怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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閑話2 蛍招き

3 不審者と行く怪異道中 2

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「さっき上げた例は顕著けんちょな平安期のものだけど、時代が下っても、一部地方で家におとずれる蛍が客人の先触さきぶれとされたのは、まず遊離魂ゆうりこんの考え方と蛍が魂の表象とされたこと、この二つの延長線上と考えていい」
「……ええっと、つまりそのお客さんの霊が、本人より先に蛍としてやって来るってことですか」
「うん、そういう理屈。でも、その一方で家の中に入ってくる蛍は別の地域では不吉なものとされた。これは遊離魂ゆうりこんではなくて、蛍を死者の魂として見た時に死のけがれがそこにあるからだ。『伊勢物語』の四十五段の『ゆくほたる 雲の上まで ぬべくは 秋風吹くと かりに告げこせ』も死者の魂を蛍に仮託かたくしている。日本の二十四節気にじゅうしせっきには腐草為蛍くちくさほたるなすと言って、蛍は腐った草から生じるものという考え方もあった。とはいえ、死者と蛍を結びつけるのに多大な影響を与えたのは、白居易はくきょいの『長恨歌ちょうごんか』、『夕殿せきでんに蛍飛んでおも悄然しょうぜんたり 秋燈しゅうとうかかげ尽くしていまだ眠ることあたはず』という、楊貴妃の死後の宮殿を歌った箇所からだろうねえ」

するすると古典を引用する青年にびっくりする。
単純にこの人がインテリなのか、それとも霊能力者ってそういうことまで求められるのか。
そう思う奈月なつきの視界の端を、ひゅるり、と蛍光の残像が走る。
目で追いそうになったのをこらえると、青年はにっこり笑った。

「そうそう、今は追っちゃダメ」
「は、はい……死んでる魂も、生きてる魂も蛍なんですね」
「うん。ところで、蛍の語源って、れるというところから、火垂ほたるというふうになったと言われるんだよね」

ああ、と奈月なつきは有名なアニメスタジオの、戦時中を舞台にしたアニメ映画のタイトルを思い出す。
確か、あれの表記はまさにれると書いて「火垂ほたる」だったはずだ。

「『音もせで おも 蛍こそ 鳴く虫よりも あはれなりけれ』、『声はせで 身をのみ 蛍こそ 言ふよりまさる おもなるらめ』。どちらも、蛍をみこんだ歌で、思掛詞かけことばに燃える火を、その縁語えんごとして、ゆる、がすをそれぞれ使用してる。意味としてはどちらも、鳴く虫のように口に出すよりも、無言でその身にとどめた思いを光らせる蛍の方こそ思いが強い、というものだけど」

この人に古文見てもらったら国語の成績上がるかもしれない。
そんな考えが奈月なつきの頭をぎる。

「でも、蛍の光というのは、ルシフェリンとルシフェラーゼによる、タイプの化学反応によるものだ。なのに、その光は火に仮託かたくされる。どうしてそう考えられたんだろうね?」
「……昔の人的には、熱いより、光ることが火だったってことですか?」

月に照らされながら、少し嬉しそうに青年は微笑ほほえんだ。
火というのは、ものが燃えて起きるもの。
燃える、燃焼というのは、一般的に熱をともないながら光り、そして燃えるもの自体はその熱によって大抵朽ちてしまうもの、だ。
そこから熱を取るならば、残るのは光だけになる。
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