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63.愚かなことだ(SIDEセティ)

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*****SEID セティ



 愚かなことだ。オレが何も気づかない愚鈍とでも思っているのか。イシスを害するために送り込まれる者は、2種類いた。

 イシスを神から奪おうとする神殿関係者、彼らは分かりやすい。破壊神タイフォンに「大切な者」が出来ると都合が悪いのだろう。

 もう一つは、他の神々の寄越した刺客だ。こちらは少々面倒だった。オレからイシスを奪いたいのか、それとも殺したいのか。判断がしづらい。悪戯の範囲内ならば、跳ね除けて終わりにしてやることも可能だった。

 寝かせたイシスに、いくつもの結界を重ねがけする。直接触れることがないよう、丁寧に……音で起こしてしまわないよう、睡眠を深くして。子供を守る壁を作り上げた。

 わりと苦手な部類に入る結界作りも、イシスを拾ってから一気に上達した。ほぼ毎日使っていれば、嫌でも慣れるものだ。必要に迫られて覚えた技術は、緻密な結界を僅かな時間で組み上げる。指先で弾いて確認し、窓の外へ意識を向けた。

 全部で8人。気配からして両陣営混じっているらしい。牽制しあって潰しあえば相手をしなくても済む。そう考えた直後、自分の思考の変化に笑った。

 破壊神――その名称に相応しく、いつも正面から敵を排除してきた。搦手で相打ちを狙うのは、オレのやり方ではない。出来るだけイシスから離れたくない気持ちが、思わぬ方向へ作用した。

「イシス」

 可愛くて愛おしくて、哀れで憐れな生け贄――他の神の神殿に捧げられたなら、さぞ愛されただろう。真っ直ぐに慈しむことを知らぬ神に捧げられたばかりに、この子は愛し方も愛され方もいびつになっていく。そのゆがみが愛おしい。

 ガシャン、無粋な音でガラスが割られた。砕ける破片が結界に弾かれて落ちる。仕方ないと立ち上がり、侵入者達を睥睨した。お揃いの黒づくめが5人か。小さなナイフのみを手にしているが、身体中に暗器を隠し持つ暗殺専門の連中だ。

 ナイフの刃にも毒が仕込んであるだろう。それを信仰する神に向ける愚か者どもへ、オレは神罰をもって応える。命じた者を含め、全員の命を手の上で転がした。

 比喩ではない。小さな飴玉程度の濁った玉が7つ、手のひらに現れた。

「まず1人」

 左手の指で摘んだ玉を砕く。この場で倒れる者はいなかった。どうやら首謀者の片方らしい。続いて2つ目を砕いた。胸を押さえて苦しむ男が倒れる。仲間の突然の死に顔を見合わせた彼らの玉を、ひとつ、また一つと壊した。

 圧倒的な立場で死を授ける。それは破壊神が死を司る一面を持つことに由来した。神々ならば知っているが、人間の間では失われた言い伝えだろう。訓練された暗殺者は喉を潰していることが多く、彼らも同様だった。苦しそうにしながら息絶える瞬間も、悲鳴や苦痛の声は上がらない。7つすべてを砕いたオレは、別口の襲撃者が逃げる気配を感じた。

 追いかけるか、迷うことはない。どうせまた明日の夜にでも現れるだろう。ならば、イシスから離れる時間が惜しかった。

 指を鳴らして結界を解除し、傷一つなく眠る愛し子を抱き寄せる。眠るイシスが無意識に手を伸ばし、顔を押し付けてきた。起こさないよう横たわり、さらさらの黒髪を撫でる。かなり艶が出てきた髪と丸みを帯びた頬を確かめ、額と唇に触れるだけのキスを落とした。
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