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昔話1 ロビンの話
How many miles to Babylon? 5
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◆
「あー、喋った。死ぬほど喋った」
「それは、こっちの、せりふだよ……」
天井を向いて、熱くなった脳を冷ますように大きく深呼吸する僕と、対照的に下を向いて、ぜえぜえと息を切らすシンシアを、ロビンは目を丸くして見ていた。
よろよろと立ち上がったシンシアがお茶を淹れるのを横目に、交渉の段取を脳内で詰める。
最悪、かたっぽの腎臓や片目や肝臓の一部ならいいかな、などと考えてから、妖精はヤとクとザのつくこわあい職業だったのか……などと他愛ない考えが出てきたところで、調子が戻ってきたと感じた。
「今の論理を元にロビンの力の性質を変じさせてー、ロビンのお母さんを取り戻してー、あー、交渉のために向こうも引きずり出さなきゃなー」
「たぶん口から考え事、ダダ漏れてるよ。日本語はわからんがね」
シンシアがそうツッコミながら、蓋を開けたシュガーポットと紅茶のマグカップを目の前に置いてくれた。
ぽとぽとぽと、と角砂糖を三個ばかり紅茶に放り込んだ僕を見て、再び目を丸くしてるロビンを横目に、ろくにかき混ぜないまま、一気に紅茶を呷った。
「……あっつ」
なんとか飲み込んだけど熱かった。
あと、熱いけどろくにかき混ぜなかったから、口の中が甘くてじょりじょりする。
「さて、どうしよっか、シンシア」
「あたしゃ、あんたのその切り替えの早さをどうしたもんかと思うよ」
ちびちびと、唇を湿らせるように紅茶を飲んでいるシンシアが言う。
「向こうと交渉するには引きずり出すか、カチコミかけるかなんだけど」
「語が強いよ……なんだか、妙に好戦的になってないかい、あんた」
「スイッチ、入ったからかな?」
準備はできたわけだしねえ、とロビンの方を見てから、窓に目を向ける。
「それに、夕方辺りまでなら僕が動くには十二分だ。夜だったら、ちょっとばかり向こうの領域に過ぎる」
既に日は傾きかけている。
なお、ロビンのおばあちゃんはあれから襲来してない。
「とりあえず、ロビンはニワトコとセットにしておくでいいよね」
「人ん家の庭木を勝手に、と言いたいとこだが、異存はないね。安全策を取る分には自由にしな」
「……サンザシ。サンザシ、庭の垣にしてたよね」
「話が飛び過ぎだよ」
僕にとって、思考は脳の潤滑油みたいなもんである。
だから、こういう時は一足どころか、二足、三足飛ばし気味である。
一足飛ばしはお前の通常運行だ、は誰に言われたんだったかな。
「あれだ、ヴァルプルギスの夜、ようは五月の初めと、万聖節の前夜と、あと、いつだっけ?」
「ああ、夏至だよ、夏至。あれだろ、サンザシの下が善き隣人達の国に繋がる頃だろ?」
そういうところの勉強はしてるんだよね、あんた。
呆れたまま、シンシアが言う。
「あと、ガーデンテーブルセットとかない? あとうっかり壊しても大丈夫だけどもてなすに相応のティーセットと、あとちょっとしたのでいいからお茶菓子と」
「あと、の注文が多い!」
シンシアのツッコミに、じっと僕らの応酬に合わせて首を動かしていたロビンがくすくすと笑った。
「あー、喋った。死ぬほど喋った」
「それは、こっちの、せりふだよ……」
天井を向いて、熱くなった脳を冷ますように大きく深呼吸する僕と、対照的に下を向いて、ぜえぜえと息を切らすシンシアを、ロビンは目を丸くして見ていた。
よろよろと立ち上がったシンシアがお茶を淹れるのを横目に、交渉の段取を脳内で詰める。
最悪、かたっぽの腎臓や片目や肝臓の一部ならいいかな、などと考えてから、妖精はヤとクとザのつくこわあい職業だったのか……などと他愛ない考えが出てきたところで、調子が戻ってきたと感じた。
「今の論理を元にロビンの力の性質を変じさせてー、ロビンのお母さんを取り戻してー、あー、交渉のために向こうも引きずり出さなきゃなー」
「たぶん口から考え事、ダダ漏れてるよ。日本語はわからんがね」
シンシアがそうツッコミながら、蓋を開けたシュガーポットと紅茶のマグカップを目の前に置いてくれた。
ぽとぽとぽと、と角砂糖を三個ばかり紅茶に放り込んだ僕を見て、再び目を丸くしてるロビンを横目に、ろくにかき混ぜないまま、一気に紅茶を呷った。
「……あっつ」
なんとか飲み込んだけど熱かった。
あと、熱いけどろくにかき混ぜなかったから、口の中が甘くてじょりじょりする。
「さて、どうしよっか、シンシア」
「あたしゃ、あんたのその切り替えの早さをどうしたもんかと思うよ」
ちびちびと、唇を湿らせるように紅茶を飲んでいるシンシアが言う。
「向こうと交渉するには引きずり出すか、カチコミかけるかなんだけど」
「語が強いよ……なんだか、妙に好戦的になってないかい、あんた」
「スイッチ、入ったからかな?」
準備はできたわけだしねえ、とロビンの方を見てから、窓に目を向ける。
「それに、夕方辺りまでなら僕が動くには十二分だ。夜だったら、ちょっとばかり向こうの領域に過ぎる」
既に日は傾きかけている。
なお、ロビンのおばあちゃんはあれから襲来してない。
「とりあえず、ロビンはニワトコとセットにしておくでいいよね」
「人ん家の庭木を勝手に、と言いたいとこだが、異存はないね。安全策を取る分には自由にしな」
「……サンザシ。サンザシ、庭の垣にしてたよね」
「話が飛び過ぎだよ」
僕にとって、思考は脳の潤滑油みたいなもんである。
だから、こういう時は一足どころか、二足、三足飛ばし気味である。
一足飛ばしはお前の通常運行だ、は誰に言われたんだったかな。
「あれだ、ヴァルプルギスの夜、ようは五月の初めと、万聖節の前夜と、あと、いつだっけ?」
「ああ、夏至だよ、夏至。あれだろ、サンザシの下が善き隣人達の国に繋がる頃だろ?」
そういうところの勉強はしてるんだよね、あんた。
呆れたまま、シンシアが言う。
「あと、ガーデンテーブルセットとかない? あとうっかり壊しても大丈夫だけどもてなすに相応のティーセットと、あとちょっとしたのでいいからお茶菓子と」
「あと、の注文が多い!」
シンシアのツッコミに、じっと僕らの応酬に合わせて首を動かしていたロビンがくすくすと笑った。
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