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217.船に乗るからまたね
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街にまた降りると言われて、怖かった。変な人が触ると気持ち悪いし、鱗を盗ろうとしたんでしょ? お父さんやお母さん、お兄さん達が痛い思いして剥いだ鱗なのに。僕の大切な宝物だよ。
唇を尖らせて嫌だと訴えたら、セティが困った顔になった。困らせたいんじゃないけど、あの門兵がいる場所は嫌だった。
「もう触らないぞ、ずっと抱っこしてるか?」
少し考える。抱っこなら触られないのかな? ちらっと上目遣いに見ると、セティが僕の答えを待ってる。僕も大きくなったから、ずっと抱っこは疲れると思う。だから……。
「手を繋いでてもいい?」
「もちろんだ。腕を組もうか。それと人に触られないようにヴェールを掛けたらいい」
手を繋ぐより、腕を組む方が距離が近いから安全と教えてもらった。ヴェールという薄い布を被れば人と目を合わせなくても平気だって。このヴェールって、前に神殿に行くとき被った布に似てる。変装用だと言って、セティが赤い髪と青い目になった。僕もお揃いにしてもらう。
「船に乗るから、通り過ぎるだけだ」
船……海に浮いてる家に乗るの? 凄い! お父さんの背中に乗って帰ってくるときも見たけど、初めてだね。セティも行くと言うので、僕は頷いた。怖い場所はすぐに通り過ぎるから。全部片づけてからフェルに手を振った。フェルは船に乗れないんだって。残念だけど、帰ってきたらまた遊ぼうね。
ぎゅっと抱き締めてから離れる。セティに手を引かれながら、何度も振り返って手を振った。フェルは見送りながら大きく尻尾を左右に揺らす。お別れの時の手みたいだ。坂道を降りてフェルが見えなくなってから、僕はセティと腕を組んだ。
絡めて寄り掛かっても平気だから、すごく近い。嬉しい。早めにヴェールも掛けてもらった。薄いから外がちゃんと見えるのに、中はあまり見えないの。白っぽくてお姫様のドレスみたいな生地だった。町の入り口で丁寧に案内され、セティは歩いていく。僕が歩きやすいように、ゆっくりにしていた。
布で見えないからきょろきょろと周囲を見回す。
「こちらです。この度は本当に申し訳ございませんでした。あの男は厳重に、私が責任をもって処罰いたします」
「任せる。手抜きすればバレるからな」
セティがむすっとした口調で注意する。僕と目が合うと、表情が柔らかくなった。ほっとする。
「それから、ご領主様よりお詫びにご招待したいとの……」
「断る」
セティの口調が怖くなった。でもヴェールの上から僕を撫でる手は優しい。話している間に船が見えた。大きい。小さなお家が浮いてると思ってたのに、近くで見るとこんなに大きいんだね。見上げる大きさの船に顎を逸らしたら、ふわりとヴェールが飛んだ。慌てて手を伸ばす。
「こらっ! 落ちるぞ」
足元ががくんと崩れた感じがして、僕は慌ててセティにしがみついた。ヴェールがひらひらと風に踊りながら戻ってくるのを捕まえた。僕、足を踏み外したみたい。セティが僕を抱き締めてくれた。でも……セティの足元に地面がないの。
「ごめんなさい、ありがとう」
「ヴェールは気にしなくていいし、落ちたのもオレが助けるから平気だ」
両方の意味を込めて謝ったの、セティはすぐに気付いた。ほっとして頷いた僕は、ぽけっとした顔で見つめてくる人の視線に首を竦める。じろじろ見られるのは嫌い。セティの胸に顔を埋めて、僕は動けなくなった。
唇を尖らせて嫌だと訴えたら、セティが困った顔になった。困らせたいんじゃないけど、あの門兵がいる場所は嫌だった。
「もう触らないぞ、ずっと抱っこしてるか?」
少し考える。抱っこなら触られないのかな? ちらっと上目遣いに見ると、セティが僕の答えを待ってる。僕も大きくなったから、ずっと抱っこは疲れると思う。だから……。
「手を繋いでてもいい?」
「もちろんだ。腕を組もうか。それと人に触られないようにヴェールを掛けたらいい」
手を繋ぐより、腕を組む方が距離が近いから安全と教えてもらった。ヴェールという薄い布を被れば人と目を合わせなくても平気だって。このヴェールって、前に神殿に行くとき被った布に似てる。変装用だと言って、セティが赤い髪と青い目になった。僕もお揃いにしてもらう。
「船に乗るから、通り過ぎるだけだ」
船……海に浮いてる家に乗るの? 凄い! お父さんの背中に乗って帰ってくるときも見たけど、初めてだね。セティも行くと言うので、僕は頷いた。怖い場所はすぐに通り過ぎるから。全部片づけてからフェルに手を振った。フェルは船に乗れないんだって。残念だけど、帰ってきたらまた遊ぼうね。
ぎゅっと抱き締めてから離れる。セティに手を引かれながら、何度も振り返って手を振った。フェルは見送りながら大きく尻尾を左右に揺らす。お別れの時の手みたいだ。坂道を降りてフェルが見えなくなってから、僕はセティと腕を組んだ。
絡めて寄り掛かっても平気だから、すごく近い。嬉しい。早めにヴェールも掛けてもらった。薄いから外がちゃんと見えるのに、中はあまり見えないの。白っぽくてお姫様のドレスみたいな生地だった。町の入り口で丁寧に案内され、セティは歩いていく。僕が歩きやすいように、ゆっくりにしていた。
布で見えないからきょろきょろと周囲を見回す。
「こちらです。この度は本当に申し訳ございませんでした。あの男は厳重に、私が責任をもって処罰いたします」
「任せる。手抜きすればバレるからな」
セティがむすっとした口調で注意する。僕と目が合うと、表情が柔らかくなった。ほっとする。
「それから、ご領主様よりお詫びにご招待したいとの……」
「断る」
セティの口調が怖くなった。でもヴェールの上から僕を撫でる手は優しい。話している間に船が見えた。大きい。小さなお家が浮いてると思ってたのに、近くで見るとこんなに大きいんだね。見上げる大きさの船に顎を逸らしたら、ふわりとヴェールが飛んだ。慌てて手を伸ばす。
「こらっ! 落ちるぞ」
足元ががくんと崩れた感じがして、僕は慌ててセティにしがみついた。ヴェールがひらひらと風に踊りながら戻ってくるのを捕まえた。僕、足を踏み外したみたい。セティが僕を抱き締めてくれた。でも……セティの足元に地面がないの。
「ごめんなさい、ありがとう」
「ヴェールは気にしなくていいし、落ちたのもオレが助けるから平気だ」
両方の意味を込めて謝ったの、セティはすぐに気付いた。ほっとして頷いた僕は、ぽけっとした顔で見つめてくる人の視線に首を竦める。じろじろ見られるのは嫌い。セティの胸に顔を埋めて、僕は動けなくなった。
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