107 / 266
昔話1 ロビンの話
How many miles to Babylon? 6
しおりを挟む
「礼儀は欠かさない方がいいだろ?」
「そりゃそうだね。ガーデンテーブルセットはたぶん小さいのが階段下の物置に入れてるはずだから、勝手に探しとくれ。ティーセットはすぐ探す。お茶菓子は、こないだ買ったカラントのエクルズケーキがあるのと、ミンスミートと冷蔵パイシートがあるから多少のミンスパイなら作れる」
「礼儀はかかさず、とはいえ、人界の礼儀が通じるわけでないから、それでいいか」
こういうのは意識が大事なのである。
よくある昔話のテンプレだってそう。
余裕があるはずなのに旅人を一晩泊めなかった金持ちが没落し、余裕がなくとも精一杯に旅人をもてなした貧乏人が成り上がる、福徳を得る、というのはそういうことだ。蘇民将来子孫也とか。
そうと決まれば、である。
「そしたら僕が物置漁るから、シンシア、他お願い。ロビンはとりあえずこのまま待機で」
「とりあえず、まずはミンスパイをオーブンに放り込んでから、食器棚探すかね。ああ、あのドアで区切られた範囲なら、ロビンは動いて大丈夫かい?」
「そうだね。出入りはあのドア、それ以外は壁扱いのはずだし、仮にキッチンに及んでなくても、戻れば済むはずだから、様子見でシンシアの手伝いでもいいか」
リビングダイニングってこういう時、便利だよね。
空のカップを置いて、即座に立ち上がる。善は急げ。
「というわけで、僕は物置に行きます。一応庭にセットまでして、それから時間があればこっち手伝うよ」
「相変わらず切り替えが早すぎる……ロビンはこんな大人になっちゃダメだからね」
そんなシンシアの小言を背に、僕はリビングダイニングを出た。
ドアを閉めて貼ったメモを確認したが、剥がれそうとか落書きされたとかの形跡は一切ない。
流石唯一神教が莫大な権威を持つだけはある、と思いつつ、ひゅー、と口笛を吹く。
涜神的? 今更、今更。
「……うーむ」
いや、しかし。
階段下の物置のドアを開けつつも、いやにちりちりとした肌を蝕むような空気感。
「そこまで敵視されるかあ」
散々自分で自分は余所者と思ってはいたが、まさかこれほどまで敵地になるとは。
あ、あれかあ。敵の敵は味方理論で内と外の対立的に、味方と思われてたから裏切り者と思われてるのかあ、なるほどなあ。
物置内の豆電球に照らされた薄暗く狭いその奥の壁に、折り畳み式のガーデンテーブルとセットの椅子が立てかけられているのがすぐに見つかったが、その前には本だとか扇風機だとかが置かれている。脳裏を過るのは倉庫番パズルだ。
見渡すと、右手の壁には作り付けの棚があって、そこにいろいろ置かれているのが目に入った。
ちょっとこれは、うっかり頭上から何か落ちて来ないか、注意せねばならないな。
そう思った瞬間、
「あぶね」
ごっとん、と音を立てて転がったのは、なんかよくわかんない謎の木の置物だった。
ごっとんって、結構詰まってる音したぞ、やっぱり妖精ってヤのつく怖い職業なのでは。
「……汝自身を知れ」
気休めにそう言っておく。
妖精が妖精である理由。それは人ならず、また神ならぬが故である。
「そりゃそうだね。ガーデンテーブルセットはたぶん小さいのが階段下の物置に入れてるはずだから、勝手に探しとくれ。ティーセットはすぐ探す。お茶菓子は、こないだ買ったカラントのエクルズケーキがあるのと、ミンスミートと冷蔵パイシートがあるから多少のミンスパイなら作れる」
「礼儀はかかさず、とはいえ、人界の礼儀が通じるわけでないから、それでいいか」
こういうのは意識が大事なのである。
よくある昔話のテンプレだってそう。
余裕があるはずなのに旅人を一晩泊めなかった金持ちが没落し、余裕がなくとも精一杯に旅人をもてなした貧乏人が成り上がる、福徳を得る、というのはそういうことだ。蘇民将来子孫也とか。
そうと決まれば、である。
「そしたら僕が物置漁るから、シンシア、他お願い。ロビンはとりあえずこのまま待機で」
「とりあえず、まずはミンスパイをオーブンに放り込んでから、食器棚探すかね。ああ、あのドアで区切られた範囲なら、ロビンは動いて大丈夫かい?」
「そうだね。出入りはあのドア、それ以外は壁扱いのはずだし、仮にキッチンに及んでなくても、戻れば済むはずだから、様子見でシンシアの手伝いでもいいか」
リビングダイニングってこういう時、便利だよね。
空のカップを置いて、即座に立ち上がる。善は急げ。
「というわけで、僕は物置に行きます。一応庭にセットまでして、それから時間があればこっち手伝うよ」
「相変わらず切り替えが早すぎる……ロビンはこんな大人になっちゃダメだからね」
そんなシンシアの小言を背に、僕はリビングダイニングを出た。
ドアを閉めて貼ったメモを確認したが、剥がれそうとか落書きされたとかの形跡は一切ない。
流石唯一神教が莫大な権威を持つだけはある、と思いつつ、ひゅー、と口笛を吹く。
涜神的? 今更、今更。
「……うーむ」
いや、しかし。
階段下の物置のドアを開けつつも、いやにちりちりとした肌を蝕むような空気感。
「そこまで敵視されるかあ」
散々自分で自分は余所者と思ってはいたが、まさかこれほどまで敵地になるとは。
あ、あれかあ。敵の敵は味方理論で内と外の対立的に、味方と思われてたから裏切り者と思われてるのかあ、なるほどなあ。
物置内の豆電球に照らされた薄暗く狭いその奥の壁に、折り畳み式のガーデンテーブルとセットの椅子が立てかけられているのがすぐに見つかったが、その前には本だとか扇風機だとかが置かれている。脳裏を過るのは倉庫番パズルだ。
見渡すと、右手の壁には作り付けの棚があって、そこにいろいろ置かれているのが目に入った。
ちょっとこれは、うっかり頭上から何か落ちて来ないか、注意せねばならないな。
そう思った瞬間、
「あぶね」
ごっとん、と音を立てて転がったのは、なんかよくわかんない謎の木の置物だった。
ごっとんって、結構詰まってる音したぞ、やっぱり妖精ってヤのつく怖い職業なのでは。
「……汝自身を知れ」
気休めにそう言っておく。
妖精が妖精である理由。それは人ならず、また神ならぬが故である。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説



不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
【語るな会の記録】鎖女の話をするな
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会
通称、語るな会
「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。
美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話――
語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか?
語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか?
そして語るな会が開催された目的とは……?
表紙イラスト……シルエットメーカーさま
二人称・短編ホラー小説集 『あなた』
シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる