189 / 321
188.オレの伴侶だぞ(SIDEセティ)
しおりを挟む
*****SIDE セティ
「イシスっ!!」
大丈夫、僕が付いていくから。落下するイシスを追う形で、ガイアが飛び付く。地上からの攻撃で羽を痛めたヴルムが旋回する。安全に降りられる地上を探す彼女を放り出して追うわけにいかなかった。ガイアがいる。創造神であるガイアが一緒にいれば命の危険はない。だが怖がりなイシスの心が心配だった。
『私はいいから行っておやり』
ヴルムの言葉に目を見開いた後、ゆっくり深呼吸した。
「お前を置いて追いかけたら、オレがイシスに叱られる」
それもそうだと笑うヴルムは、それほど酷いケガではないようだ。旋回する角度も安定しており、身軽なフェリクスが焼いた丘の上に降り立った。心配そうに隣に舞い降りたのはルードルフだ。足元で騒ぐ人間の声に気づくと、魔力を高めた。
近づく者をけん制するため、大地から針が突き出す。文字通り剣山となった丘の上で、オレはまずヴルムの傷を確認した。当人が主張するように傷は浅い。ガイアがいれば一瞬で治癒できるが、オレは苦手なのだ。出来ないわけではないので、調整しながら傷を塞いで痛みを散らす。
「応急処置だ。この先はガイアに頼もう」
イシスが気にしていたトムの籠を首から外し、ルードルフから降りたゲリュオンに渡した。シェリアが手を伸ばし、代わりに受け取る。シェリアはしきりに「イシスは?」と心配を口にする。それをゲリュオンが「問題ない」と宥めていた。いいカップルじゃないか。
感じ取れるガイアの気配が落ち着いてるので、イシスも問題はない。ヴルムを心配する声が聞こえて、やっぱりと笑った。それを伝え、迎えに行こうとした瞬間……イシスの緊張が伝わった。
人間? それも鎧を着た者がいるのか! この状況で武装した人間なんて敵しかいない。まだ状況が理解できていないイシスは、危険を察知していなかった。強く呼べ、早く! 居場所を特定するオレの焦りが、高まる。
ドラゴンの背に乗るより、直接転移するために場所を確定しなくては。気を静めようとしたオレの脳裏に、泣き叫ぶイシスの声が飛び込んだ。
わかんない、怖い。いやだ、来ないで! セティ、助けて!! 僕、また捕まっちゃう。誰かに食べられちゃう!!
「セティ、お父さん、助けてっ!」
道が開く。イシスが固有名詞を口にしたことで、オレの脳裏にイシスの居場所がくっきりと浮かんだ。同時に呼ばれたファフニールが、蹴散らしていた人間の軍を放置して咆哮を上げる。一目散に飛んでいく方向は、オレがイシスを感知した方角と同じだった。
イシスはオレの伴侶だ!
「誰が食わせるか」
鎧姿の男とイシスの間に割り込んだ。タイフォン様と呼んだ男の声に、信者であるウーラノスの訛りを感じとる。あの国は愚かにも、また禁忌に手を出した。王族も含め、全員滅ぼすしかあるまい。怒りと苛立ち、様々な負の感情が心を黒く染めた。
我が友であるドラゴンを傷つけ、神々に刃を向けた。知らなかったでは済まぬ。この領域は神々が支配する聖域として定められた。それゆえに手付かずの自然と鉱脈が残されている。その鉱脈を狙った昨夜の爆破も含め、人間は協定違反をしたのだ。見逃す余地はなかった。
「我が贄に手を出すか。愚かな人間よ、聖地の山を崩し、竜帝の妻を傷つけた。そなたらの行為は、神々への宣戦布告とみなす」
震えるイシスに気づいて、オレは怒りを必死で抑える。深呼吸を数回繰り返し、愛し子を振り返った。
「もう大丈夫だ、イシス」
「うん」
素直に頷いたイシスの上に、ドラゴンの影がかかる。どうやら竜帝ファフニールもご登場らしい。
「イシスっ!!」
大丈夫、僕が付いていくから。落下するイシスを追う形で、ガイアが飛び付く。地上からの攻撃で羽を痛めたヴルムが旋回する。安全に降りられる地上を探す彼女を放り出して追うわけにいかなかった。ガイアがいる。創造神であるガイアが一緒にいれば命の危険はない。だが怖がりなイシスの心が心配だった。
『私はいいから行っておやり』
ヴルムの言葉に目を見開いた後、ゆっくり深呼吸した。
「お前を置いて追いかけたら、オレがイシスに叱られる」
それもそうだと笑うヴルムは、それほど酷いケガではないようだ。旋回する角度も安定しており、身軽なフェリクスが焼いた丘の上に降り立った。心配そうに隣に舞い降りたのはルードルフだ。足元で騒ぐ人間の声に気づくと、魔力を高めた。
近づく者をけん制するため、大地から針が突き出す。文字通り剣山となった丘の上で、オレはまずヴルムの傷を確認した。当人が主張するように傷は浅い。ガイアがいれば一瞬で治癒できるが、オレは苦手なのだ。出来ないわけではないので、調整しながら傷を塞いで痛みを散らす。
「応急処置だ。この先はガイアに頼もう」
イシスが気にしていたトムの籠を首から外し、ルードルフから降りたゲリュオンに渡した。シェリアが手を伸ばし、代わりに受け取る。シェリアはしきりに「イシスは?」と心配を口にする。それをゲリュオンが「問題ない」と宥めていた。いいカップルじゃないか。
感じ取れるガイアの気配が落ち着いてるので、イシスも問題はない。ヴルムを心配する声が聞こえて、やっぱりと笑った。それを伝え、迎えに行こうとした瞬間……イシスの緊張が伝わった。
人間? それも鎧を着た者がいるのか! この状況で武装した人間なんて敵しかいない。まだ状況が理解できていないイシスは、危険を察知していなかった。強く呼べ、早く! 居場所を特定するオレの焦りが、高まる。
ドラゴンの背に乗るより、直接転移するために場所を確定しなくては。気を静めようとしたオレの脳裏に、泣き叫ぶイシスの声が飛び込んだ。
わかんない、怖い。いやだ、来ないで! セティ、助けて!! 僕、また捕まっちゃう。誰かに食べられちゃう!!
「セティ、お父さん、助けてっ!」
道が開く。イシスが固有名詞を口にしたことで、オレの脳裏にイシスの居場所がくっきりと浮かんだ。同時に呼ばれたファフニールが、蹴散らしていた人間の軍を放置して咆哮を上げる。一目散に飛んでいく方向は、オレがイシスを感知した方角と同じだった。
イシスはオレの伴侶だ!
「誰が食わせるか」
鎧姿の男とイシスの間に割り込んだ。タイフォン様と呼んだ男の声に、信者であるウーラノスの訛りを感じとる。あの国は愚かにも、また禁忌に手を出した。王族も含め、全員滅ぼすしかあるまい。怒りと苛立ち、様々な負の感情が心を黒く染めた。
我が友であるドラゴンを傷つけ、神々に刃を向けた。知らなかったでは済まぬ。この領域は神々が支配する聖域として定められた。それゆえに手付かずの自然と鉱脈が残されている。その鉱脈を狙った昨夜の爆破も含め、人間は協定違反をしたのだ。見逃す余地はなかった。
「我が贄に手を出すか。愚かな人間よ、聖地の山を崩し、竜帝の妻を傷つけた。そなたらの行為は、神々への宣戦布告とみなす」
震えるイシスに気づいて、オレは怒りを必死で抑える。深呼吸を数回繰り返し、愛し子を振り返った。
「もう大丈夫だ、イシス」
「うん」
素直に頷いたイシスの上に、ドラゴンの影がかかる。どうやら竜帝ファフニールもご登場らしい。
54
お気に入りに追加
1,351
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】少年王が望むは…
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる