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189.王が知らぬは通らない(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
息子を心配する父が、甲高い声を出した。それは耳が痛くなり顔を顰めるような、強い音だ。悲鳴とはまるで違う音域は、遠くまで届いただろう。
「ああ、キレたか」
自らが管理する聖域で勝手に採掘を行い、妻子を連れての飛行中に攻撃された。それだけでも腹立たしいが、妻であるヴルムの羽を傷つけて4番目の息子イシスを攫おうとする。敵対しない方がおかしい。
「ファフニール、敵はウーラノスだ」
オレの大神殿がある国は、どうやらオレとドラゴン達を敵に回す覚悟があるようだ。そう告げるオレに、ファフニールが口を薄く開いて笑った。ぎざぎざの歯がむき出しになり、獰猛さが際立つ。怖がるかと思ったが、腕に飛び込んだイシスは目を見開いて思いがけない発言をする。
「お父さん、かっこいい」
「そう来るか」
怖いと震えるかと思ったが、予想外の反応に上空のファフニールが奇妙な動きをする。踊ってる、わけじゃないよな? どちらにしろ戦端は開かれた。ドラゴンが住まう聖域として設定され、他の四神獣が認めた土地だ。ここは人間による開発が禁じられてきた。手付かずの豊富な資源に目が眩んだ行いなら、相応の報いが必要だ。
「そこの人間、戻って王に伝えるがよい。ウーラノスはタイフォンの加護を失った。我はウーラノスを守らぬ。我が伴侶、兄弟神、友に危害を加える国など滅びればよい」
この場にいたらゲリュオンも参加しそうだ。青ざめる騎士らしき男を無視し、長い裾を捌いてイシスを抱き上げる。両手が塞がったが、イシスは大切そうに布に包んだガイアも保護していた。上空に迎えに来た親友へ合図を送ったオレに、後ろで剣を抜く音が聞こえる。
「無駄なことはやめよ。早く王に伝えた方が良いのではないか?」
オレを攻撃するなど無意味だ。そう告げた視界で、男は己の首に剣を当てていた。予想外というほどのことはなく、騎士なら王のために命を投げ出すくらいはするだろう。だがこの場で命を賭して願うなら、国を見捨てないでくれ……か。
「王は何もご存じありませぬ。我ら辺境貴族の独断によるもの。なにとぞ」
「辺境貴族が勝手に動いた、ゆえに王は関わりないと申すか」
なるほど。だが、そのような言い訳が通用するはずもない。
「王が貴族の独断専行を許した。それ自体が失態であろう。話はそれだけか」
部下を管理できない上司など無用だ。国王とは、国の象徴であり代表者だった。何かあれば責任を取り、己の命で国を守る立場なのだ。部下の命をもって庇われるなど言語道断。その程度の覚悟で、神々とドラゴンが協定を交わした聖地を荒らしたなら……早急に滅ぼした方が後のためだろう。
がくりと崩れ落ちた男を放置し、ファフニールの背に転移した。嬉しそうに喉を鳴らす竜帝は、長い首で背に乗った息子の無事を確認する。嬉しそうに笑うイシスの表情に安心したのか。彼は妻子が待つ丘へ向けて転進した。その目を狙う矢が飛び、オレは無造作に攻撃を弾く。まだ懲りないのか。
地上では攻撃を止めようとする先ほどの騎士と、あきらめずに矢をつがえる別の兵士が見えた。右手を掲げ、ぱちんと鳴らす。破壊神の代名詞になっている雷撃が弓を直撃し、兵士が真っ黒に焦げた。怯える周囲の視線が上空へ向かう。
『ふむ、我がブレスの出番がないか』
「伝言を申し付けた人間まで焼くだろ? それじゃ二度手間だ」
また新しい伝言係を探さなくてはならない。それは面倒だと告げれば、少し考えたあとファフニールも賛同した。ふと静かなことに気づいて腕の中を覗くと……イシスは寝息を立てている。よほど気を張っていたらしい。頬に接吻け、舞い上がるドラゴンの背で愛し子の無事を確かめた。
息子を心配する父が、甲高い声を出した。それは耳が痛くなり顔を顰めるような、強い音だ。悲鳴とはまるで違う音域は、遠くまで届いただろう。
「ああ、キレたか」
自らが管理する聖域で勝手に採掘を行い、妻子を連れての飛行中に攻撃された。それだけでも腹立たしいが、妻であるヴルムの羽を傷つけて4番目の息子イシスを攫おうとする。敵対しない方がおかしい。
「ファフニール、敵はウーラノスだ」
オレの大神殿がある国は、どうやらオレとドラゴン達を敵に回す覚悟があるようだ。そう告げるオレに、ファフニールが口を薄く開いて笑った。ぎざぎざの歯がむき出しになり、獰猛さが際立つ。怖がるかと思ったが、腕に飛び込んだイシスは目を見開いて思いがけない発言をする。
「お父さん、かっこいい」
「そう来るか」
怖いと震えるかと思ったが、予想外の反応に上空のファフニールが奇妙な動きをする。踊ってる、わけじゃないよな? どちらにしろ戦端は開かれた。ドラゴンが住まう聖域として設定され、他の四神獣が認めた土地だ。ここは人間による開発が禁じられてきた。手付かずの豊富な資源に目が眩んだ行いなら、相応の報いが必要だ。
「そこの人間、戻って王に伝えるがよい。ウーラノスはタイフォンの加護を失った。我はウーラノスを守らぬ。我が伴侶、兄弟神、友に危害を加える国など滅びればよい」
この場にいたらゲリュオンも参加しそうだ。青ざめる騎士らしき男を無視し、長い裾を捌いてイシスを抱き上げる。両手が塞がったが、イシスは大切そうに布に包んだガイアも保護していた。上空に迎えに来た親友へ合図を送ったオレに、後ろで剣を抜く音が聞こえる。
「無駄なことはやめよ。早く王に伝えた方が良いのではないか?」
オレを攻撃するなど無意味だ。そう告げた視界で、男は己の首に剣を当てていた。予想外というほどのことはなく、騎士なら王のために命を投げ出すくらいはするだろう。だがこの場で命を賭して願うなら、国を見捨てないでくれ……か。
「王は何もご存じありませぬ。我ら辺境貴族の独断によるもの。なにとぞ」
「辺境貴族が勝手に動いた、ゆえに王は関わりないと申すか」
なるほど。だが、そのような言い訳が通用するはずもない。
「王が貴族の独断専行を許した。それ自体が失態であろう。話はそれだけか」
部下を管理できない上司など無用だ。国王とは、国の象徴であり代表者だった。何かあれば責任を取り、己の命で国を守る立場なのだ。部下の命をもって庇われるなど言語道断。その程度の覚悟で、神々とドラゴンが協定を交わした聖地を荒らしたなら……早急に滅ぼした方が後のためだろう。
がくりと崩れ落ちた男を放置し、ファフニールの背に転移した。嬉しそうに喉を鳴らす竜帝は、長い首で背に乗った息子の無事を確認する。嬉しそうに笑うイシスの表情に安心したのか。彼は妻子が待つ丘へ向けて転進した。その目を狙う矢が飛び、オレは無造作に攻撃を弾く。まだ懲りないのか。
地上では攻撃を止めようとする先ほどの騎士と、あきらめずに矢をつがえる別の兵士が見えた。右手を掲げ、ぱちんと鳴らす。破壊神の代名詞になっている雷撃が弓を直撃し、兵士が真っ黒に焦げた。怯える周囲の視線が上空へ向かう。
『ふむ、我がブレスの出番がないか』
「伝言を申し付けた人間まで焼くだろ? それじゃ二度手間だ」
また新しい伝言係を探さなくてはならない。それは面倒だと告げれば、少し考えたあとファフニールも賛同した。ふと静かなことに気づいて腕の中を覗くと……イシスは寝息を立てている。よほど気を張っていたらしい。頬に接吻け、舞い上がるドラゴンの背で愛し子の無事を確かめた。
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