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67.祈りは届いていた

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 じりじりと近づく動物は、絵本で見たことがある。犬? 唸りながら牙を見せて、涎を垂らしていた。あの牙は痛そう。

 神様、死ぬ前にセティに会いたいです。

「イシス!」

 そう願った途端、目の前にセティがいた。大きい動物に背中を向けて、僕の前に膝をつく。体を縛る紐と縄を、取り出したナイフで切った。締め付けられて苦しかった胸が楽になる。

「セ、ティ……?」

「無事か? 噛まれた傷はないか……くそっ、腹に痣がある」

 手を翳したセティの手が温かくて、涙が出た。ずずっと鼻を啜る僕は、きっと汚い顔をしてると思う。鼻水も涙も袖で拭ったけど、袖が汚れてた。

「大丈夫、オレがいる。もう怖くないぞ」

 僕に微笑むセティの後ろで、動物がいっぱい集まっていた。目がぎらぎら輝いて、低い声を上げ続ける。周りは暗くて、幾ついるのか見えなかった。震えながらセティに手を伸ばし、近づいたセティの首に腕を回す。そのまま抱き着いた僕はよじ登った。

 セティが噛まれちゃう。そんなのダメだ、痛いのは僕だけでいい。

 背中にしがみついてセティを守らなくちゃ。そう考えた僕を、苦笑いしたセティが抱っこした。あれ? 僕は背中に行こうとしてたのに。

「守るのはオレの役目だ。イシスは守られてくれ」

 わかったな? そう言われると首を横に振れなくて、頷いていた。セティは僕を抱っこしたまま立ち上がり、右腕を突き出す。広げた手のひらを犬みたいな動物へ向けた。

『我が眷属よ、これはオレの愛し子だ』

 聞いたことのない言葉だった。意味は知らないけど、セティが話しかけた動物達は地面にぺたんと平らになった。へっへっと舌を出して、唸るのをやめている。

「ほら、平気だっただろ?」

 笑うセティに釣られて笑った。怖い動物じゃなかったみたい。

「誰に攫われたか分かるか?」

「ううん」

 全く見えなかった。気づいたら揺れてて、あっという間に縛り付けられた。後ろを見ると大きな木がある。あれに縛られてたのかな。木の下に、紐がいっぱい落ちてる。

 眺めていると、目元をそっと手で隠された。顔をセティに向けたら、頬擦りされる。嬉しくて頬擦りし返した。暗くてよく見えないけど、セティが手を振ったら動物は森に戻っていった。

「今のは狼だ。狼はオレの眷属だから、イシスを傷つけない。森の中で出会ったら頼れ」

「おおかみ……」

「ああ、集団で守ってくれる」

 眷属とか集団はよくわからないけど、僕を傷つけない動物は覚えておこう。いなくなった方を見る僕の頬に、セティの温かい手が触れた。

「冷えているな。宿に帰ろう、腹も減っただろ」

「ご飯?」

「ああ、そうだ」

 ご飯と聞いたら、お腹がぐぅと鳴った。くすくす笑うセティが指をパチンと鳴らす。ぐらっとして目を閉じ、すぐに開くと部屋にいた。

「どうやったの!?」

「神様だからな」

 秘密と言いながら囁かれた言葉に頷き、僕は置いてあった料理の前に座る。熱い時の湯気がないね。首を傾げると、セティが手招きする。一度座った椅子から飛び降りた僕は、差し出された手を握った。

「先に風呂に入って洗おう。汚れてるぞ」

 セティの指が頬を突く。そっか、僕汚れてるんだ。じゃあ洗って綺麗にしないと、ご飯食べられないね。仲良く風呂へ向かった。
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