃうかもしれない。そしたら下から何が出て来るのかな。セティの説明だと、砂を奪うけど、ちゃんと波が戻すんだよ。返すの、偉いよね。

「今日はこの街に泊って休もうか。明日は森に入ってフェルを呼ぶぞ」

「フェル、こんな遠くでもわかるの?」

 来たことない街なのに、ちゃんと僕達がいるの分かる? 首を傾げると、何人か知らない人が手を振ってくれた。振り返そうとしたら、そっちの手をセティが掴む。両手を繋ぐと歩きづらいと思う。今度は反対に首を傾げた僕に、セティが苦笑いした。

「成長したらそれはそれで、悪い虫が増えるなんてな」

「虫? 悪い虫がいるの?」

「ああ、そこら中にたくさんだ。オレから離れるなよ」

「うん」

 絶対に手を離さない。虫が刺したら痒いし、痛い。ずっと赤くて大変なの。寝てる間に刺されると治るのは時間かかるけど、痒くないんだよ。あの虫は悪い虫じゃないのかな。

 ぶっと噴き出したセティが何でもないと言いながら、僕の手を引いて歩き出す。フェルはもうこっちへ向かってるから、明日合流なんだ。先にご飯を買うのかと思ったら、宿を決めると言われた。今日は大きな船が着いたから、宿が混むみたい。

 お風呂がある宿を見つけてお金を払って、すぐに街に出た。ご飯もだけど、本を買うんだ。セティが連れて行ってくれた本屋さんは大きな街で入った店より小さくて、でも天井までびっしり本が並んでいた。引っ張ると崩れてきそう。

「絵本もいいが、この辺でももう読めるだろ」

 いくつかセティが選んでいる横で、僕は1冊の本を開いた。絵は時々しかないけど、表にセティみたいな人の絵がある。黒髪と紫の目の人、隣はガイアに似てる。肌が日焼けしてて白っぽい濁った色の髪で描いてあった。

「それも買おうか?」

「うん、僕これ読んでみたい」

 セティに似た人が書いてあるから、きっと凄いお話だよ。期待しながら本のお金を払ったセティが収納にしまうのを見届け、今度はジュースや食べ物を買いに行った。海の向こうで買ったご飯は、みんなあげたから残ってない。

 パンはいくつもあって、くねくねと捻じれた形のを買った。強く触ると皮が割れちゃうから、お店の人も優しく袋に入れてる。大切に抱っこして宿に戻った。このパン、いつものより茶色いね。匂いも甘い。楽しみだな。
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