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閑話2 蛍招き
1 自覚のある不審者
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「ただ、さっきのはダメ。さっきも言ったけど、アレは呼ぶか招くか、留めるかするもので、追い縋るものじゃないから」
「そんなこと、言われても……というか、ちか」
痴漢、と言いかけると、青年はあからさまにびくっとしてから、あたふたと手を振って、謎の挙動不審な動きをしながら、慌てて口を開いた。
「いや、ちが、止めたかっただけで、そんなつもりは、これっぽっちも、一ミクロンも……いやでもゴメンね、そうだよね、急に僕みたいなのに捕まえられたら、そうね、通報するのが正解だよ、うん……」
徐々に諦めたように目が遠くを見て、威勢というものが、口を縛らなかった風船の空気のように抜けていく。
しょぼくれたその姿は何となく、ゴールデンレトリーバーを思わせた。
特に悪戯がバレて怒られて反省している時の、大きな身体を小さくするように項垂れた。
脳裏を過ぎった寂しさは置いといて、とりあえず、そうした下心みたいなものはないらしい。
というか、胡散臭いけど、これだけキレイな人なら、その気になればそういうのには困らないんじゃないだろうか。
この男の趣味なんて奈月は知らないので、はっきりと思ってのけてしまうが、それこそ男女問わず。
「えっと、その……とりあえず、そういうつもりがなかったのは、わかりました、けど」
そう言うと、遠くを見ていた視線がすっと戻ってくる。
なんなんですか、と言おうとして、その言い方は流石に失礼かと言い淀む。
が、奈月の顔を覗き込むように、首を傾げた青年は、瞬きをしながら口を開いた。
「僕がなんなのかってことかな?」
「……そう、です」
まあ、それぐらいしか言いようがないのだ。
唐突な他者の奇行を、唐突に突然に止めてみせた不審者なのだから。
「んー、所謂霊能力者的な?」
「……はあ」
「胡散臭いって思ってるよね? まあ、いつも思われるから気にしないけど」
先程やたら遠くを見てたのに、この扱いには慣れているのか、やたら立ち直りが早い。
いや、どんだけ胡散臭いんだ。
と、徐々に奈月もペースを取り戻してきた。
そして、そういえば、追いかけたあの蛍は、と振り返ろうとした瞬間、
「ダメだよ」
鋭い声で言われて、振り返りかけた首が静止した。
「振り返っちゃ、ダメ」
「……ダメ、なんですか?」
「うん。というか、ここ、もう舗装されてない道だって、キミ、気付いてる?」
そう言われてはたと気付く。
この辺りは道もまともに舗装されず、周辺住民の陳情によって、辛うじて、お情けで街灯が立っているような場所だ。
蛍を追いかけ出したところから、だいぶ離れていた。
ぞっとした。
うっかり間違えたらそのまま雑木林の中まで突っ込んでいただろうし、どこかの田んぼか畑に突っ込んでいたかもしれない。
「……わ、わたし、なんで、こんなとこまで」
「大丈夫、大丈夫。僕が大丈夫そうなところまで送るよ」
ね、と振り返るのを制止した鋭い声とは真逆の優しい声で言われ、奈月は背に腹は代えられないと思って頷いた。
「それじゃあ、行こうか」
するりと、奈月の背の方、一歩引いた辺りに移動した青年に、軽く肩を押されて、奈月は一歩を踏み出した。
「そんなこと、言われても……というか、ちか」
痴漢、と言いかけると、青年はあからさまにびくっとしてから、あたふたと手を振って、謎の挙動不審な動きをしながら、慌てて口を開いた。
「いや、ちが、止めたかっただけで、そんなつもりは、これっぽっちも、一ミクロンも……いやでもゴメンね、そうだよね、急に僕みたいなのに捕まえられたら、そうね、通報するのが正解だよ、うん……」
徐々に諦めたように目が遠くを見て、威勢というものが、口を縛らなかった風船の空気のように抜けていく。
しょぼくれたその姿は何となく、ゴールデンレトリーバーを思わせた。
特に悪戯がバレて怒られて反省している時の、大きな身体を小さくするように項垂れた。
脳裏を過ぎった寂しさは置いといて、とりあえず、そうした下心みたいなものはないらしい。
というか、胡散臭いけど、これだけキレイな人なら、その気になればそういうのには困らないんじゃないだろうか。
この男の趣味なんて奈月は知らないので、はっきりと思ってのけてしまうが、それこそ男女問わず。
「えっと、その……とりあえず、そういうつもりがなかったのは、わかりました、けど」
そう言うと、遠くを見ていた視線がすっと戻ってくる。
なんなんですか、と言おうとして、その言い方は流石に失礼かと言い淀む。
が、奈月の顔を覗き込むように、首を傾げた青年は、瞬きをしながら口を開いた。
「僕がなんなのかってことかな?」
「……そう、です」
まあ、それぐらいしか言いようがないのだ。
唐突な他者の奇行を、唐突に突然に止めてみせた不審者なのだから。
「んー、所謂霊能力者的な?」
「……はあ」
「胡散臭いって思ってるよね? まあ、いつも思われるから気にしないけど」
先程やたら遠くを見てたのに、この扱いには慣れているのか、やたら立ち直りが早い。
いや、どんだけ胡散臭いんだ。
と、徐々に奈月もペースを取り戻してきた。
そして、そういえば、追いかけたあの蛍は、と振り返ろうとした瞬間、
「ダメだよ」
鋭い声で言われて、振り返りかけた首が静止した。
「振り返っちゃ、ダメ」
「……ダメ、なんですか?」
「うん。というか、ここ、もう舗装されてない道だって、キミ、気付いてる?」
そう言われてはたと気付く。
この辺りは道もまともに舗装されず、周辺住民の陳情によって、辛うじて、お情けで街灯が立っているような場所だ。
蛍を追いかけ出したところから、だいぶ離れていた。
ぞっとした。
うっかり間違えたらそのまま雑木林の中まで突っ込んでいただろうし、どこかの田んぼか畑に突っ込んでいたかもしれない。
「……わ、わたし、なんで、こんなとこまで」
「大丈夫、大丈夫。僕が大丈夫そうなところまで送るよ」
ね、と振り返るのを制止した鋭い声とは真逆の優しい声で言われ、奈月は背に腹は代えられないと思って頷いた。
「それじゃあ、行こうか」
するりと、奈月の背の方、一歩引いた辺りに移動した青年に、軽く肩を押されて、奈月は一歩を踏み出した。
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