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66.聞こえない祈り(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
一瞬の隙を突かれた。
運ばれた食事を受け取って振り返った先に、イシスがいない。ベッドの上に座って窓の外を見ていた子供が落ちたのかと、焦って窓の外を確認した。しかし路上にも誰もいなくて……。
2階の窓から音もなく子供を攫える者――暗殺者か。昨夜7人も殺してやったのに、まだ懲りないとは。怒りと手ぬるい処置をした後悔で、頭の中が赤く黒く塗り替えられていく。この破壊神タイフォンの手元から、大切な贄であり宝であるイシスを奪うとは……。
この世界は存続を放棄したいのか?
もしあの子を傷つけていたら、傷ひとつに対し国をひとつ滅ぼしてやろう。命を奪っていたら、すべての生き物に死を与えてやろう。そこに慈悲や容赦などない。最高位の神から宝を奪うなら、その程度の神罰は覚悟の上でなくてはならぬ。
沸騰した感情に、周囲の空間が引きずられる。歪んで流れる景色を睨みつけ、震える手を握り締めた。気持ちを落ち着けなくては、イシスの祈りの声が聞こえない。深呼吸して耳を澄ませる。
イシス、オレを呼べ。セティでもタイフォンでもいい。オレの名を呼び続けろ。
強く願うのに、その声が聞こえなかった。取り乱すわけにいかない。ゲリュオンを呼ぶか? だが手がかりがなく、どちらへ向かったかも分からないのに……どうする?
叫びながら世界中を破壊したい衝動を必死に抑える。そうしなければ、奪われたイシスも一緒に破壊してしまう。
焦る気持ちを必死で宥めた。あの子の意識が途絶えているのだ。必ず意識が戻るはず、そうすれば声はオレに届く。目の前にオレがいなければ、あの子は不安になって神に祈るだろう。そう仕向けたのだから。
頼る者がないイシスに、オレだけを擦り込んだ。1人にされたと知ったあの子が呼ぶのは、タイフォン神でありオレだ。
怒りで震える拳を握りしめたまま、ベッドの端に座った。触れたシーツにイシスの温もりはない。もしすでに殺されていたら……? 二度と呼ばれないのではないか。不安が過ぎる。
何か他の手段を持たせればよかった。居場所の分かる術具や術式があれば、意識がなくとも取り返せたのに。
僕、セティがいないと怖い――掠れて届いた声はまだ祈りではない。不安が滲んだ声は揺らいでいた。苦しい、寒い。そんな感情が滲む響きに、力を溜めた。場所が分かり次第、転移を使うつもりだ。
神様、お願いです。僕をセティに会わせてください――ようやく聞こえた祈りは、タイフォンへ向けたもの。頭の中にある地図を一気に絞り込んでいく。立体的な風景が確定した瞬間、オレは何も考えずに飛んだ。
怖がっている、何かに怯え、寒さに震えていた。躊躇する余裕などない。
出現先の探査を省略し、手にした術式を放った。一瞬で眼前の景色が切り替わる。開け放たれた窓から吹く風に、用意された料理から湯気が奪われていった。
一瞬の隙を突かれた。
運ばれた食事を受け取って振り返った先に、イシスがいない。ベッドの上に座って窓の外を見ていた子供が落ちたのかと、焦って窓の外を確認した。しかし路上にも誰もいなくて……。
2階の窓から音もなく子供を攫える者――暗殺者か。昨夜7人も殺してやったのに、まだ懲りないとは。怒りと手ぬるい処置をした後悔で、頭の中が赤く黒く塗り替えられていく。この破壊神タイフォンの手元から、大切な贄であり宝であるイシスを奪うとは……。
この世界は存続を放棄したいのか?
もしあの子を傷つけていたら、傷ひとつに対し国をひとつ滅ぼしてやろう。命を奪っていたら、すべての生き物に死を与えてやろう。そこに慈悲や容赦などない。最高位の神から宝を奪うなら、その程度の神罰は覚悟の上でなくてはならぬ。
沸騰した感情に、周囲の空間が引きずられる。歪んで流れる景色を睨みつけ、震える手を握り締めた。気持ちを落ち着けなくては、イシスの祈りの声が聞こえない。深呼吸して耳を澄ませる。
イシス、オレを呼べ。セティでもタイフォンでもいい。オレの名を呼び続けろ。
強く願うのに、その声が聞こえなかった。取り乱すわけにいかない。ゲリュオンを呼ぶか? だが手がかりがなく、どちらへ向かったかも分からないのに……どうする?
叫びながら世界中を破壊したい衝動を必死に抑える。そうしなければ、奪われたイシスも一緒に破壊してしまう。
焦る気持ちを必死で宥めた。あの子の意識が途絶えているのだ。必ず意識が戻るはず、そうすれば声はオレに届く。目の前にオレがいなければ、あの子は不安になって神に祈るだろう。そう仕向けたのだから。
頼る者がないイシスに、オレだけを擦り込んだ。1人にされたと知ったあの子が呼ぶのは、タイフォン神でありオレだ。
怒りで震える拳を握りしめたまま、ベッドの端に座った。触れたシーツにイシスの温もりはない。もしすでに殺されていたら……? 二度と呼ばれないのではないか。不安が過ぎる。
何か他の手段を持たせればよかった。居場所の分かる術具や術式があれば、意識がなくとも取り返せたのに。
僕、セティがいないと怖い――掠れて届いた声はまだ祈りではない。不安が滲んだ声は揺らいでいた。苦しい、寒い。そんな感情が滲む響きに、力を溜めた。場所が分かり次第、転移を使うつもりだ。
神様、お願いです。僕をセティに会わせてください――ようやく聞こえた祈りは、タイフォンへ向けたもの。頭の中にある地図を一気に絞り込んでいく。立体的な風景が確定した瞬間、オレは何も考えずに飛んだ。
怖がっている、何かに怯え、寒さに震えていた。躊躇する余裕などない。
出現先の探査を省略し、手にした術式を放った。一瞬で眼前の景色が切り替わる。開け放たれた窓から吹く風に、用意された料理から湯気が奪われていった。
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