怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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3-2 肝試しと大掃除 side B

9 medi- 中 -terr- 地 -aneus 形容詞形成語尾

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「とりあえず、話、元に戻します。メディアと言うと、昨今の一般で言えば媒体ばいたいの訳語……逆かな? メディアを強制的に日本語化すると媒体ばいたいになるっていう方がしっくりきますね」
「わかる。カタカナ語の難しいとこだよね、そういうの」

直人なおとがハンドルを切って、交差点の左折レーンに車を進めながら言う。
生憎あいにく、信号は赤になってしまったので、そのまま停止線で止まった。

「さて、織歌おりかメディアmediaの複数形って知ってます?」
「え? そういう風にくってことは、英語の複数形の文法にのっとって、順当に-sを付けるだけではないってことですよね」
なおさんは?」
「……んー、データdataと同じで元から複数形じゃない? あれもラテン語由来だったよね?」

直人なおとはこう見えて、まあ、車出してくれるぐらいに割と自由がく程度の文筆業者である。
翻訳やったり、雑誌記事書いたりしているとは本人の談だが、オールマイティというべきなのか器用貧乏というべきなのか。
なので、知っていてもさもありなん。

「やっぱり、なおさんは知ってましたか。その通りです。最初から複数形。本来の形はデータ――いえ、ラテン語発音でダータdataの単数形datumダートゥムと同じように、末尾が-umになって、メディアmediaの単数形はmediumメディウムです。えーと、この語末は一般的中性名詞なんで、第二変化でしたっけね」

西洋魔術とか思想のたぐいに触れるのにラテン語とギリシャ語の知識はあって困らないから、その内触れてもらうね、というのは、織歌おりかすで紀美きみからは言われている。
であれば、姉弟子あねでしであるひろすでに通った道か、現在通過途中かである。

「本来のラテン語におけるmediumメディウムは形容詞なので、辞書で引く時は男性形のmediusメディウスで引くべきですね。あいだ、中間、最中さなかなかば。転じて、中庸ちゅうようからの丁度いい。概念としては時間、空間、程度という尺度における端以外ですね。印欧祖語いんおうそご、インド・ヨーロッパの共通先祖の言語から存在する概念の語なので、アングロサクソン系を経由しても似た形になっています。たとえば、夜中を指すmidnightのmid部分とか、真ん中を意味するmiddleとかと根っこが同じってことですね」
地中海mediterranean seaとか中世風medievalもそういうことですか……」
夏至midsummerとか、冬至midwinterもあるよー。まあ、midsummerはシェイクスピアから夏至げしよりも真夏っていうイメージ持っちゃってる人もいる気がするけど」

織歌おりかが知っている英単語と結びつけて理解の促進そくしんはかっていると、更に直人なおとが補足情報を乗っけて来る。
となると、その形容詞の複数形であるならば、メディアmediaの本来的な意味は――

「形容詞が名詞的に使われているとして、それなら本来の意味は中間のもの……?」
「そうです。そして、ここが面倒なんですけど、時空間、程度におけるを指す以上、二点間を結ぶ間は全てmediaメディアと言えるんです」

直人なおとがハンドルを回し、左折する。
そのルームミラーに映ったひろは明らかに、どう説明しようかと悩んでいる渋面じゅうめんだった。
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