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閑話2 蛍招き
2 不審者と行く怪異道中 1
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◆
「あの」
「何かな?」
声をかければ隣を歩く青年はにこやかに首を傾げる。
胡散臭さがやたらと感じられはするが、こうして見ると胸弾む美形だ。
かっこいいというよりは、キレイなのである。
「なんで、蛍を追っちゃダメ、なんですか?」
中三女子ともなれば、恋に恋しつつも、変に現実を見たりする年頃である。
そんなわけで、絶賛中三女子の夏を受験生として謳歌する奈月だって、この胡散臭い青年との一時にちょっと爪痕残せたらぐらいは思ってしまったのだ。
「それは、蛍が魂の表象だからだよ」
だけど、さらりと返ってきた言葉は奈月にはよくわからなかった。
こちらの歩調に合わせてくれている青年は、奈月の歩く速度が見るからに落ちたので、そこを察してくれたらしい。
「『物思へば 沢の蛍も 我が身より あくがれいづる 魂かとぞ見る』」
「和歌ですか?」
「うん、平安時代の恋多き女流歌人、和泉式部が貴船神社に詣でた時に詠んだ和歌だよ」
平安時代、というと『枕草子』の頃か、と奈月は知ってる範囲で思い浮かべる。
「物思いに耽っていると、沢に飛び交う蛍が、まるでこの身から離れて彷徨う人魂のように見えるっていう歌」
「人魂ってあの幽霊とかの人魂、ですか?」
うん、と変わらぬ柔らかい声で、青年は肯定する。
「遊離魂って考え方があってね、昔の人は何かを強く思っていると、勝手に魂があくがれいづ、つまり彷徨い出てしまう、と考えたんだ。同じ和泉式部の『人はいさ 我が魂は はかもなき 宵の夢路に あくがれにけり』も遊離魂を歌った歌だ。それに加えて、『源氏物語』の葵の巻で、葵上をとり殺す六条御息所の生霊みたいに他者に害を与えることがある一方、六条御息所自身がその身体についた魔除けの芥子の匂いが何をしても取れないところから、自身が生霊となった事を察するように、魂側が受けた扱いが本人にフィードバックするとも考えられていた」
「でも、それって昔の考え方、ですよね」
魂、なんてものがあるのか、なんて今の科学でもわからない。
魂の重さは二十一グラム、なんてのも俗信に過ぎないし、その実験の仕方や結果には問題点があったというのも奈月は聞いたことがある。
「昔の考え方だよ。でも、昔の考え方が何もかも劣ってるわけじゃない。そもそも魂はその存在の有無が実証されてないだけだから、わからないのと無いのは全く違う。それに、どちらかというと単に今の世界が規範としている科学が、経験則的に積み上げてどうにか理屈付けた内容を立証する有益性を見出だせていないだけだし」
「ええっと」
「昔の考え方を、古い劣ったものとしか見れない人が多いから、それが本当かを確かめることに価値を見出す人が少ないって話だよ。温故知新って言うぐらいなのだから、もう少しぐらい検めたっていいのに」
そう言ってため息を一つ、青年はつく。
少しだけ物憂げに細められた眼差しが、既に昇った月に照らされているのが絵画のように見えた。
「あの」
「何かな?」
声をかければ隣を歩く青年はにこやかに首を傾げる。
胡散臭さがやたらと感じられはするが、こうして見ると胸弾む美形だ。
かっこいいというよりは、キレイなのである。
「なんで、蛍を追っちゃダメ、なんですか?」
中三女子ともなれば、恋に恋しつつも、変に現実を見たりする年頃である。
そんなわけで、絶賛中三女子の夏を受験生として謳歌する奈月だって、この胡散臭い青年との一時にちょっと爪痕残せたらぐらいは思ってしまったのだ。
「それは、蛍が魂の表象だからだよ」
だけど、さらりと返ってきた言葉は奈月にはよくわからなかった。
こちらの歩調に合わせてくれている青年は、奈月の歩く速度が見るからに落ちたので、そこを察してくれたらしい。
「『物思へば 沢の蛍も 我が身より あくがれいづる 魂かとぞ見る』」
「和歌ですか?」
「うん、平安時代の恋多き女流歌人、和泉式部が貴船神社に詣でた時に詠んだ和歌だよ」
平安時代、というと『枕草子』の頃か、と奈月は知ってる範囲で思い浮かべる。
「物思いに耽っていると、沢に飛び交う蛍が、まるでこの身から離れて彷徨う人魂のように見えるっていう歌」
「人魂ってあの幽霊とかの人魂、ですか?」
うん、と変わらぬ柔らかい声で、青年は肯定する。
「遊離魂って考え方があってね、昔の人は何かを強く思っていると、勝手に魂があくがれいづ、つまり彷徨い出てしまう、と考えたんだ。同じ和泉式部の『人はいさ 我が魂は はかもなき 宵の夢路に あくがれにけり』も遊離魂を歌った歌だ。それに加えて、『源氏物語』の葵の巻で、葵上をとり殺す六条御息所の生霊みたいに他者に害を与えることがある一方、六条御息所自身がその身体についた魔除けの芥子の匂いが何をしても取れないところから、自身が生霊となった事を察するように、魂側が受けた扱いが本人にフィードバックするとも考えられていた」
「でも、それって昔の考え方、ですよね」
魂、なんてものがあるのか、なんて今の科学でもわからない。
魂の重さは二十一グラム、なんてのも俗信に過ぎないし、その実験の仕方や結果には問題点があったというのも奈月は聞いたことがある。
「昔の考え方だよ。でも、昔の考え方が何もかも劣ってるわけじゃない。そもそも魂はその存在の有無が実証されてないだけだから、わからないのと無いのは全く違う。それに、どちらかというと単に今の世界が規範としている科学が、経験則的に積み上げてどうにか理屈付けた内容を立証する有益性を見出だせていないだけだし」
「ええっと」
「昔の考え方を、古い劣ったものとしか見れない人が多いから、それが本当かを確かめることに価値を見出す人が少ないって話だよ。温故知新って言うぐらいなのだから、もう少しぐらい検めたっていいのに」
そう言ってため息を一つ、青年はつく。
少しだけ物憂げに細められた眼差しが、既に昇った月に照らされているのが絵画のように見えた。
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