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3-2 肝試しと大掃除 side B
10 媒
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「中間は英語でmiddleとかmidway、どちらもmediaと根っこが同じなのが分かりやすいです。けれど、間、英語で表現されるbetweenもまたmediumの範囲内です。結果として、橋渡しするものもまた、中間のもの、mediumであって、だから媒体や媒介、媒という意味になるんです」
「なるほどね、オジサン、見えてきたわ」
直人が納得の声を上げているが、織歌は黙って弘の言葉の続きを待つ。
「一般的にメディアと言ったら、現代ではmass mediaかメディア機器ですね。mass mediaのmassは質量とか、群衆とかいう名詞ですが、この場合、名詞の形容詞的用法でmassmediaになります。メディア機器はデータにアクセスするためのmediaですね」
「なるほど、massmedia……原義として、取材源をmassに至らせるためのmediaということになると」
「実際にそれがちゃんとできてるかというのはまた別の話ね。オジサン、肩身がちょっと狭いし、耳も痛いわ」
直人が苦みを含みながらも、少しおちゃらけたように言葉を零す。
「ですが、我々の界隈で媒なんて言ったら、一つだけなんです。霊媒はわたし達の理解からすれば層の架け橋。そうでなくとも、霊という異域の存在と、生ける人というこの世の存在を媒する者ですから」
「……でも、それは日本語において、では?」
「いえ、ラテン語medium の派生した先、英語のmedium の意味の一つとして霊媒があるんです。とはいえ」
弘が一拍置いて、口を尖らせる。
「複数形が単純に-s付けるだけとされてるのと、向こうの文化的に、西洋のスピリチュアリズム最盛期……十九世紀半ば頃から、箔付けのために使用されたという可能性が否めません」
「箔付け」
「簡単な話だよ、織歌ちゃん。語彙として存在するけど普段使わない言葉って、特別感が出るでしょ」
思わず繰り返した織歌に、直人があっさりとそう言った。
「よくさ、小説とかアニメとかの呪文の詠唱の言葉で汝って二人称使われるでしょ。でもあれ、古語として考えると、御前よりも敬意がこもってないわけ。でも、現代の日常会話で御前は使われても汝は使われない。だから、汝の方が特別感があってそれっぽいとされるわけ」
「その汝も、もとは汝貴ということで、敬意がないわけではないですけど、意外と敬語に込められた敬意って時限性があるというか、擦り切れていくというか、手垢がつくというか……頻繁に使うと特別感と共になくなるっぽいんですよね。しかし、汝の場合、汝や汝はまだあるけど、汝系はどこに行ってしまったのか……」
「それ、どっちかというと、汝が役割語的に現代の語彙に取り込まれたからじゃない? 役割語的には汝って古めかしい、仰々しい、儀式めいてる二人称の呼びかけってところでしょ」
弘も直人も人の事は言えない。
そう思いながら、織歌は思いっきり脱線した二人の会話を聞いていた。
「なるほどね、オジサン、見えてきたわ」
直人が納得の声を上げているが、織歌は黙って弘の言葉の続きを待つ。
「一般的にメディアと言ったら、現代ではmass mediaかメディア機器ですね。mass mediaのmassは質量とか、群衆とかいう名詞ですが、この場合、名詞の形容詞的用法でmassmediaになります。メディア機器はデータにアクセスするためのmediaですね」
「なるほど、massmedia……原義として、取材源をmassに至らせるためのmediaということになると」
「実際にそれがちゃんとできてるかというのはまた別の話ね。オジサン、肩身がちょっと狭いし、耳も痛いわ」
直人が苦みを含みながらも、少しおちゃらけたように言葉を零す。
「ですが、我々の界隈で媒なんて言ったら、一つだけなんです。霊媒はわたし達の理解からすれば層の架け橋。そうでなくとも、霊という異域の存在と、生ける人というこの世の存在を媒する者ですから」
「……でも、それは日本語において、では?」
「いえ、ラテン語medium の派生した先、英語のmedium の意味の一つとして霊媒があるんです。とはいえ」
弘が一拍置いて、口を尖らせる。
「複数形が単純に-s付けるだけとされてるのと、向こうの文化的に、西洋のスピリチュアリズム最盛期……十九世紀半ば頃から、箔付けのために使用されたという可能性が否めません」
「箔付け」
「簡単な話だよ、織歌ちゃん。語彙として存在するけど普段使わない言葉って、特別感が出るでしょ」
思わず繰り返した織歌に、直人があっさりとそう言った。
「よくさ、小説とかアニメとかの呪文の詠唱の言葉で汝って二人称使われるでしょ。でもあれ、古語として考えると、御前よりも敬意がこもってないわけ。でも、現代の日常会話で御前は使われても汝は使われない。だから、汝の方が特別感があってそれっぽいとされるわけ」
「その汝も、もとは汝貴ということで、敬意がないわけではないですけど、意外と敬語に込められた敬意って時限性があるというか、擦り切れていくというか、手垢がつくというか……頻繁に使うと特別感と共になくなるっぽいんですよね。しかし、汝の場合、汝や汝はまだあるけど、汝系はどこに行ってしまったのか……」
「それ、どっちかというと、汝が役割語的に現代の語彙に取り込まれたからじゃない? 役割語的には汝って古めかしい、仰々しい、儀式めいてる二人称の呼びかけってところでしょ」
弘も直人も人の事は言えない。
そう思いながら、織歌は思いっきり脱線した二人の会話を聞いていた。
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