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105.目の色と同じ水晶を掘った

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 丘を登らず、ぐるりと歩いた。僕の足元を歩くトムが、ときどき足の間に入るから踏みそうになる。気を付けながら進んだ先で、ぽこっと突き出た岩を見つけてセティが足を止めた。

「これだ」

 こんこんと岩を叩く。セティの背丈ほどの岩はちょっと艶があった。お父さん達の鱗に似てるかな。近づいて撫でると、真ん中より上に何か出た。艶のある黒い丸い物が動いて、僕の方を見てる気がする。顔を近づけると、トムが飛びついた。お腹の袋にごそごそと潜り込んで「ふぅ――っ」と威嚇する。

「ここが頭だ。ほら、丘全部が体なんだよ」

 言われて上を見上げる。ぺたんと平らにお腹を付けて寝てるんだと言われても、大きすぎてよくわからなかった。セティが木の枝で亀の絵を描いてくれる。すごく上手だね。スープ皿をひっくり返したみたいな形で、前に顔、後ろに尻尾、横に手足が出て来るんだって。

「滅多に動かないんだが……よう、久しぶり」

 セティが挨拶して、鼻っぽいところを叩いた。すると穴が開いて息を吹く。水の匂いがした。

『久しいのぉ』

「嫁が出来たんで連れてきた」

 ほらっと僕を抱っこして目に近づける。真っ黒の目は瞬きすると、金色になった。お父さん達と同じだ。みんな金色なんだね。じっくり僕を眺めた後、また目が閉じて黒くなる。

『純粋な子のようじゃが、どこから攫ってきよった?』

「お前らにオレがどう思われてるかよく分かるな。捧げられた贄だ」

『人間とは、ほんに非道なことを為す生き物よ』

 呆れかえった口調で息をつく。その溜め息が川と同じ匂いで、僕は目を見開いた。

「セティ、水の匂いがする」

 驚いた顔をしたセティだけど、すぐに撫でてくれた。この亀さんは水の近くに棲んでいて、水の神様と同じなんだって。水の匂いの理由が分かって、僕は頷いた。大きな亀さんに飛びついて、鼻先を撫でてみる。冷たいけど気持ちいい。

『全部回るのかい?』

「ああ。神になる前に顔合わせはしておきたい」

『ならば今夜はわしの隣で寝るがよいわ』

 ぐわっと亀さんが両手足を出し、身を起こす。大地が大きく揺れて体に積もっていた土が落ちてきた。セティに促されて、トムの入った袋を抱きしめて飛び込む。亀さんのお腹の下は安全だった。がらがらと石や土が落ちる音がして、草が千切れる音も聞こえる。

『ほれ、渡しておこう』

 何だろう、これ。何かお皿みたいな欠片をもらった。艶があって綺麗。

「ありがと、綺麗だね」

『ほほっ、褒められるとは心地よいのぉ』

 笑った亀さんが少し動き、足元に日が当たるとキラキラしていた。

「こりゃまた、ずいぶん寝てたんだな」

 セティが教えてくれたのは、この亀さんは水の神様の1人で普段は動かないこと。その腹の下には銀が集まり、水晶が生える。動かない時間が長いほど、たくさん水晶と銀が光るみたい。持って行っていいと言われて、セティがいくつか拾って収納へ入れた。

 僕も拾ったけど、途中で違う色の水晶を見つける。色がセティの目の色と同じ、紫なんだよ。すごい! 大きい柱みたいになった紫を指さした。

「見て、セティ。目の色と同じ」

「珍しいな。掘り起こすか」

 二人で穴を掘っていると、袋から出たトムも手伝ってくれた。トムは掘るの早いけど、土を僕に飛ばすんだ。笑ったセティがトムの向きを変えたら、僕に飛んでこなくなったけど。セティと一緒に掘った柱に体重をかけると、ぐらっと傾いて抜けた。

「すごい! 大きいねぇ」

 嬉しくなった。隣に立つとお腹の辺りまであるよ。僕の足より長い。

「これも貰っていいの?」

『おうおう、腹の下で何やら刺さると思ったら……持っておいき』

 亀さんは低い声で笑って許してくれた。セティが収納にしまい、僕達は野営の準備を始める。テントを張って、亀さんに寄り掛かってご飯を用意した。焼いたお肉、亀さんには小さいけど「あーん」したら食べてくれた。嬉しい。
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