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62.中も外も物騒なことだ(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
宿に戻って食事を先にしたのは、イシスが可愛いことを言うからだ。いや、声に出していなかったか。健気な発言と、ここまでされたのに人を恨まない清らかさに心打たれた。ここまではよかったが、申し訳ないことに欲情してしまう。
一緒に風呂に入るのは後回し、そう考えたのも束の間……あの子は手を捻るようにして、肌に伝う汁を舐め始めた。食べづらそうなイシスのために魚をパンに挟んだのだが、その汁が垂れたらしい。
手を拭けばいいだろう、それは正論だ。だが目の前で繰り広げられる、欲情を掻き立てる光景にそれどころではなかった。思考が溶けていく。このまま襲いたい自分と、必死で止める自分がいる。
思考能力が著しく低下したオレの出した結論は、汁が溢れないよう切ることだった。これが言い訳なのは認めよう。もう少し見ていたい気分と、ひとまず目を逸らす理由が欲しいのが本音だ。鬩ぎ合う感情の間をとって、ちらちらとイシスを見ながらパンを切った。
正直、ドラゴンを切り裂く方が気が楽だ。そのくらい緊張しながらナイフを握った。素直に受け取って食べるイシスの小さな口はパンパンだ。苦しそうだと思い、ジュースの入ったコップを置いた。お行儀よく、すべて飲み込んでからイシスの手が伸びる。
「美味しいか?」
「うん」
微笑んでジュースを足してやる。柑橘系のジュースを薄めて出した。今まで薄味のスープが主食だったイシスにとって、濃い味は食べづらいだろう。徐々に味覚を慣らしてやる必要があった。
魚の脂で光る唇を、ぺろりと舐める舌が赤い。子供の仕草なのに煽られるなんて――他の連中に見せられなかった。ゲリュオンに言われるまでもない。こんなにオレが溺愛する姿を見せたら、絶対に悪戯される。それもタチの悪い連中ばかり思い浮かび、げんなりした。
イシスに気づかれないよう、窓の外に視線を向けた。今夜も来たか。あれだけ痛めつけてやったのに、すぐに追加を補充できる。どうやら大きな組織が絡んでいるらしい。今夜はどんな目に遭わせてやろうか。
にやりと口元に浮かんだ笑みを、イシスは不思議そうに見つめて、へにゃりと笑った。可愛くて、赤毛に偽装した髪を撫でてやる。猫のように柔らかい体が、オレに寄りかかった。
体はまだ細く軽い。なのに寄せられる信頼と気持ちは大きかった。無条件でオレだけを最上の位置に置く子供……贄としてオレに捧げられた、オレだけの宝だ。
「お風呂入る!」
手を引っ張るイシスに頷いて、皿に残ったパンを口に放り込んだ。
「綺麗にして、仲良しのお呪いしよう」
口に入れたパンを吹き出しそうになった。この子はオレに対して何も疑わない。それをいいことに、都合のいい言葉を吹き込んだ。これじゃ呪いと変わらないな。それでも手に入れたい。この子にとって唯一で、最初で最後の相手になりたかった。
神なんて、傲慢で我が侭な生き物だ。オレが神で、イシスは贄で嫁――だったらオレの物を手元で愛でるのは正しい行為だろう?
宿に戻って食事を先にしたのは、イシスが可愛いことを言うからだ。いや、声に出していなかったか。健気な発言と、ここまでされたのに人を恨まない清らかさに心打たれた。ここまではよかったが、申し訳ないことに欲情してしまう。
一緒に風呂に入るのは後回し、そう考えたのも束の間……あの子は手を捻るようにして、肌に伝う汁を舐め始めた。食べづらそうなイシスのために魚をパンに挟んだのだが、その汁が垂れたらしい。
手を拭けばいいだろう、それは正論だ。だが目の前で繰り広げられる、欲情を掻き立てる光景にそれどころではなかった。思考が溶けていく。このまま襲いたい自分と、必死で止める自分がいる。
思考能力が著しく低下したオレの出した結論は、汁が溢れないよう切ることだった。これが言い訳なのは認めよう。もう少し見ていたい気分と、ひとまず目を逸らす理由が欲しいのが本音だ。鬩ぎ合う感情の間をとって、ちらちらとイシスを見ながらパンを切った。
正直、ドラゴンを切り裂く方が気が楽だ。そのくらい緊張しながらナイフを握った。素直に受け取って食べるイシスの小さな口はパンパンだ。苦しそうだと思い、ジュースの入ったコップを置いた。お行儀よく、すべて飲み込んでからイシスの手が伸びる。
「美味しいか?」
「うん」
微笑んでジュースを足してやる。柑橘系のジュースを薄めて出した。今まで薄味のスープが主食だったイシスにとって、濃い味は食べづらいだろう。徐々に味覚を慣らしてやる必要があった。
魚の脂で光る唇を、ぺろりと舐める舌が赤い。子供の仕草なのに煽られるなんて――他の連中に見せられなかった。ゲリュオンに言われるまでもない。こんなにオレが溺愛する姿を見せたら、絶対に悪戯される。それもタチの悪い連中ばかり思い浮かび、げんなりした。
イシスに気づかれないよう、窓の外に視線を向けた。今夜も来たか。あれだけ痛めつけてやったのに、すぐに追加を補充できる。どうやら大きな組織が絡んでいるらしい。今夜はどんな目に遭わせてやろうか。
にやりと口元に浮かんだ笑みを、イシスは不思議そうに見つめて、へにゃりと笑った。可愛くて、赤毛に偽装した髪を撫でてやる。猫のように柔らかい体が、オレに寄りかかった。
体はまだ細く軽い。なのに寄せられる信頼と気持ちは大きかった。無条件でオレだけを最上の位置に置く子供……贄としてオレに捧げられた、オレだけの宝だ。
「お風呂入る!」
手を引っ張るイシスに頷いて、皿に残ったパンを口に放り込んだ。
「綺麗にして、仲良しのお呪いしよう」
口に入れたパンを吹き出しそうになった。この子はオレに対して何も疑わない。それをいいことに、都合のいい言葉を吹き込んだ。これじゃ呪いと変わらないな。それでも手に入れたい。この子にとって唯一で、最初で最後の相手になりたかった。
神なんて、傲慢で我が侭な生き物だ。オレが神で、イシスは贄で嫁――だったらオレの物を手元で愛でるのは正しい行為だろう?
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